食の信頼向上をめざす会 活動内容
■ 「食の安全を考える〜浅漬けによる食中毒問題の教訓」2012年10月17日
2012年10月17日、ACU会議室(北海道 札幌)において「食の安全を考える〜浅漬けによる食中毒問題の教訓」が食の安全安心財団主催で行われました。企業、行政、一般市民など200名が参加し、異なる立場からわかったことを確認し、食中毒対策について話し合いました。
開会 食の安全安心財団理事長 唐木英明氏
戦後の混乱期には、年間数百人が食中毒で亡くなっていたが、2009年、2010年の食中毒による死者はゼロ。しかし、2011年にユッケ・生肉で11人、今年は浅漬けで8人の食中毒による死亡者が発生した。
食中毒に罹る方は年間3万人くらい。しかし、これは氷山の一角で、届け出のあった数であり、実際の食中毒患者数は500万人と厚生労働省研究班は推測している。
日本の農業では肥料に人糞を使っていたために寄生虫の問題があり、生野菜を食べることはなかったが、1960年代から、食肉消費の増加とともに生野菜を食べるようになった。このような流れの中で、野菜や肉を生でたべるときには注意が必要だということが忘れられてしまったことが、最近の食中毒の背景にあると思う。今日はそのことを皆さんと考えたい。
「食中毒問題への農林水産省の取組み」
農林水産省食糧産業曲食品製造卸売課長 長井俊彦氏
厚生労働省の立ち入り検査の結果、指導が必要なところが7割くらいという残念な状況。全日本漬物共同組合連合会(1100業者)の指導をし、衛生管理マニュアル(従業員教育、HACCP、平成13年策定)が遵守されていなかったが、8月にこれを徹底することとし、取り組んでいる。
漬物業者は1500あり、6次産業化、惣菜調理(バックヤード)を含めると数はもっと多い。組合に入っていない事業者を含めて、地方農政局、北海道農政事務所と衛生管理マニュアル周知に取り組み、漬物製造業者の衛生管理レベルアップをめざしている。
「浅漬けによる食中毒の原因と経過」
札幌保健所食の安全推進課食品監視担当課長 片岡郁夫氏
はじめに
食中毒の種類には微生物、化学性、自然毒があるが、今回の浅漬けは感染型の病原性大腸菌O157が原因だった。細菌性は食中毒の半分を占めている。
腸管出血性大腸菌(O157、O26などでベロ毒素を産生)はユッケなどの生肉由来が多いが、今回は浅漬けが原因だった。嘔吐、下痢から重症化して死亡例もある。75度以上の加熱で感染性はなくなる。今回はベロ毒素VT1型、VT2型の両方だった。
発生経過
8月7日 札幌保健所に届出(高齢者施設の入所者7名に下痢と血便)
苫小牧保健所にも別の施設から同じような届け出があった。
8月8日 高齢者施設の給食業者が同じ症状。症状と原因(食中毒か感染症か)の調査を開始。共通食として「白菜きりづけ」が浮かび上がった。
8月9日 夕方、製造施設への立ち入り検査を実施。
8月11日 O157の調査をしていることを広報した。
8月13日 検食、患者と食品従事者の便(2名)からO157が検出された。
8月14日 O157の分子疫学調査結果が一致した。製造業者は営業禁止、流通先への通知、市販されている製品の回収を行なった。8月2〜4日に製造された食品が原因と判明し、そのことを広報した。北海道の10保健所管内、東京、山形などで被害が発生。それらは道内で食べた人だった。
10月17日現在 発症者は169名、死亡者は8名。
15施設で製造していた。調査により、3施設で塩素殺菌がされていなかったことがわかった。道庁で説明会を実施、道内の情報共有を行っている。衛生部門や製造部門ともに対策会議を開き、安全確保と消費拡大を図っている。厚生労働省が全国の製造業者の立ち入り検査結果報告が命ぜられた。
9月7〜8日 再現試験を実施し、原因究明をした。
10月1日 厚生労働省薬事食品衛生審議会 食中毒・食品企画部会で北海道の保健所から、事件の報告を行った。
原因究明
製造は、食材の野菜の水洗、殺菌、スライスする。白菜は次亜塩素酸ナトリウムで殺菌し、漬け込み、出荷する。殺菌の有効性、塩素濃度についての試験を行なった。従事者汚染、全材料の汚染の遡り(流通過程を含めて)調査を実施した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が目分量で濃度測定がされていなかったが、殺菌効果は100分の1〜1000分の1に菌数は減少していた。しかし、同じ殺菌槽を10回くらい使うと殺菌力が落ちる。白菜の鬼葉(外側の葉)から大腸菌が検出された。
再現試験では原材料、製品からは不検出だったが、ホース、まな板の汚染度が高かった。
調査の結果
・ 汚染区域と非汚染区域の区別なく、各行程で汚染の可能性あった。
・ 次亜塩素酸ナトリウムの濃度管理が不十分だった。
・ 樽の洗浄に次亜塩素酸ナトリウムが使われていなかった。
・ 器具の用途分けがされていなかった。
・ 床に直置きのホースを拾って、樽を洗うなど従業員の意識が低かった
「付けない、増やさない、やっつける」の食中毒対策三原則に従い、加工、流通で適切に殺菌されないと、調理・消費されるまでに菌数が増加する。
漬物には漬け込み後に熟成させて保存性を高めたものと、一夜漬けのように保存性の乏しいものがある。
10月の改正で、低温管理、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌・十分な水洗の義務付け
安全安心の取組み
次のような取り組みを行い、衛生管理の出来ている業者を応援し、営業を伸ばしていきたい。
平成16年 札幌市食品衛生管理認定制度「しょくまるくん」
平成23年 食の安全・安心推進ビジョン
平成21年 さっぽろ食の安全・安心推進協定 業者と市長で協定締結
「食中毒はなぜ起きるのか」
岩手大学名誉教授 品川 邦汎氏
予想されたリスク
浅漬けのリスクは過去の事件発生から予想されていた。野菜自体に大腸菌は保有してないが、動物や人を介して、特に牛などの糞便中の腸管出血性大腸菌が汚染したのだろう。牛は本菌を保有していることから、牛レバーやユッケを禁止することになった。食にゼロリスクはありえない。食中毒を起こさないようにするため、食の安全確保には、原料(動物、野菜など)生産から食卓までバトンリレーで行なわれており、関係者全員で注意することが重要である。
腸管出血性大腸菌
消費者の4つの基本的な権利(安全、知らされる、選択する、意見を反映させる権利)が、1962年ケネディ大統領の消費者保護に関する特別教書に述べられており、権利には義務がある。日本には、食品安全基本法があり、国民の健康保護、食品供給の各行程で安全性を確保し、健康被害を未然に防がなくてはならないとしている。国、地方自治体、業者に責任があり、消費者は責任でなく役割がある。
食中毒の見える化
食中毒患者が発生すると、医療機関から保健所、地方自治体、厚生労働大臣に報告の義務がある。原因物質としてはカンピロガクターとノロウイルスによるものが最も多い。
腸管出血性大腸菌感染者は、症状を呈していないが本菌保有者役3500〜4500人/年、5発症者は約1600〜3000人/年で、これに対し食中毒患者は数百人。腸管出血性大腸菌は食物や水を介して経口感染し、重症化して死亡することがある。
大きな誤解
飲食店等で提供された食品については、今の消費者は安全だと思っている。焼肉屋ではホルモンが他の食肉・内臓肉と一緒の皿に乗って提供され、トングの使用を徹底することが重要。
O157は腸管出血性大腸菌の型を示すもで、「O」や「H」は抗原の型で、大腸菌の血清型の分類。世界でO157による感染者が最も多い。発症のための最少菌量は11〜50個/ヒト。
潜伏期間は平均3〜5日間。今回の事件では、白菜の中に汚染したものがあって、洗浄等で水につけ、それにより全体に菌が広がったのではと考えられる。
高齢者に多く死者が出た。高齢者、子供、免疫が低くなっている人は、発症しやすい。1999年〜2008年では高齢者、子供の死者が多く、ユッケの衛生基準作成では死者をゼロにすることも目標に設定された。
大腸菌はどこにいるのか
牛のO157は、季節により異なるが10%程度の牛が保菌している。と畜した家畜は獣医師が一頭づつ調査しているが、ウシなどの堆肥では発酵が不十分(発酵熱で菌が死んでない)の場合、有機栽培の野菜などに使用され汚染される。また、肉の表面に菌が汚染されるが、食肉製品のハンバーグ、結着肉などでは中心部まで菌が汚染する。牛ユッケ、レバーは厳しく規制されたが、焼肉などの焼き方なども気をつけなければならない。
牛の腸管、唾液には保菌されており、ふれあい牧場での感染にも注意が必要。
汚染経路を絶つには、生産から消費まで食品に菌を汚染させない、増やさないようにすること。
・ 原材料の受け入れ時に清潔な材料を受け入れ、製造・加工する。
・ おいしさの手順書でなく、衛生管理の手順書を作って守る。
・ 流通では低温管理してしっかり届ける。
家庭でも、3原則を守る。
・つけない(スーパーなどでは肉を最後に買い、肉汁が他の食材に付かないようにする。その他、肉汁が野菜につかないようにする 冷蔵庫の中は清潔にする まな板を代える 食器の消毒 手洗いを十分にする、など)
・増やさない(冷蔵、凍結など低温管理を十分にする)
・やっつける(加熱などして、菌を殺す)食肉などを生食する場合、十分をつける。
安全で衛生的な食品を生産するためには、農場から食卓まで一貫して衛生管理を行うことが重要。
「浅漬業界の現状と課題」
北日本フード格式会社会長・北海道漬物類組合会長 酒井信男氏
今回の浅漬けによるO157による集団食中毒で170名にも及ぶ発症者が出たことで、消費者、行政、関係者に対して業界を代表して心からお詫びする。未だ入院されている方には早期の回復を願い、残念なことにお亡くなりになられた8名の方には心からご冥福をお祈りする。(80・90・100歳)
4歳の孫を亡くした方の言葉を胸に刻み、2012年9月に組合員22社・賛助会員39社で北海道漬物類組合を結成した。目的として、二度と今回のような事故を再発させないために以下を制定した
1)漬物に携わる経営者及び全従業員の安全衛生に対する質的向上を目指す
2)漬物類の安全な製造体制の確立
3)漬物業界の社会的地位の向上
事故後は約20〜30%まで売上げが減少し、今でもその状況が続いている。
漬物市場は需要と供給のバランスが崩壊しているのに、未だに高度成長期の時代のままのやり方で大量生産から抜け切らず、売るが為の価格破壊が続いている。早期に適正な需要と供給のバランスを確立しなければ業界の総負けに繋がっていくだろう。
取引先は価値ある商品を適正価格で買いたいと希望しているのに、我々漬物屋は他社のモノマネで価値を落として価格を落とし提案している現状である。結局バイヤーは同じ物なら価格の安いものを買うのである。ここから脱皮しなければならない。
私は、北海道漬物類組合会長として、組合を通じて経営者に食品衛生法、JAS法、漬物の衛生規範等を勉強し、食品衛生7Sという基本を徹底させることが、安全対策と考えている。私も他事業者トップもこれらの事を実行していくことが今回の事件で被害にあわれた方への誠意であると思っている。
「顔の見える関係から信頼へ」
北海道消費者協会・苫小牧消費者協会会長 橋本智子さん
苫小牧はミートホープ事件があった。当時は行政の縦割りが問題だったが、今回は横の連絡が働き、縦割りをみなおす教訓は生きていると思う。
今回は、高齢者施設で起ったために早く発覚し、対策ができたのではないか。一般の流通で同じようなことが起ったときに、早期に原因究明ができるように横の連絡を円滑にしなくてはならない。
漬物の匂い、塩分低減の風潮で浅漬けが人気であるが、核家族化の中で自宅で作らず浅漬けを買うようになって、今回の事件になったのではないかと思う。
すぐに情報開示ができて、食べた人への注意喚起や回収ができた。
次亜塩素酸殺菌を知らなかった。次亜塩素酸の濃度が目分量だったとは驚きだった。今回は薄すぎたかもしれない。逆に濃すぎた時に十分に水洗されていないのではないかと不安になった。
ミートホープや漬物の製造工程に問題があり、製造工程のあり方を消費者も考えるべき。工場見学が好きでよく出向くが、そこで、安心を得ることが多い。農家のおかあさんたちの工場を見せてもらった時、入荷から出荷まで一方向にするという保健所の指導を受け、そのとおりにやっていた。
再現試験では「一方向」のルールが守られていなかったところもあるという。原因は究明できなかった。見学を受け入れるような会社は食品管理に自信があるのではないかと思う。工場見学は、情報共有で安心につながるのではないか。
「生鮮野菜の安全性確保の再徹底」
JA北海道中央海農業振興部長 小南裕之氏
北海道産品が消費者の信頼を得るには、味、鮮度に加えて安全性確保が大事。GAPなど各段階でチェックするシステムを採用している。
今回の事故の被害は深刻なものと受け止めている。特定の事業者の衛生管理の不徹底に問題はあるが、生鮮野菜の安全性確保の再徹底をはかっている。
JAを通じて、道農政部の安全確保10か条を生産者に周知している。
収穫前の手洗い、収穫物の容器を地面におかない、出荷専用車両を決める、きれいな水での収穫物の水洗
白菜産地もダメージを受けた。盆明けに価格は26円/Kgで平年の価格の6割。10月に入っても価格は低迷中。白菜応援セール、漬物フェスタを行って、消費回復を図っている
パネル討論
大きくふたつの問題が話し合われました。
◆次亜塩素酸による殺菌
野菜は殺菌不要という誤解に問題があるようだが、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌なしには、事業者としては、浅漬けを扱うことはできない。消費者には次亜塩素酸殺菌に反対している人もいるが、大事なことは、次亜塩素酸は万能ではなく、よく水洗(菌を落とす)し、殺菌する工程をきちんと守るようにする。
札幌市保健所は立ち入り検査をしたり、殺菌に関する情報提供を行っている。次亜塩素酸ナトリウムは食品添加物、水道水、乳幼児用製品でも使われているものだということも理解してもらいたい。
◆工場見学の受け入れは安心につながる
消費者は「工場見学を申し込んだときに受け入れてくれると、安全管理ができている事業所だと思う」という消費者の意見があった。これに対して、食品を扱う場所に一般市民を入れるわけにはいかないので、見学コースを設置していない所は見学をお断りすることもあるので理解してもらいたい。
そのような理由を、消費者、食品関連事業者、行政などの関係者が共有することが重要ではないか。
会場からは、まじめな漬物が多くある中で、ひとつの事件で漬物や農業に影響が及んだことは重大。スーパーにも買い付けの責任があるし、高齢者施設の食の仕入れ体制にも問題はあるが、まじめな事業者しっかり応援していきたいという発言が複数ありました。「業界団体の自主的取組みが大事!食の安全は農場から食卓まですべての工程で必死になって守らないと、食中毒は起ることを肝に銘じてほしい」という唐木理事長から結びのことばがありました。
■ 「食と放射能を考える意見交換会inふくしま」2012年9月3日
詳細
2012年9月3日、福島県郡山市のビッグパレットふくしまにおいて、標記意見交換会が、食の安全安心財団により開かれ、250名が参加しました。冒頭、唐木財団理事長より「昨年3月から、意見交換会を開いてきた。1年半前は食品の汚染が次々見つかり悲惨な状態だったが、今はかなり改善されている。今の課題は福島県産の農・畜産物の風評被害対策。今まで7回は東京で開催してきたので、福島の方と意見交換を行い、共考の場としたい」という言葉がありました。
話題提供 : 「食べて応援しよう」
農林水産省食料産業局小売サービス課 外食産業室室長 山口靖氏
2012年4月12日「自主検査における信頼できる分析について」を公開した目的は、@統一的な方法を使おう、A食品衛生法の新基準を遵守してほしいであり、検査自粛のお願いではない。8月23日「復興に向けた被災地産品の販売促進について」を日本百貨店協会、日本スーパーマーケット協会、学園祭を行う大学などに通知し、セブン&アイなど企業から反響があった。「食べて応援しよう」(2011年4月15日〜2012年9月3日)に、登録された取り組みは257件で、これを積極的に続けていきたい。
講演1:「福島の農林水産物の検査体制と検査結果の状況」
福島県農林水産部環境保全農業課長 佐藤清丸氏
現在、農業総合センターではゲルマニウム半導体検出器を10台設置して分析している。昨年3月から今年7月末までに約450品目3万点を分析した。昨年9月以降、器機を増設し、検査件数も増え、牛肉は昨年8月末から全頭検査を実施している。
露地野菜や原乳では、当初、放射性ヨウ素が検出されたが、2011年6月以降は、ほとんど検出されていない。放射性セシウムは、野菜やウメ、キノコ類で検出された。魚介類は当初ND(検出限界以下)だったが、生物濃縮で4月以降、放射性セシウムが出た。
去年7〜3月、17,330検体(農林水産物、畜産物)を調べたが、NDが7割。セシウムは土壌の粘土に吸着するので、作物に吸い上げられることはないこともわかった。果樹については、冬に高圧洗浄を行い、今年は、桃はほとんどND。農家の努力の成果だといえる。 水産物は自粛していたが、試験も行われている。
安全安心の確保のための取り組みとして、主要産品は出荷前にゲルマニウム半導体検出器で検査し、基準値を超えた場合は出荷制限をしている。また、産地では自主的な簡易検査が行われ、一定の値以上が検出されると県の施設で再検査する。米は、玄米30Kg袋ですべて検査し、基準値を超えたら出荷しない。玄米袋には検査済みのラベルを貼る。精米後は、検査済みの玄米を使用していることを標記するラベル貼りを開始。学校給食、日常食(陰膳調査)、家庭菜園の検査もしている。一定以上の検査値が出たら、モニタリング対象とする。検査結果は毎日HPで公表している。
今年も福島県の検査体制を維持し、販売促進活動、風評被害払拭の広報活動を進めていくので、理解と協力をお願いします。
講演2:「一生産者として、どんな気持ちで過ごしてきたか」
公益社団法人日本農業法人協会元副会長・有限会社降矢農園取締役 降矢セツ子さん
一生産者として原発事故以後、どんな気持ちを過ごしてきたかを交えて話したい。3月11日、私の農園の生産物は市場への途上だったが、戻ってきた。その後、5割体制で生産するつもりだったが、原発事故の問題が起り、懸念した風評被害が起った。3月15日朝、従業員に自宅待機を告げた。私は、状況がわからないまま孫を連れて石川県に避難。暑くなることを心配してハウスの窓を空けて逃げたので、中に落下物が入ってしまった。取引先から放射性物質のデータを要求され、検査機関に出した。事故後に播種した作物からは検出されなかった。どうせ、取引をしてもらえないと思ったが、検出されなかったものは受け入れられ、その取引先とは2011年4月初めからずっと続いている。消費者が嫌がるから、福島との取引を止めたところがほとんど。取引が続いていたのに、お客から社長へ直接、苦情が来たとたん、福島産品を棚から下ろされた例もある。生産者はデータの安全は伝えられるが、安心してくれとは言えない。
基準値になったが、生産者は何をすればいいのか。風評被害で福島産品の売り上げは元に戻らない。お客さんは本当に福島産品を要らないといっているのか。福島と取引していたバイヤーは、事故直後、他の取引先を苦労して見つけたから、福島が安全になったからと言って、すぐには戻せないだろう。かつて、カイワレのO157汚染によって売り上げは15%まで落ちた。訂正記事が出ても、未だに回復しない。誤解は解けない。
今は検査し、業者の「安全の数字競争」になっただけ。弊社も4Bqまで測れる器機を購入し、測ったところ、1以下だった。
しかし、自分が福島に住んでいなければ、同じだったと思う。消費者はどうしたら、安心するのだろう。生産者のことを知っている人は、安心してくれるのではないだろうか。自分たちの仕事や製品をどうやって知ってもらうかが大事。実際にカイワレ以降、私たちを知っている人が支えてきてくれてきた。
農家は除染のために、大事な土を5センチ削土したり、長年育ててきた果樹の幹を削りたくない。5センチを元に戻すのに100年くらいかかるかもしれない。土が大事だから、他に移動したくはない。「他県に行く農家がいるから、福島は汚染されている」と言われるのだという人もいる。
農家は被害者なのに、マスコミ報道では、セシウムが出ると、いつも犯人探しばかりしている。考え方を含めて、支援できる部分があればよろしくお願いします。
講演3:「コープふくしま陰膳調査から考えられること」
生活共同組合コープふくしま専務理事 野中俊吉さん
放射能汚染の見える化(基礎学習と測定の繰り返し)を行い、得られた事実から自分のモノサシで判断できることが福島県民にとって安心への近道だと考えている。また、見える化の事実を拠りどころにして福島から大胆にうって出ることが、福島の第一次産業を支え、加えて原発事故を風化させない効果があると思う。
福島の人には、強制避難されられた人、県外に逃避した人、避難したくてもできない人がいる。コープふくしまでは、日本生協連から届く物資などを避難所に届けた。
伊達市の学校や冨成幼稚園で除染活動を行い、0.1マイクロ下がったので、翌日から園庭でこどもを遊ばせているという。郡山の住宅で犬走りのコンクリート表面を除染し、10分の1に下がった。除染カーの無料貸し出しも始めた。
ガラスバッチが配付されているが、3ヶ月つけた孫は1ヶ月バッジをつけたおじいさんより3倍高いと悩んでいた。調査期間が短いためだと説明したら安心したことがあった。そういう声を拾い出して、応えていかなくてはならないと思う。
昨年度100家庭を対象に、陰膳方式で調査し、10件で検出されたが、ごく微量であり、リスクは小さいことがわかった。「こういう検査を続けて、自分自身で安心したい」「他県のものも調べてほしい」という声が届いた。継続し、調査数を増やして信頼できるデータにしたい。中には「福島は一番よく検査をしているので福島県産を買う」と言う人もいる。
福島応援隊の活動を始めた。検査でOKなら買うという人もいて、福島の野菜ボックス/500円を送ったりしている。コープ東海は、桃の開花からずっと福島をウォッチして45,000パックの注文があった。
まとめとして、「7万Bq食べると1mSv になる」ことをめやすにすると、自分でおよその計算ができる。内部被曝を恐れるより、環境除染を急ぐべき。また通りすがりともいえるような学者の話を鵜呑みにしないなどが重要だと思う。
放射性物質のカリウム40はすべての成人体内に4,000Bqあり、食事調査のセシウム検出値を加えても「誤差の範囲」だと思った。これがわかりやすい。
講演4:「福島の内部被ばくの現状」
福島県立医科大学放射線健康管理学講座助手 宮崎真さん
私は郡山で生まれ、ずっと暮らし、今も郡山に住んでいる。3.11の時、妻は妊娠8週だった。2011年9月末に男女の双子が生まれ、今も元気にともに暮らしている。今、放射線被ばくに対してこういった活動をしている動機・原点は、この子どもたちにある。
内部被ばく測定機(WBC:Whole body counter)は、体内にありガンマ線を発する放射線物質の量と種類を見分けることができる。現時点で、体内からは放射性セシウム(セシウム134および137)、放射性カリウム(カリウム40)の三核種が検出される可能性があるが、WBCで検出できるのは、これら核種のあくまで「測定日当日」の体内量である。このうち放射性カリウムは天然の核種であり、毎日の食事にも含まれ、事故と関わりなく必ず体内に存在する。一方放射性セシウムについては、体内から検出されたとしても、いつどのように体内に入ったかは推測に頼る必要がある。なお、放射性ストロンチウム、プルトニウムはそれぞれガンマ線を放出しないためWBCでは検出できないが、今回の事故によるストロンチウム90、プルトニウムの放出はそれぞれ放射性セシウムに比べて非常に少ないことがわかっているため、計測および防護の考え方として、放射性セシウムを検出し、取り込みを少なくすることに焦点をあてることは妥当と考える。
成人が放射性セシウムを摂取した場合、約3ヶ月で半分が主に尿から排泄される(生物学的半減期)。10才くらいだと約50日、乳児は2?3週間と、成人に比べ若いほど代謝がよく排泄が早い。もし毎日等量の放射性セシウムを摂取するという仮定の場合、ある濃度で摂取量と排泄量が平衡となるが、大人より子どもの排泄量が多いため、平衡量も子どもの方が小さくなる。よって、同じ食卓を囲む家族の場合、子どもよりも大人をWBCで測定した方が、もし食事中に微量の放射性セシウムが含まれている場合には、その実態がより明らかになりやすい。
ひらた中央病院のWBC検査結果を一例として示す。同院は、福島県内でほぼ唯一、自由に予約してWBC検査を受けられる。同院の2011年10月から2012年5月初旬までの結果では、検出限界未満は被検者(15,230名)の9割弱と非常に多い。
2012年3月から検出限界未満の割合がぐんと上がっている(約95%)。これは検査衣に着替えてからの検査を徹底したためで、着替えをしていなかった時期は、有意検出者の中に、衣服にごく微量についた放射性セシウムを検出した方が多いと考える。また、有意検出者の再検査をすると、全員の数値が減少傾向で、追加被曝がほとんどないことがわかる。なお、着替えが始まってからの検査では、子どもでは99%以上の方が検出限界以下だった。
まとめとして、ひらた中央病院でのWBC検査では、放射性セシウムの内部被ばくは、預託実効線量として0.1mSvを超える人はほとんどいないことがわかった。検出限界以下の方が極めて多く、WBCで検出し得るほど空気から被ばくしているということも考えにくい。有意検出者された人に尋ねると、放射性セシウム含有量が多めのものを継続摂取していたなど、検出される事情が特定できる人がほとんどだった。ただし、ひらた中央病院でのWBC計測は、避難者や十分な防護をしている人、子どもなど、生活の中で放射性セシウムを日常的に摂取する機会が少ない集団を見ていると思われる。今後は福島県でも、自家消費を行っている方々の計測を行い、実態を掴むことが必要と考える。
なお、成人が毎日3Bqの放射性セシウムを摂取した場合、1年後には300Bq/bodyの検出限界を持つWBCで有限値が検出されるようになる。コープふくしまが行っている陰膳調査と対比すると、食卓に毎日3Bqの放射性セシウムが含まれる消費者がほとんどいないことがわかる。つまり「食べる量」を示す陰膳調査、「食べたあとの体内量」を示すWBCが、ともに結果として矛盾していない。セシウム137を1年間摂取し続けてWBCで300Bq検出された場合の被ばく量は約23μSv(現在のセシウム134、137の存在比率を考慮した計算)。実際に検出限界に近い量の放射性セシウムが検出されたとしても、被ばく量としては非常に小さいものであることも言い添えたい。
一方、1年に1mSvの内部被ばくに相当するセシウム137の摂取量は、1日約200Bqである。現在の日常食で、毎日200Bqのセシウム137を摂取する、というのは、現状況ではむしろ非常に難しいことといえる。例えば、炊いた結果100Bq/kgとなるご飯を1年継続して食べた場合でも、その預託実効線量は0.09mSv。また、100Bq/kgの玄米がそのまま100Bq/kgのご飯になるわけではない(実験では100Bq/kgの玄米→ご飯一膳約1.4Bqとされる)。WBC、陰膳調査の結果を併せてみてわかることは、消費者としてのリスクは福島県であっても他県であっても大きく変わりはない、ということ。少なくとも、福島県内のスーパーで流通しているものを食べて大きく内部被ばくをすることは考えにくい。
結論として、WBC検査結果からみて、福島で消費者として生活する場合、大きな内部被ばくをする心配はない。ただし、これまでと同じ生活を営み、生産し生計を立てている大人からどの程度検出されるのかは、慎重なモニタリングが必要となる。また、その結果についての説明も極めて重要で、数字のみを伝えられて悲観する人が多く出ることも防がなくてはならない。説明者の充実も危急の重要課題である。
パネル討論
唐木理事長の司会のもと、講演者と新たに加わったパネリスト、会場参加者により話し合いが行われました。
「安心できる食と農」
パルシステム 生協連合会 産直商品部 高橋英明さん
パルには、130万世帯が加入している。自主基準を持っている。海藻・キノコのみが政府基準と同じで100Bq。水、牛乳、乳児用食品は10、青果・魚介類、肉類、卵は50で政府基準以下。キノコが政府基準と同じなのは、原木シイタケのほとんどは福島産だから。
毎週、組合員に放射性物質の検査情報を提供。自主基準以下ならば、NDでなくても流通させている。実際に出ているのは福島県以外の果実、米だったりしている。セシウムは自然界にない放射性物質なので、より低い基準値にした。
パルシステムはすべて産直。21品目の野菜、8品目の果実で検査をし、公開している。
「パルシステム100万人の食作り運動」として、産地の放射性物質低減に向けた取組みをしている。土壌、堆肥、国内産飼料(イナワラ、飼料米など)の検査をし、その費用の援助をしている。セシウムを吸収しないようにするためのカリウムの施肥の助成をしたり、果樹の高圧洗浄を支援したりしている。他に福島応援の広報を行っている。
「3.11以来、食品に関する報道をしてきたスタンスは」
日本放送協会 解説委員室 解説委員 合瀬宏毅さん
O157、鳥インフルエンザ、BSEは、海外の状況などをみて、ある程度予想されていた。原発のエネルギー問題に関する取材経験もあったが、ベクレル、シーベルトの正確な意味や、食品衛生法の基準値(出荷制限、摂取制限)が無かったことは事故後に知った。どのマスコミも出てきた情報を、同時並行的に勉強しながら整理して伝えてきたのが実態だと思う。基準値を下回る数値を気にしたり、自主検査をするなどの消費者の対応は、市場には流通していないはずの基準超えの食品、例えばお茶、牛肉が出てきたことが原因。その背景には、政府への不信感があると思う。
情報は出すタイミングと内容がとても重要。聞く気が無い視聴者には何を言っても受け入れてもらえないことがある。今は、セシウムの影響は自然放射線のカリウムから考えると誤差の範囲だと思えるようになってきていると思う。カリウムの情報は早くから食品安全委員会や厚生労働省から出ていたが、その当時は受け取れなかった。10-11Bq程度のセシウムだけを議論することの無意味さを議論した方が良いと思う。
「今までの混乱をどう捉えるか」
消費者 三浦郁子さん
栄養士、食生活改善推進委員などをしている。原発事故後、野菜を避ける傾向があるが、栄養面の問題の方が大きいと思う。事故後、自分の欲する情報を提供する講師を招いては、バラバラの講演会が開かれる状況が続いた。原発事故災害本部から講師が派遣されたのは翌年の1月だった。
冬の間の徹底除染の苦労が、秋の収穫物では報われるようにと思っている。また家庭内でも世代によって、野菜を食べるのがいいと思う世代と、危ないから避けたいと思う世代があるなど、ギャップもある。先日、私の買ったアオバタの豆腐を測ると60Bqだった。輸入の遺伝子組換えダイズの方がいいのかと考えてしまった。
より多くの情報が必要だと思う。不安の中で、チェルノブイリ事故のときにドイツに駐在していた友人が、「当時、家族で何でも食べていたけれど、今は健康」だと言った言葉が一番心強かった。私たちは、外部の人が思うほど検査センターに食品を持ちこんでいないし、関西から送ってもらっても口に合わなかったりして、郡山の人は現状をそのまま受容していると思う。自分なりに安心したいと思う。
その後、講演者も交えた討論では・・・
- 応援フェアが行われるが、一体何を応援してもらったのだろう。遠方に行く交通費・宿泊費、低価格での販売、結局、持ち出しの多い1年だった。県から助成があるうちは、応援フェアに出かけたが、今は出向く生産者は減っている。まともな価格で買ってほしい。引き続き買い支えてほしい。福島県の人に以前のように買ってもらいたい。まず、行政の職員は率先して買ってほしい(降矢)。
- 食品の放射能は、高い視聴率のとれるテーマでなくなっている。これは初め騒いでいたBSEとよく似た状況。全体として、落ち着いてきていると思う(合瀬)
- 実際の値段では、2011年山形のサクランボは4,000円、福島は5,000円だった。今年は福島2,500円で、昨年は応援価格だったのだろう。阪神大震災の経験者に、「マスコミに取り上げられなくなった後が地獄」だといわれた。しつこいぐらい行政などに訴え続け、主体的に頑張るしかないと思う(野中)
- 地元からは、おさまってきているので報道しないでほしいといわれるので、他のいいものを見つけて報道するようにする(合瀬)。
- 会場参加者1:基準値を厳しくしたり、さらに厳しい自主基準をつくるのはおかしい。NHKは受信料をとっているのだから、風評を抑える役割をしてほしい。
- 実際には福島産品は基準値以下だが、価格が安い。カリウムは自然だが、セシウムは人工だから嫌だという人がいる。基準値を下げて行くことの意味付けはこれから議論すべきだと思う(高橋)。
- 会場参加者2:野中さん、降矢さんの話に感銘を受けた。私の住む三重では、既に過去の事になっている。検査をすると、危ないから検査しているという印象を受ける。風評問題は放射能に移行しただけで、「根底の無添加思想(食品添加物無添加、無農薬というように、安全性審査を経た科学技術の成果を避けたいと思う)」こそ、厳しく考えて行くべき。
- 福島の産品が安いのはなぜか。野中さんが言われたように、消費者は自分のモノサシで考え始めているのに、流通の価格付けの操作に問題があるのではないか。適正な価格はどうやれば決められるのだろうか(伊藤)。
- 生産者も消費者も。放射能検査をしてほしいという。小売には福島産を避けるケースと、検査をしていて安全ならいいという場合がある。行政は応援隊を増やすなどの努力を続ける。その中で時が解決する部分もあると思う(佐藤)。
閉会のことば
食の安全安心財団 理事長 唐木英明
客観的には安全であっても、それをみんなで伝えていかなければ意味はない。それが風評被害対策ではないか。今後、NDは増えていくだろう。基準値を厳しくしていくことの是非は次の課題としたい。
尚、この報告書はくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )にも掲載されています。
■ 食品表示を考える〜食品表示の一元化と適用範囲の拡大を巡る議論〜2012年5月18日
2012年5月18日、ベルサール半蔵門にて、食の安全安心財団・食の信頼向上をめざす会共催により、標記意見交換会が開かれました。
講演1:「食品表示一元化に向けた検討の状況とその方向について」
消費者庁 食品表示課 企画官 平山潤一郎氏
食品表示の一元化については、より多くの消費者が店頭で選ぶときにわかりやすく役に立つ表示を目指し、2011年9月から検討会において御議論いただいているところ。なお、2012年6月の報告書取りまとめに向けて全10回の議論を予定している。食品表示の一元化については、より多くの消費者が店頭で選ぶときにわかりやすく役に立つ表示を目指し、2011年9月から検討会において御議論いただいているところ。なお、2012年6月の報告書取りまとめに向けて全10回の議論を予定している。
中間論点整理とそれに対する御意見
- 2012年3月に、それまでの御議論を踏まえて「中間論点整理」を取りまとめ、4月まで意見を募集したところ、1084件の御意見が寄せられた。
- 新たな食品表示制度の目的については、「消費者の権利」を明記すべきとの御意見が多かった。
- 表示事項については、「表示事項を絞り込み、文字を大きくする」という御意見がある一方で、「義務表示事項の範囲を広げていくべき」との御意見があった。
- 食品表示の適用対象となっていない販売形態(量り売り、外食など)については、アレルギー表示を求める御意見が多かった。
- 加工食品の原料原産地表示については、「従来の要件に従って検討していくべき」「事業者の自主的取組を推奨する方向で行うことが適切」との御意見がある一方で、「原則としてすべての加工食品に表示義務を課すべき」との御意見があった。
- 栄養表示については、「義務化すべき」との御意見がある一方で、「現行の制度を維持すべき」との御意見があった。
論点についての検討方向(たたき台案)
- 食品表示の目的については、消費者基本法に示された消費者の権利を踏まえつつ、食品の安全性に関わる情報が消費者に確実に伝えられることを最優先とし、また、品質など消費者の選択に資するために重要な情報とすることを提案。
- 表示事項の変更については、慎重な検討が必要であるが、検討に当たっては、優先順位を考慮して検討することを提案。
- 表示を分かりやすくするための取組については、情報量にかかわらず、可視性を向上するための方策を提案。
- 食品表示の適用範囲については、外食や量り売りにおいて、アレルギー表示に係る情報提供が可能となる方策について検討することを提案。
- 加工食品の原料原産地表示については、これまでの「品質の差異」の観点にとどまらず、原料の原産地に関する誤認を防止し、消費者の合理的な商品選択の機会を確保する観点から義務付けることを提案。
- 栄養成分については、原則義務表示とした上で、栄養表示が困難な事業者については義務対象から除外して自主的取組を推奨することや、一定の場合に容器包装への表示を省略できることとすることについて検討することを提案。
講演2:「食品表示の機能と制度の法的位置づけについて」
宮城県産業技術総合センター 池戸重信氏
考え方
食生活が変化し、自給できない食品は海外からのものを使うことになる。
いろいろなところから食材を得ていくうえで、表示は健全な食生活のために不可欠。
表示は消費者の知りたいことを伝え、供給側が知ってもらいたいことを伝える重宝な情報伝達媒体。
生産者から消費者までのつながりである「フードチェーン」が複雑になり、生産者と消費者の間が広がり、不明瞭で消費者の不安が大きくなる。その不安を払拭するために、表示に対する依存度が高まりつつある。
表示の実態
表示は、国産品の差別化のため、国際的調和を図るため、表示偽装事件の増加防止のためなどにより規制の強化が行われてきた。
食品の産地偽装は、平成19年4件から平成21年には34件になり最近落ち着いてきて12件。それに伴って検挙される人員数は増減している。
「消費者基本法」が平成16年6月に制定され、安全が確保され、必要な情報が提供され、消費者は適切な選択ができ、消費者教育を受けられる権利などが基本理念として記されている。
「食品安全基本法」では、国民の健康保護が最優先とし、食品供給行程の各段階で適切な措置が行われ、食品関係事業者は正確で適切な情報を提供することが定められている。食品安全基本法の第18条に定められているように、表示制度が適切に運用され、 消費者に食料の消費に関する大切な知識を与えるものであるべき。
食料・農業・農村基本法では、基本計画の策定が決められている。具体的には、原料原産地表示義務付けの拡大、インターネット販売の検討、生産者による品質管理、消費者対応情報の積極的提供、消費者による適正評価機会の増大、事業者の実行可能性の確保について検討している。
表示を通じて、消費者、事業者の理解が進み、信頼関係ができるようにすることが大事だが、消費者、事業者といってもいろいろな立場の人がいるので、よく考慮しなくてはならない。
表示について本格的に議論したのは今回、初めてではないかと思う。
パネルディスカッション
唐木英明氏(倉敷芸術科学大学学長・食の安全・安心財団理事長・食の信頼向上めざす会会長)の司会により、パネリストと講師によるパネルディスカッションが行われました。初めに各パネリストからの意見が述べられました。
「表示がわかりにくい理由の検討が必要」
朝日新聞 生活グループ 編集委員 大村美香氏
わかりにくい表示を改善することが表示一元化検討の目的なのに、文字が小さいなどの物理的要因だけがわかりにくさの原因として取り上げられているようにみえる。わかりにくい理由には、対象となる食品の範囲が複雑で例外が多い、「レス」「ノン」「無」などの強調表示の意味が一般に普及していない、といった点もあると、取材を通じて感じている。栄養表示は消費者にプラスになると思うが、すべての食品で即刻実施が難しければ、対面販売などの食品は、当面例外扱いにしてもよいと思う。
「観念の議論より、科学実証性に基づく論理的議論を求める」
(社)日本植物油協会 専務理事 神村義則氏
食品の表示は、科学実証性に基づく論理性を基本にしなければならない。政治家は、観念や情念で語ることが許される存在かもしれないが、行政庁は、科学実証性に基づく実行可能性を基礎に議論を組み立てねばならないが、現在の消費者庁には、行政機構としての責任感が見えない。
また、基本事項の一つ一つをきちんと定義し、その上に議論を組み立てねばならないが、例えば、基本となる用語である「食品」、「原材料」、「原産地」の定義を巡る議論が希薄で、検討会の各委員が同床異夢の概念を前提に議論している状態にある。有識の委員から論理的意見が提示されても、すぐに大きい声にかき消されている。委員の発言にはない「取りまとめ」が行われるのは、消費者庁の事務方が、委員を軽んじているからであろう。
「一元化すれば、すべての問題が片付く」かのごとき幻想を横行させてはならない。現行の食品表示3法を継続することは、それぞれの理念とそれに基づく制度が有効であることを意味する。表示は、それぞれの理念を表現する手法に過ぎないことが忘れられている。下部構造をそのままに上部構造だけ変えることは、洋風建築に基礎に日本家屋の屋根を載せるようなもので、破綻することは目に見えている。
実証性は、制度の管理・監視を的確に行う上で必須の事項である。観念的な大きい声により制度を作って、監視ができないのでは意味がないことである。消費者庁は無責任行政を行ってはならない。
表示は、食品の情報を伝達する手段であり、多くの情報を得たいという意見は重要であるが、同時に、限られた空間に効率的に記載するという現実的機能を踏まえて議論されなければならない。
「見やすい表示のために義務表示事項は必要最小限にとどめるべきである」
全国和菓子協会 専務理事 藪 光生氏
表示は、食品のアイデンティティを示す上で重要なものであるが、検討会の議論を聞いていると本質や根本的問題についての検討が欠けている。食の安全性、利便性から個包装化が進んでいるが、現在定められている30?(5p×6p)以上のスペースにできる見やすい表示といえば、自ずから表示内容に限界が生じることは当然である。栄養成分表示を義務化すれば、正確な数値を記載することが不可能であることから、許容範囲とする20%の誤差を悪用する不正表示が増える可能性もあり、これでは監視、指導、摘発はできない。それでは法とは言えない。海外には原産地表示の考え方がないから、輸入したものにそれを求めることはできず、輸入産品と国内産品との間に不公平が生じる。こうした不完全なものは義務表示にすべきではなく、現行の任意表示で充分だと思う。民主党のマニフェストに「自給率向上のために原料原産地表示をする」とあるが、それは大切なことではあるものの、原料原産地表示を拡大すれば自給率が向上するという根拠はどこにもない。表示義務拡大は閣議決定があるからと、それを前提として充分な検討を経ず義務化を拡大しようとする消費者庁の姿勢は非常に問題である。又、表示については事業者、特に小零細事業者の実行可能性ということを考えなければならない。表示義務化を拡大することにより、調査、分析や人件費などの費用が負担となって、地域の中で日本の食を支えている小零細事業者が廃業することにでもなればシャッター通りを助長することにもなりかねない。見やすい表示であるためにも表示義務事項は必要最小限にとどめ、その他は任意表示とすることが正しいと考える。
「消費者庁での表示を検討する意味をを考える」
消費生活コンサルタント 森田満樹氏
これまで食品表示をトータルで議論する場がなく、わかりにくい表示をわかりやすくするためには、現行の表示のレビューが不可欠であると思う。しかし、検討会では時間が限られており、@新食品表示法の目的と対象、A原料原産地表示、B栄養表示について、10回の議論でまとめるのがやっとで、レビューまで至らないのが現状だ。消費者庁は消費者団体が長年待ち望んでいた組織であり、消費者、事業者とも協働によってよりよい解決の道を探りたい。
新しい食品表示は安全性が最優先であり、合理的選択ができるような表示。栄養成分表示については、海外の状況などを考えると、実現可能ではないかと思っている。実行可能性を十分に検討しながら、事業者と消費者をつなぐ表示であることを願っている。
「消費者にも事業者にもメリットがある表示」
主婦連合会 会長 山根香織氏
自分や家族の食べ物について知り、選択するためにわかりやすい表示は必要。消費者にとって表示を見て買うことは大事。また、日本の生産者を応援したい。一方、表示でほしい産地が選べているかという疑問もある。
消費者は表示を見るべきだが、事業者にもみてもらおうという態度が必要。
表示に関係する規制は、継ぎ足しながらの規制のために、複雑になってしまった。
表示一元化のための検討を10回で行い、皆が納得するものにするのは無理。せめて、方向性を示すところまでできたらいいと思うが、できるところはやっていただきたい。日本の消費者団体の注文が多いように言われるが、表示が進んでいるかというと、海外からみると遅れている。また、零細事業者を追い詰めることはしたくないと思っている。
私たちの要望は、偽装表示の防止、的確な選択ができるような表示法の整備。それは消費者だけでなく、事業者にとってもよいことだと思う。
その後、パネリストと参加者による話し合いが行われました。
最後に、唐木英明氏(倉敷芸術科学大学学長・食の安全・安心財団理事長・食の信頼向上めざす会会長)より次の様なまとめがありました。
「検討会は結論を6月までに取りまとめて、来年の通常国会において一元化の法案を提出する予定と聞いている。表示の問題を考えるときに大事なポイントがいくつかある。第一は何が必要なのかについての論理的、科学的な検討、第二はこうして欲しいという消費者感情からの要求、第三は事業者が実際に実施できるのかの検討、第四は限られたスペースにどこまでの記載ができるのかといった実現可能性、そして第五は現在の表示がどのように使われているのかの検証である。消費者も事業者も合意できる点を探すという困難な作業を6月までの短い期間にぜひ達成していただきたい。」
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )に掲載されます。
■ 「原発事故から1年 食のリスクと風評にどう向き合ったか−この1年を振り返り、今後を考える−」2012年3月26日
2012年3月26日、ベルサール半蔵門にて、食の安全安心財団・食の信頼向上をめざす会共催により、標記意見交換会が開かれました。2011年3月11日より、原子力発電所の事故と食のリスクについての情報提供を定期的に行っており、今回で7回目の開催となりました。
講演1:「食品中の放射性物質の検査について−現状と今後の取り組み−」
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 監視安全課 水産安全係長 前川加奈子氏
これまで震災以来、厚生労働省では暫定規制値を定めるとともに、ガイドラインに基づき地方自治体において検査を実施してきた。原子力災害対策本部は内閣官房、原子力安全委員会、消費者庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省と連携して、検査結果を基に出荷制限とその解除を決めてきた。
2012年4月から食品の新たな基準値が決まった。これは、事故発生時の基準をもとにした暫定基準値でも一般的に安全とされているが、より一層の安全・安心を確保するために、食品からの被ばく線量の上限を1mSvに引き下げることとなった。
新基準値の設定
飲料水、乳児用食品、牛乳、一般食品の4つのグループに分類。飲料水の基準は(WHOガイドラインを踏まえて)10Bq/Kgに設定した。飲料水からの線量を差し引いて、最も摂取量が多い13〜18歳男子の限度値が最も厳しくなり、これを基に一般食品の基準値を決めたので、すべての世代を考慮したことになる。輸入食品も対象に含まれているので、食品の汚染割合は50%と見積もっている。
原材料だけでなく、加工食品にも基準値を適用することを原則とするが、乾物などは水に戻した状態で、お茶は抽出して飲料にした状態で基準値を適用する。
新基準設定に伴い、「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」が改正され、一般食品100Bq/kgに適応できるように、技術的な要件を見直すとともに、食品中の放射性セシウム検査法を新たに定めた。
検査計画のガイドライン改訂
出荷制限の指示実績をもとに検査の必要な自治体の分類、放射性セシウムの検出レベルに応じた対象食品の分類、検査の頻度の設定、検査計画の公表などがガイドラインに定められている。具体的には、対象の17自治体を「福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県」と「青森県、岩手県、秋田県、山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県」に分けて、放射性セシウムの検出レベルなどに応じた異なる検査頻度を示した。また、野菜、乳、茶、水産物、小麦、牛肉、米に対する検査方法の考え方も見直した。
引き続き、国では新基準値の設定等についてリスクコミュニケーションを行うとともに、地方自治体の機器整備への財政支援、国立機関での検査受け入れ、流通段階での買い上げ検査を行う。
講演2:「農業生産現場における対応−これまでの取り組み−」
農林水産省 食料産業良く食品小売サービス課外食産業室長 山口靖氏
基本方針
「国民に安全な食料を安定供給」を図るために、@照射性物質検査が円滑に、迅速に行われるように関係県、生産者に科学的助言・指導を行い、A厚生労働省に協力することを基本方針としてやってきた。
米の調査結果
全国17都県、3,217地点で実施し、50Bq以下が99.2%。福島県の1,276地点で、50Bq/Kg以下は98.4%でその9割は20Bq/Kg未満(2011年11月17日時点)。
検査後に高い数値が出た理由を分析するために、土壌、用水、森林の状況を調査。暫定基準を超えた米の生産された水田のある地域は限定されており、23,247戸の農家で検査した結果、放射性セシウムが暫定規制値(500Bq/Kg)を超えた農家は38戸。
暫定基準値を超えた理由は、@土壌セシウム濃度が高く、カリウム肥料の施用量が少なかったためにセシウムがより吸収されたため、A山間部で深く耕せず根が浅かったために表層のセシウムを吸収したためと考えられた。
2012年度は100Bq/Kg以下の地域での作付制限は行わないが、それ以上の所では制限したり、全量管理・全袋調査を行ったりして対応する。
米以外の調査結果
17都県19,537点を調査した。85.4%が100Bq/Kg以下だった。検出されたのはきのこ、お茶、野菜(3〜6月)。(2012年2月29日時点)
原乳は17都県、1,730点を調査し、50Bq/Kg以下が99.5%。これを超えた8点は3月のみ。
食肉・卵は全国80,334点で、98.7%が100Bq/Kg以下。
現場の取り組み
肥料、土壌改良資材、培土等の暫定許容値を設定し、これを超えるものの利用を自粛。
農地の除染、樹皮を削る、お茶の木の剪定、表土と下層土の反転による農作物の吸収を抑制し、暫定基準値を超えた飼料は家畜に与えない。
食肉・卵の出荷制限(4県)、畜産物の全頭放射性物質検査、牛乳・乳製品のモニタリングを厚生労働省と連携して実施していく。
講演3:「風評被害の状況と現場の取り組み」
(株)グリーンファーム代表取締役・うつくしまふくしま農業法人協会会長 高橋 良行 氏
私は福島のブランドを売るため、農産物の卸しをしていました。
3月17日、「放射能に汚染された食品の取り扱いについて」という通達が厚生労働省から来たが、対応について厚生労働省、農林水産省に具体的な案はなかった。
3月20日から原乳の検査公表が始まった。実際には燃料がなくて、農家は出荷できなかったので、汚染した作物は出回っていないと思う。
モニタリング検査を経て、2011年10月12日、福島県知事は安全宣言を行った後に、農家の自主検査で米から基準値500Bq/Kg以上のセシウムが検出され風評被害を助長したが、農家自ら出荷を止めた。
2012年3月31日、牛肉から出たというので、再検査をしたら検知されなかった。それでも、さしの入ったA4〜5という等級の高級牛 肉は2500円/Kgから300円以下になった。
検査値は生産者にとって、「つくっていい」という指標だと思っている。生産者がとてもつくりたがっているというのは真実ではない。全量全品検査・顔の見える流通、生産者と消費者の交流の中で、判断していく。
だから、葉たばこや加工用トマトの作付けは組合で自粛を決めた。南相馬市も、後から出たらいやだから自粛を決断した。今は、除染、果樹の樹皮洗浄を寒い中で行って頑張っている。300Bqの飼料を食べた繁殖用牛の処分ができない、加えて堆肥の流通が止まっており、これでは廃業も出るだろう。我々農業法人のような、自分で作って自分で売るという者は、在庫管理をしながら売っていき、生産された農産物の安全に責任を負わなければならない。それに対して一律に生産から販売までを組合等々に委託している農家にとっては、代金の決済が終われば自分のものではないという意識があり直売農家との温度差がある。そのことが作るのか否かという温度差に繋がっているのではないか
物産展で売れたものが駅で捨てられていたという話や、サービスエリアのごみ箱に福島みやげが山になっているとの週刊誌報道には傷つけられた。その中で、天皇陛下のお言葉「国民皆が被災者に心を寄せ・・・・」には涙が出た。
日本農業の社会貢献
ドラッガーの提言「顧客はだれか」にあるように、今までは顧客を考えて作ってこなかったことがわかった。TPPも同じ。農業がどうやって社会に貢献するのか。食料、農業、農村の問題を、事業性、社会性、革新性から考えて、安全な食料の安定供給をしなくてはならないと思う。これからは、社会に貢献する農業、社会の中の農家(ソーシャルファーム)を意識していく。
福島は復興します!
講演4: 「放射性物質に対する生協としての考え方と具体的対応 −消費者にとって必要なこと− 」
日本生活協同組合連合会品質保証部本部長 内堀 伸健 氏
生活協同組合とは
生協には商品の開発・製造・販売・流通、安全品質管理、社会的発信・運動の3つの働きがある。
プライベートブランド商品の基本的な価値としては安全確保、品質の確かさ、低価格の実現をめざしている。
東日本大震災に関する生協の取り組み
現地の対策本部に人員を派遣し被災地と被災地外の生協が連携できるようにし、@流通機能を利用して被災地支援、A組合員の支援、B地域復興の支援(COOPブランドを委託している被災地企業を応援など)を行った。
放射性物質による食品汚染に関する基本スタンス
国の基準に沿って対応する。独自の基準は設けない。
しかし、組合員の不安に応える(実態がわからなくて不安な人には実態を解明する、得た情報はわかりやすく開示使用)。
国への要請
・食品モニタリング強化
・国は省庁横断的に市民に対して丁寧なコミュニケーションを行い、国民の不安に応えてほしい。
生協の行う検査
(1)生協の検査の目的:行政モニタリングの補強、コープ商品の管理、組合員の不安に応える
(2)検査対象:プライベートブランド商品(商品、工場)4,000件、問い合わせが多い食品、単協の生鮮物(検査機器がない単協のため)500件。
(3)検査実施:チェルノブイリ事故の時に購入した機器を使って2011年3月末から検査を開始。今は、検査機器を2台にして新基準値に対応する準備のための調整を行っている。
(4)会員生協との連携:検査機器の導入、検査の分担と連携(あまり必要のない地区に、混んでいる地区の検査を依頼するなど)
検査結果
プライベート製品は原料段階で検査し、加工後に廃棄するなどの無駄をなくす。原料より製品段階で検査した方が合理的な無駄がないときは製品で検査する。
まとめ
これからも組合員の不安に応えていく(学習会での質問に答えるためにQ&Aを作成、電話問い合わせが震災後2,000件/月に増えて、なかなか減らない)。
国の基準を満たせばいいので、ダブルの検査はしないが、2012年も新基準値への対応を考えて、計画的にモニタリングを行う。
課題
・復興支援の継続
・取引先・製造委託先の合理的な分担(いつも同じ所の原料が使えるとは限らない)による検査ネットワーク構築
・組合員に対する情報提提供の強化
「原発事故から1年 食のリスクと風評にどう向き合ったのか −この1年を振り返り、今後を考える− 」
食の安全安心財団 唐木英明氏 森川洋子氏
食の安全安心財団が実施したアンケート結果を報告する。
消費者
8割が不安と答えながら、購入時に検査結果を見る人は数%で産地で選んでいる人が8割。
外食で気にしているのは「おいしい」「安い」で産地表示は9位(3.6%)だった。聞かれれば不安といいながら、産地しか気にしていないようにみえる。
本当は気にしていないのか、質問されると不安になるのか、消費者の本音がわかりにくい。
外食事業者
自主検査や検査依頼によって、事業者の6割が検査をしている。事故の影響が大きかったという回答は4割。影響の内容の第1位は売上減少、それに次いで自粛ムードや節電で客足が落ちるなどだった。
安全確認ができたら、積極的に東日本農産物を使う(薬4割)が、今は静観して扱っていない所が多い。
生産者
風評被害について関東、中部地方は2〜3年で終息するだろうと思っているが、東北はもっと長いと思っている。
これからの取り組みついて東北の生産者は、「いい品質の生産物をつくっていく」つもりだが、販売促進はしていない。
まとめ
事業者の6割が検査しているが、消費者の3%しか検査結果は見ていない。検査を求める一部の人たちの声に事業者は振り回されているのではないか。
行政以上の検査をすることは風評被害対策になるのか、行政のやっていることが信頼されていないことが問題なのか、それでは誰がリスクコミュニケーションをするのか。政府の信頼回復とリスクコミュニケーションが重要であろう。
パネルディスカッション
講師に加え、合瀬宏毅さん(NHK 解説委員)、阿南久さん(全国消費者団体連絡会事務局長)、奥地弘明さん(農林水産省食料産業局食品小売サービス課外食産業室課長補佐)が加わり、唐木英明氏の司会により、話し合いが進められました。
合瀬さんのお話
食品の安全性についてのニュース解説をしている。 放射能について専門家ではないので、この1年は手探りでその時にわかっていることを伝えるのに終始してきた。危機管理の視点からいうと危険性のわからないものはまずは止める。状況が分かったものから規制を弱めていくのが大原則。しかし放射能の影響については、議論が分かれていたため、分かっている範囲で取材して対応するしかなかった。
人は理解できない状況に直面したときに不安を感じる。低線量被ばくについて、専門家の意見が対立していることで、人々の不安は増したと思う。放射性物質は事故後に出てきたものだけではない。我々はカリウムがたくさんある中で長い間過ごしてきたわけで、セシウムとカリウムの放射線にどういう差があるのか、整理した方が良い。
福島での農産物作りは止めた方が良いという人がいるが、収穫してできた農産物を徹底的に調べるしか、不安の払しょくはできないと思う。それを報道していきたい。
阿南さんのお話
47消費者団体が参加しているネットワーク組織にとって大変な1年だった。
放射性物質汚染についての学習会を5月から始め、電力会社から節電のため冷蔵庫の温度対応を上げましょうという提案があったので、食中毒の学習会を行った。その他に被災地応援(福島県産品を使った食事会と学習)、産地訪問、討論会などを行った。
消費者基本法に「消費者は自主的に情報を得て、合理的に行動せよ」となっているが、消費者の情報源はテレビ、ラジオ、インターネットしかない。政府の発表、科学者の説明が不十分(わからない、不信だけが膨らんだ)。
行政や科学者は誠意を持って説明して下さい。
事業者はもっと検査結果をわかりやすく熱意を持って伝えてください。
メディアは不安を警告するだけでなく、問題の本質を伝えて下さい。
消費者も正しい理解と批判的な視点を持って学習していきましょう。
消費者庁は全国に検知器を貸与しており、消費者が持ち込んで測定することができる。また、リスクコミュニケーション推進への支援も行っている。情報共有して、共感の場をもっと広げて行きたい。
奥地さんのお話
食品の検査、放射線の高い地域の作付け制限をしてきた。これからも適切に厚生労働省と連携していやっていきたい。
パネリスト、会場を交えて話し合いが行われました。主に次のような意見がありました。
・データ収集は行われているが、わかりやすい説明は難しい。
・自然放射やカリウム40とセシウムの体内での働きは同じだが、自然由来と事故によるもので異なるような誤解がある。
・私たちはゼロベクレルの世界の住んでいないことを伝えるべき。
・そんなに神経質になっていない消費者もおり、福島県産品も価格、タイミングで売れるのではないか。消費者からは被災地応援で買うという声はある。
・500Bqから100Bqへの基準値の変更の理由の説明が不十分で、今までは危険だったと思ってしまう人がいる。
・消費者は選べるので不安はない。生産者が安心して出荷できるようにすることが重要。
結びのことば 唐木英明氏
厚生労働省には丁寧な説明を続けて頂きたい。風評被害対策は政治の安定と信頼回復が必要。すべての国民が福島復興を決意すること。現在の管理体制で健康が守られていることを認識しよう。企業も福島排除をやめよう。メディアの論調がかわってきて、がれきを引き受ける地域がでてきたように、皆で努力しましょう。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )のHPに掲載されます。
■ 「放射線のリスク評価とリスク管理を巡って」
2012年2月7日
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2012年2月7日、ベルサール半蔵門(東京都千代田区)にて、食の信頼向上をめざす会と財団法人食の安全・安心財団との共催により意見交換会が開催されました。冒頭、唐木英明氏(食の信頼向上をめざす会会長・財団法人食の安全・安心財団理事)より、開会の挨拶があり、4氏による講演の後、パネルディスカッションが行われました。
講演1:「リスク評価とリスク管理」元食品安全委員会事務局長 梅津準士氏
食品安全委員会について
食品安全委員会は10年前のBSE問題を契機に、食品の安全性に関するリスク評価を行なう機関として発足した。リスク評価は科学的知見に基づいて客観的中立的に行われるのに対し、リスク管理(規制)は食生活、生産、流通の実態など現実の様々の事情を考慮して行なわれる。独立性が強調されるが、評価のための資料の収集や評価後のフォローなど相互の連携も重要である。
リスク評価とALARAの原則
評価の方法は、微生物、化学物質など対象分野によって異なる。通常の化学物質の場合、動物実験データなどから生体への影響の見られない数値(無毒性量)を求め、これに安全率をかけて一日摂取許容量(ADI)を算定する。ここまでが評価で、ADIを超えないように厚労省等が使用基準を定める。
農薬や添加物のように意図的に使われ、閾値のあるものはADIを設定してリスク管理を行うが、重金属のような汚染物質の場合はALARA(As low as reasonably achievable)の原則を踏まえて基準値を決めるとともに、供給と消費の両面でリスク低減対策がとられる。「合理的に達成できる限り」については、例えば生産現場で対応可能か、食料品の安定供給に支障を来たさないかなどの観点から検討され規制のレベルが判断される。
放射性物質の新たな規制値
今回の食安委の放射性物質の評価は、内外の膨大な文献を精査した上で、信頼性の高い広島・長崎の被爆者の疫学データやチェルノブイリ事故に関連した小児に関するデータを基礎に、生涯の追加累積線量が大よそ100mSv以上で影響が見出されるとした。それ以下では分らないとし、また、小児は成人より感受性が高いと判断された。暫定規制値に代わる新たな規制値(一般食品500→100Bq/kg)もALARAの考え方を踏まえて検討された。加工食品や幾つかの品目について経過措置が設けられたのは、合理的な実行可能性を確保するためである。なお、このプロセスをより一層客観的、合理的なものとする上で「規制影響評価」の考え方が参考になる。我が国では制度として導入から日が浅く対象も限られているが、規制に伴う費用と便益を分析する事は有意義と思われる。
実効性の確保
リスク管理(放射性物質)の実効性を確保する上では、肥料・飼料の規制、農地の除染など実際の生産現場での対応と、計画的なモニタリング検査が欠かせない。併せて、正確で分りやすいリスクコミュニケーションを幅広く行なう必要がある。
講演2:「新たな基準値に対する様々な意見」
Food Communication Compass 事務局長 森田満樹氏
ゼロベクレルを求める声
FOOCOM(フーコム)というWebサイトを運営しているが、放射線関連の記事への反響が大きい。消費者団体として、食の安全をめぐる様々な問題について考えたいと思っている。現在は情報があっても断片的で、統合して整理する情報が不足し、市民は混乱している状況にある。その結果、一部の事業者の中でゼロベクレル宣言が出始め、市民は「ゼロベクレルが実現可能」と誤解する。
私たちは、新規制値は政治主導で決めていいのか、基準値は低くするだけでいいのかなどの問題提起をしている。
若い母親は新たな厳しい基準値を歓迎し、さらにゼロベクレルを求め経過措置を置かないで速やかに実施することを望んでいる。
新基準値の決め方は容認できないとFOOCOMでは主張してきた。文部科学省放射線審議会も新基準値に疑問を投げかけている。 この基準値が決まれば、福島の農業は壊滅的な被害を受けることを危惧している。
新基準値の是非
新基準値を歓迎する理由は、@厳しい基準値は消費者に安心を与えるA原発事故等の放射線のリスクをできるだけゼロに近づけるという原則からすれば、基準値を下げることは理にかなっている、B500ベクレルが100ベクレルになると、高い数値の食品はないと認識してもらえる。
新基準値を容認しない理由は、@基準値を下げても現在の汚染状況は既に低い状況にあるため実際のリスクはそんなに低減されない、A検査が難しくなると、実施できる検査件数が減り、リスク管理の質が落ちる、B被災地の農業に壊滅的打撃を与える、C消費者がゼロベクレルを目指しゼロリスク幻想が広まる。
新基準ができるまでに、縦割り行政の弊害が起こっていないか
・ 食品安全委員会のリスク評価は適切だったのだろうか。外部被曝も含むといった後に内部被ばくのみと訂正したことで混乱が生じた。100mSvが安全と危険の境界のような説明をした。リスク管理機関が使いにくいリスク評価結果になった
・厚生労働省の審議会では、リスク管理策の審議が十分に行われたようにみえない
・文部科学省放射線審議会 新基準値に異議を唱えた
新基準値策定にあたって、さまざまな審議会が審議を行ったが、国民にはわかりにくい。サイレントマジョリティと福島の生産者の声が反映されていない。納得できていない多くの人がおり、新基準値施行で安全になるという誤解、これまでの暫定規制値が安全ではないという誤解が生じてしまった。
文部科学省放射線審議会は、パブコメと同時並行で審議会検討をしており、すでに5回開催。ARALAは経済的、社会的要因を考慮して合理的に達成できる限りに保たれなければならない。市民代表として、コープふくしま理事 佐藤理氏は、「食物の調査をし、福島の食卓にも汚染はほぼないことがわかった。内部被ばくも低いのに、なぜ新基準を設定して復興しようとしている福島の農業に壊滅的打撃を与えるのか」と発言している。
年齢区分別の限度値はすでに決まっているのに、なぜ、さらに乳児用食品の放射性物質の新たな基準値を設置するのか、乳児は一般食品を食べてはいけないと誤解するなど波及する問題は大きすぎる。
講演3:「食品中の放射性物質の新たな基準値について」
国立保健医療科学院 生活環境研究部 上席主任研究官 山口一郎氏
基準値の引き下げ
厚生労働省の薬食審放射性物質対策部会の検討内容について技術的な観点から説明させていただく。
食品の暫定規制値は5mSvの介入線量などから誘導されている。この線量は年間摂取による実効線量を示す。短半減期核種の減衰や生産者側のご努力を踏まえ、2012年4月から介入線量を5mSvから1mSvに下げることが目指されている。それに伴い、食品カテゴリー(飲料水、牛乳、一般食品)ごとの基準値も低くなる見込みである。
規制の対象にしている放射性物質は原発事故に伴い食品に由来した線量として、今後、主に寄与すると考えられるセシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム、ルテニウム106で、これらの半減期は1年以上である。
環境に放出された各放射性核種の食品への移行を考慮し、食品に由来する内部被ばくの中で放射性セシウムの寄与の割合を食品の種類・年齢区分に応じて計算し、全ての種類の食品の年間の摂取による預託実効線量が1mSvを超えないように基準値を設定にした。具体的には、介入線量1mSv/年から飲料水の線量(約0.1mSv)を引き、一般食品などに割り当て、年齢区分別に限度値を計算し、最も低い値を採用した。なお、摂取する食品の平均濃度は限度濃度の50%と仮定した。
食品別の介入線量の検討
乳幼児用食品と牛乳は、万が一、流通する食品の全てがその濃度であっても、より安全が確保されるように一般食品の規格値の半分である50Bq/kgとし、小児に特別な配慮をするようにとの国民からの要望にこたえた。乳幼児用食品の範囲は、消費者が乳児向けだと認識する可能性が高いものとした(乳児用調整粉乳、乳幼児向け飲料、ベビーフードなど)。一般食品の基準値は、食品区分別に与えることはせず、生産者側を含む国民の意向に沿い、安全側であることを重視するとともに、ルールの簡素化を目指した。
製造食品、加工食品、原料は一般食品の基準値を満たすことを原則とし、水に戻して食べる乾物、お茶などのように抽出して摂取するものについては実際に食べる状態を考慮して基準値を適用するという考え方を提示した。
市場に混乱が起らないように、経過措置を取ることとしている。消費者側の要望にこたえるために、経過措置期間をより短縮できないか検討されている。
新基準での食品摂取による線量
基準値と同じ線量の食品を一定の割合で摂取したと想定した場合、乳幼児に十分配慮していることから乳幼児の被曝量は大人の半分程度になる。平成23年8月1日から11月16日に公表されたデータを用い、新基準値を適用させた場合の放射性セシウムからの被曝線量を推計した結果を示す。検出限界未満の試料が多いため、検出限界未満の試料の濃度をどう想定するかに線量は依存する。
全食調査の結果
全食検査による年実効線量推計の結果を示す。この調査は、平成23年9月と11月に東京、宮城、福島を対象とし、実際に食べている食品を測定し、線量を推計した。食品中に含まれる自然放射性物質であるカリウム40からの線量は生体の恒常性により食品の濃度にはあまり依存しないと考えられるが、放射性セシウムによる線量はカリウム40による線量に比べて小さいことが確認されている。
講演4:「消費者の立場から」 食の信頼向上をめざす会 幹事 伊藤潤子氏
私たち消費者は、専門家のような詳細な議論には加われないが、議論の経過と結論を理解したいと思っている。私の住む関西では、放射線はほとんど話題にならなくなった。東北の果物や米を除いて産品が入っていなかったこともあるが、東北応援セールは盛況で、消費者が福島の産品を敬遠しているとは思えない。
多くの人の認識は、「放射性物質の基準はあるらしい。」「基準値変更の情報は知らない」「乳児用の基準や表示には少し関心はある」程度だろう。
生活についての報道を見ると、「放射能を恐れて海外へ移住」、「給食に不安」、「保育園での野外遊びの禁止」などが大半で普通の生活は見えない。これは関西に住まいする私の現状認識と異なる。
不安があって当然だが、一年経ち反応に温度差(地域、年齢、個人的関心、信念など)がある。過度な不安は緩和する必要があり、同時に不安を感じる人を増やさないようにし、食への信頼を回復しなくてはいけないと思う。
朝日新聞と京都大学の調査では、福島の1日3食分のセシウムは国の基準の40分の1だったという。そんな状況の中で新基準設置の理由は何なのだろうか。「より安心に応えて」というような説明もあったと聞く。明確な理由はわからない。それでも、現在安心できてない人の不安は、新基準設置で減るのだろうか。
より数値の低い「乳幼児用基準」があるならば、幼児用食品の方が安全だろうと、乳児用製品を選ぶ大人の出現など、非組換え表示のような影響も心配だ。過度な不安を放置できないとして、新基準を設定するなら、次の4点が重要。
(1)基準の意味を正確に伝えること!
管理基準であり、安全基準ではないことを伝える。そうしないと「直ちに健康被害はない〜」という表現の後付けになり、市民は気休めだと感じる。繰り返して、「安全基準」というニュアンスの報道が流され、誤解が浸透している。食べても影響なしと書くようになってきているが、基準以下だから安全という表現も出てきて誤解を招く。関係者は取材のたびに管理基準だと繰り返し言おう!
(2)「いわゆる消費者」の実態
何も食べるものはないという消費者も、毎日、何かを食べている。不安はないと回答する人はいないが、メディアは「いわゆる消費者」のイメージを画一化していて、メーカーや流通は対策、生産、販売戦略を考えているのではないか。一部の消費者を過剰に意識しすぎている気がする。
(3)消費者とどう向き合うのか
消費者は「尊重されるべき存在」となって、行政、企業から消費者の思いをくんで対応してもらっているが、広範な消費者の声を吸い上げ、伝えるべきことを伝えてきたか。
(4)会議、リスコミの進め方
言いっ放しでなく、誠実に率直に語ってきたか。適切にコメントすることも重要。
むすび
コープ福島理事佐藤理さんの発言から「補償されることよりも働くことの意義」を感じた。一方、厳しさを売りにしてきた生協の中で、被災地の産品を避けたいという組合員もおり、コープふくしまでも福島県産を避けているご家庭があるという。悲しいことだと思う。
消費者団体・生協は、いろいろな意見があって当然。以前よりも消費者の声が尊重されるようになった今だからこそ、絶えず情報を更新しながら「反対・要求型」から「提案型」になろう!
「食と放射能に関わる消費者の意識調査結果」 食の安全・安心財団 研究員 森川洋子氏
食の安全安心財団では、2,000サンプルの調査(福島・宮城を除く、北海道〜沖縄)を行った。男女比は、女性46.2%、男性53.9%だった。
質問事項は@福島第一原子力発電所事故後の放射能に関する関心・食材購入の変化・外食の利用頻度について、A放射性物質の新基準値について、B放射性物質検査について、C情報のあり方についてなど。
主な結果
・放射能の問題への関心:「どちらかといえば関心がある」が51.2%と最も高く、「関心がある」とする32.3%と併せ、8割が「関心がある」と回答。
・原発事故以後食品購入に変化:「あまり変わらない」と「変化なし」約60%
・食品購入時に気をつけること:「検査結果を確認せず産地を気にする」77%
・外食の利用頻度:「変化なし」 84%
・外食で気にしている事項:「おいしさ」「価格」「雰囲気」「サービス」の順。これは従来の外食産業と同じで、放射性物質検査については、最も低い割合だった。
・新基準について:「知っている」17%、「聞いたことがある」46%、「知らない」34%
・食品の分類が5つから4つになったことについて:「大変よい」約10%、「不十分」約20%「わらかない」約70%
・放射物質検査結果の表示の確認:確認していない約80%
・勉強会・意見交換会への参加:「割と参加している」約15%、「そこまでする気はない」と「全く参加しない」85%
・情報源:「テレビ」34%、「インターネット」23%、「新聞」20%
以上は、アンケートの一部ではあるが、地域差があるとは言え、放射能の食品への影響について、関心があると言いつつ、検査結果より産地で選んでいる人が多く、外食などでは、ほとんど気にしていない人が多いように見受けられた。また、情報収集にしても熱心なのは、一部の人であるようだ。
まとめ 唐木英明氏
新基準・表示問題にはいろいろな意見がある。消費者の意識をどう捉えるか。
検出限界値が下がると、消費者はより低い基準値を求めるようになるのだろうか。
水道水10ベクレルを1ベクレルにすると厚生労働省は言っているが、実現できないだろうという意見もあり、4月からの新基準値の有効性をどう捉えたらいいのだろか。
文部科学省の審議会も、基準値設定に待ったとかけたが、結局「差支えない」と回答した。費用対効果(リスクのトレードオフ、環境影響)は議論されなかったことになる。
新基準値の設定は、国民のゼロリスク志向を助長させただけではなかったか。リスクの考え方は全然根づいていなかった考え方になってしまった。
国への信頼が薄い、学者の発言がばらばら、放射線教育の欠如などが背景にある。クライシスコミュニケーションのケーススタディが足りない。背景も含めて、統合して整理して見せる情報が足りないので情報災害をおこしている。
検査、数値は大きな関心事であるので、学習の機会としたいと思う。
「乳業界の実情」 雪印メグミルク株式会社社外取締役 日和佐信子
震災直後も今も、最も多い質問は、「原乳の生産地(製造工場しか表示されないから)はどこか」。特に学校給食関係者からが多い。
生乳の検査体制:クーラーステーション(岩手県なら13か所ある)に集乳されて、検査し、厚生労働省に結果を報告している。そこをクリアされたものだけが出荷される。それで工場では検査しないことになっていた。
乳児用ミルクからセシウムが、NPOの独自検査で検出された。「赤ちゃんは粉ミルクしか飲めないので基準値以下でものませたくない」とNPO代表は発言。実際はフォローアップミルクで離乳食と併用するもので、粉ミルクしか飲めない乳児が対象の食品ではなかったのに、それをマスコミは報道していない。
厚生労働省から各メーカーに学校給食用の牛乳は検査するように要請があった。クーラーステーションは生乳で出荷されるもの。 今回の粉ミルクの原料である脱脂粉乳は北海道産のものと輸入されたものと聞いている。それに栄養素を添加するもので、乳児用 粉ミルクについても検査することが今回要請された。
厚生労働省からは、各メーカーに検査値は公表するように要請した。「市民測定、企業動かす」と朝日で報道された。検査大国になってしまうのではないかと心配になる。粉ミルクは最大32ベクレルで新基準値以下だったが希望者には交換した。その結果、検出限界値が実質的な基準値になる可能性がある。酪農家に自家飼料を使わず、輸入飼料(購入飼料)を使うように、食品メーカーは要請し、自家飼料を無駄にしている。酪農家の負担をどう考えるのか、メーカーのロットごとの検査費用をだれが負担するのか。生産現場のこともふくめて全体を見回して、考えることが大事ではないか。
話し合い
唐木理事の司会により、会場からの質問を交えて、全講演者によるパネルディスカッションが行われました。
5mSvは有効に機能していた基準値であったのに、4月から1mSvに下げることになった。変更することの説明は十分だったか。厚生 労働省はより食の安全・安心を確保するためとしているが、文部科学省放射線審議会は基準値変更の実効性の低さを指摘している状況からみて、省庁の間でも基準値を変更することの意味が共有されていないように見受けられる。この状況が報道され、市民の不安が膨らむことは問題ではないか。
最後に「トータルで1mSvの基準値をこえることはまずないだろうと思う。しかし、個々の食品では基準を超えるものも出るかもしれない。大事なことは、復興をめざす福島の農産物の風評被害改善に皆で努力していくこと」だという唐木氏のまとめの言葉がありました。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )HPに掲載しております。
■ 「『放射性物質の食品健康影響評価』と暫定基準の見直しについて」
2011年11月21日
詳細
2011年11月21日、ベルサール汐留にて、食の安全・安心財団・食の信頼向上をめざす会の共催により標記意見交換会が開かれました。
冒頭、唐木英明氏(同財団理事・同会代表・倉敷芸術科学大学学長)より開会の挨拶がありました。
開会の挨拶をする唐木英明氏
「食品安全委員会では、セシウムの食品基準は年間5ミリシーベルトとしていた。今回、生涯累積線量100ミリシーベルト以上は健康に悪影響があるかもしれないが、それ以下はわからないという見解をまとめた。関連する多様な疑問を持っている方が今日は多く集まっているだろう。今日はそれらの疑問に回答できるようにこの会合を企画した。
マスコミ関係者も含め約300名が参加。
食品安全委員会には「100ミリシーベルトはどのように決められたか」、厚生労働省には「新しい基準をどう考えていくのか」、農林水産省には「今までに測定してきた放射線量のデータと今後の食品安定供給と見通しについて」それぞれ、ご講演いただく。
小島編集員(毎日新聞)には、この問題をめぐるリスクコミュニケーションの問題点とこれからの課題に関するご講演をお願いした。
「食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価」
新本英二氏(食品安全委員会事務局 リスクコミュニケーション官)
日本では、リスクを評価する機関と管理する機関を分けている。評価は科学的に中立公正に行うことが求められている。
暫定規制値は平成10年の原子力安全委員会の防災指針での指標を基に厚生労働省が3月17日に設定したものだが、緊急対応として食品安全委員会のリスク評価を受けずに設定されたものであるため、3月20日にリスク評価の要請がなされた。評価要請を受けて食品安全委員会は、3月29日に「緊急とりまとめ」を行い、放射性セシウムと放射性ヨウ素の暫定規制値設定の際の年間線量はかなり安全側に立ったものと判断された。その後、食品安全委員会は詳細なリスク評価に取組み、7月に評価書案をまとめ、これについてのパブコメを経て10月27日に食品健康影評価書がとりまとめられ、厚生労働省に通知された。
評価の考え方
- 緊急時か平時かでヒトへの健康影響の評価の基準は変わらない。評価と管理の分離の観点から管理措置に評価が影響されないよう留意。
- 外部被ばくは著しく増大していないことを前提、すなわち、追加的な被ばくは食品からのみと前提を置いて評価。内部被ばくのみの報告で検討することは困難であり、外部被ばくも含む文献や化学物質としての毒性の報告を含め3300の文献にあたった。
個別核種に関する検討
個別核種による評価結果を示せるだけの情報は得られなかったが、化学物質としての毒性が鋭敏に出るウランについては、耐容一日摂取量(TDI)が設定された。
低線量放射線による健康影響
動物実験や試験管の実験での知見よりヒトへの影響を示す知見を優先し、確かな疫学データを重視して評価された。
食品から受ける内部被ばくだけの知見は限られているので、外部被ばくを含んだ疫学データも利用した。
具体的には、次のような疫学データがあった。
- インドの高線量地域での発がんリスクに関する疫学データ
- 広島・長崎の被曝者における、白血病による死亡リスク、固形がんによる死亡リスクに関する疫学データ
- チェルノブイリ原子力発電所事故における小児の甲状線がんや白血病のリスクに関する疫学データ。
食品健康影響評価のまとめ
生涯における追加の累積線量がおおよそ100ミリシーベルト以上で健康影響が見いだされているが、それ未満の線量での影響は、線量の推定の不正確さや他の影響と明確に区別できない可能性から、影響が有るとも無いとも証明できていない。
生涯のうち小児の期間は感受性が成人より高い可能性がある。
「食品に含まれる放射性物質の食品影響」
鈴木貴士氏(厚生労働省食品安全部)
経緯
平成23年3月11日に東日本大震災が発生し、3月17日に、食品衛生法上の暫定規制値を定めて都道府県に通知。これについては、内閣府の食品安全委員会より3月29日に「放射性物質に関する緊急取りまとめ」が示された。4月4日に薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会に放射性物質対策部会を設置。5日には、魚介類の放射性ヨウ素に関する暫定規制値の取扱いについて都道府県に通知した。
暫定規制値の考え方と食品からの被ばく線量の推計
暫定規制値は、食品からの被ばくに対する年間の許容線量(ミリシーベルト)を設定し、この線量を越えないよう成人、幼児、乳児それぞれについて食品摂取量と線量換算係数を考慮して限度値(ベクレル/kg)を算出し、その中から最も厳しい値を規制値(ベクレル/Kg)としたもの。
暫定規制値の下での食品からの被ばく線量については、食品中の放射性物質のモニタリング検査の結果を用いて、年齢階層ごとに原発事故以降の流通食品由来の被ばく線量(放射性ヨウ素及び放射性セシウム分)を推計したところ、中央値濃度の食品を食べ続けた場合で、0.1ミリシーベルト程度と推計された。これに対し、放射性カリウムなどの自然放射性物質の摂取による被ばく線量の平均は0.4ミリシーベルト程度とされる。
新たな規制値設定のための基本的な考え方
来年4月を目途に、一定の経過措置を設けた上で、許容できる線量を年間1ミリシーベルトに引き下げることを基本として、薬事・食品衛生審議会において規制値設定のための検討を進めている。年間1ミリシーベルトとするのは、@食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の現在の指標で、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されていること。Aモニタリング検査の結果で、食品中の放射性セシウムの検出濃度は、多くの食品では、時間の経過とともに相当程度低下傾向にあることなどを踏まえたもの。
今後は、平成23年4月に新しい規制値を施行できるように、検討を行っている。
「23 年度産コメの放射性物質検査とその結果について」
農林水産省消費・安全局 参事官 吉岡修氏
基本方針
- 国民に安全な食料の安定供給
- 放射性物質検査を円滑、迅速に行えるように生産者に科学的(検査機器の貸し出し、自治体の分析費用の支援、分析機関の紹介など)、資金面で支援する。
- 厚生労働省に協力する(企画・立案)
23年度米への対応
暫定規制値を超える米が生産されないように作付け制限を実施し、収穫前後に2段階調査。
全国17箇所の水田土壌と収穫された米の放射性セシウムを1959年から2001年まで、行い、土壌による差がないことがわかっている。
土壌の濃度が低いほど、植物に移行する。移行係数は厳しく0.1とした(幾何平均値は0.12)
米の放射性物質調査
予備調査 :収穫前に玄米で、一部刈り取って調査
本調査 :予備調査で200ベクレル/Kg以上の濃度の玄米があったところを重点的に調査し、収穫後に放射性物質濃度を測定し、出荷制限をするかどうか判断する。
17都県の3189地点で調査し、27箇所で50ベクレル以上だった。福島県では、1,276地点中、50ベクレル/Kg以上は21地点で、ほとんどが低かった。
「リスクコミュニケーションの基本」
毎日新聞 編集委員 小島正美氏
食品安全委員会を応援している立場から、エールを送る意味でよりよいリスクコミュニケーションとは何かを訴えたい。
リスクコミュニケーションは「相手に正確にわかりやすく伝えること」と「間違いはすぐに正すこと」が基本です
3月29日 緊急取りまとめに対して、6社の新聞をみると、私は「妥当と書いた」が、緊急時の基準緩和だと表現した新聞が3社あった。このように受け止め方が分かれたのはなぜか。
公開された検討会では年間10ミリシーベルトでいいとする有識者が多かったのに、記者会見で5ミリになった。これがばらばらの見出しができる原因になったのではないか。
食品安全委員会から国民に直接訴えるルート(ホームページ)の表現が曖昧で、この曖昧さがメディアを介して再び伝えられてしまった。
7月22日 評価案作成の日(26日)の前に、別の社の記者が食品安全委員会に確認して、「外部被ばくを含む」と報道している。それなのに山添座長は26日に「外部被ばくを含む」といっている。含まないならば、この時点で「外部被ばくを含む」はおかしいと正すべきだったのに、それをやっていないのはおかしい。
さらに、外部被ばくは著しく増加しないことを前提としているとするならば、「この評価は内部被ばくのみ」と強調して訂正すべきだった。
8月2日 市民との意見交換会でも、食品からの被ばくのみなのに、山添座長は再び外部被ばくを含むと説明した。関連した質問を正してもいない。配布したQAには、外部を含むような曖昧な文章まである。
生涯累積100ミリシーベルトは内部被ばくだけという事実は、10月26日の事前記者レクで始めて知った。そのときの驚きは相当なものだった。なぜ、もっと早く言わないのだろうかと不思議に思った。その時点から振り返ると、7月からのマスコミ報道はずっと間違っていたことになる。全社がそろって間違うのは珍しい。ということは、食安は「外部被ばくを含む」と言っていたのだ。この問題は、記事の書き方よりも、食安の伝え方が悪かったという教訓ではないか。
例えば、トランス脂肪酸の報告書の結論は明快に書かれている。食品安全委員会事務局が理解している内容だったからではないか。説明会の質疑応答も歯切れがいい。
放射線についてはよくわかっていなかったのではないか。放射線の専門家の活用をもっと上手に活用されるべきだったのではないか。
公開の議論もいいが、肝心なポイントを中心に、意見を集約すれば、誤解は少なかっただろうと思う。間違った報道に対して、それをすぐに正す発言が少なすぎる。正されれば記者は気づくと思う。
パネルディスカッション
4名のスピーカーに食品安全委員会委員長小泉直子氏が加わり、唐木英明氏の司会により、会場を交えた討論が進められました。
はじめに小泉委員長より「小島さんの講演のとおりで反省している。委員長談話でもお詫びをした。食品からの追加的被ばくを受けた場合を検討しようとしたが、個人の外部被ばくの文献しかなかった。事務局では丁寧なリスクコミュニケーションを目指していく」というご発言がありました。
質疑応答では、100ミリシーベルトの基準値に関するものが多くありましたが、国内外の情報提供の状況に関するもの、放射線に関する日本人のリテラシーのことなどが話し合われました。最後に、「価値観、倫理観は個人で異なる。調停のよりどころは科学的事実だと認識して議論することが大事。科学は仮説と異なる。仮説が検証を経て生き残ったものが科学である」と、唐木代表のまとめがありました。
■ 第12回メディアとの情報交換会「ユッケ問題から考える食中毒-食育の重要性-」2011年6月20日
2011年6月20日(月)、ベルサール八重洲(東京都中央区)にて「第12回メディアとの情報交換会」を開催しました。今回は「ユッケ問題から考える食中毒-食育の重要性-」をテーマに、講演および参加者との意見交換会が行われました。
講演1:「食中毒の現状と対策について」
厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課課長 加地 祥文氏
「食品衛生」とは、WHOの定義によると「栽培・飼育、生産、製造から最終的に人に消費されるまでのすべての段階において、安全で、栄養価に富む、良質の食品を確保するために必要なあらゆる手段」を意味する。
「食品にゼロリスクはない」と食品安全委員会設立から力をいれて伝えてきたが、放射線暫定規定値の議論などがきっかけに人々の不安はまた振り出しに戻ったようだ。ゼロリスクはありえないことは繰り返して伝えるべきである。食物は本性から安全でない。なぜなら、人に食べられたい動植物はなく、防衛機能から毒をつくって反撃をするからである。
食の安全性の特質
- 食物の非代替性:食物に代替性はないが、代替食品はある(牛がだめでも豚がある)
- 食品の摂取量依存性:パラケルススの教えのとおり、毒の作用には量が関係する
- 食品の対象期間依存性:個体影響と次世代影響
- 食品毒性の耐性:致死、後遺症の残るものもあるが、復帰可能な場合は寛容で回復すれば元に戻る。
すべての食品は栽培化、家畜化、品種改良で作られた。家畜(大型化、馴化)、ジャガイモ(毒性を減らす)、調理で解毒化(水にさらすキャッサバ)、養殖で無毒化(フグ)。このように、食品は調理、加工、生産、流通の中で喫食時までに安全になっている。例えば、と畜場から出てきた生食用肉の表面にウイルスや菌がいるが、調理で菌のレベルが低いときに食べられるようになる。
食中毒とは
食べて毒に中(あた)るのが「食中毒」。教科書によると、飲食物やその器具容器包装を介して人体に入ったある種の病原微生物や有害物質によって起る急性の胃腸炎症などで、原因は食品だけではない。欧米でも食品に起因する病気・感染症・毒素など用語が使われる。 監督・管理にあたるのは、8000名の公務員獣医師。そのうち4700名が公衆衛生関係で働いている(市町村が多い)。家畜衛生に関わる公務員獣医師は3300名。保健所の食品安全監視員は、自治体に入ってから任命され7000名いる。 法的な説明では、食品衛生法58条に、食品や添加物などで中毒になった人をいきなり「食中毒患者」と書いている。医師は食中毒と診断した場合、保健所に届けなければならず、そのときの食中毒が把握される。食品衛生法第4条で、飲食に起因する衛生上の危害と範疇に入れているので、実際には、いわゆる食中毒が見つかりにくくなる。
食中毒の位置づけ
えびすで起こった食中毒のように、一人事例からは判断が難しい。 コンニャクゼリーなどの喉つまりの窒息死(4000名)もO-157(3000名)も、食中毒として報告される。伝染病予防法、寄生虫予防法の対象になる疾病の死亡者は食中毒と扱われない。 昭和57年以前、コレラ、赤痢などの消化器系伝染病、寄生虫病は、食中毒に含まれなかった。その後、さば(ヒスタミン中毒)、乳児ボツリヌス症も対象になった。1996年、腸管出血性大腸菌感染症が伝染病に指定され、1997年小型球形ウイルスによる食中毒が統計項目に追加された。1999年、旧伝染病予防法が、感染症予防法となり、コレラ、赤痢、チフス、パラチフスが追加された。2001年には、アレルギーも加わった。
食中毒の発生
食中毒患者が見つかると、医者は保健所に通報、保健所職員が調査し、原因が特定されると、対策が知らされる。具体的には、医者の通報が2件以上になると、保健所は動き出す。 届けられた食中毒事件は平成10年からどんどん減って、平成21年、死亡者ゼロ。 原因の9割は細菌とウイルス。中でも事件数、患者数をみると、カンピロバクター、ノロウイルスが多い。季節でみると、ウイルスは冬場、細菌は夏場が多い。 腸管出血性大腸菌、カンピロバクターの食中毒は加熱不足が原因で起っていることが多い。
腸管出血性大腸菌食中毒
ガイドラインは罰則がないので、生食と食中毒がなくならなかったという人がいる。 平成8年、と畜場の衛生管理基準が改正になった。汚染防止のための衛生作業手順書(SSOP)ができた。平成9年、と畜場の構造設備基準が改定になり、設備が整備された。 平成13年、表示基準が改正になった。食中毒を出したら、懲役2年 罰金200万以下の罰則がある。生食用の肉から O-157、O-111、サルモネラが出たら、食品衛生法第6条違反で3年以下の懲役または300万円以下の罰金となる。 輸入食品は上記の罰則が輸入時にかかる。過熱加工用に用途変更すると、6条3号違反にはならなくなる。一度加熱用にしたものが生食に使われないように、缶詰、佃煮の工場に送るという誓約書をとる。 出血性大腸菌の届出は3000~4000件/年。検便でみつかるが無症状のケースも1500件ある。O-157食中毒で届けられた人は300名くらいだが、一人事例が多く、散発事例は追跡しにくい。
最近は、ある飲食店チェーンの原因ロットを調べ、菌の遺伝子を探すことで、広域散発事例も解明できるようになってきた。えびすの事件も感染事例から食中毒に切り替え調査している。毒素を産生しないO-157は、感染症としてあがってきたが、検便ではひっかからなかった。集めた菌株の遺伝子とつき合せをしてつきとめた。 食中毒の実態を把握するのは難しく、本当の被害はもっとあるだろう。
講演2:「腸管出血性大腸菌O-104型」
国際獣疫事務局(OIE) 名誉顧問 小澤義博氏
2011年5月初めから、ドイツのハンブルグ近郊で急速に広がりだしたO-104型大腸菌は、EU加盟12か国のほかアメリカやカナダにも広がり、世界の注目をあびた。O-104は毒性が極めて強く、発熱、腹痛、吐き気などを伴う出血性下痢症(STEC)の患者に加え、溶血性尿毒症症候群(HUS)を伴う患者が異常に多く報告されている。また、これらの多くはドイツの患者や汚染物と何らかの関連を有することも分かっている。
この菌の感染源は、最初はスペインから輸入されたキュウリが疑われたが、分離された菌は別の菌であることが分かった。その後の疫学調査では、野菜サラダに加えられたモヤシが感染源であると断定し、生野菜、特に豆や種からつくるモヤシやスプラウト(発芽野菜)を控えるよう勧告した。最近では水耕栽培の水や種子の汚染も疑われている。
大腸菌O-104の特徴は、@強毒性、A抗生物質(ストレプトマイシン、ペニシリン系)に耐性、B成人特に女性に多発する等である。なお、O-104大腸菌は2004年に韓国で発生したことがあり女性一人が死亡している。診断は、遺伝子レベルで行う。疫学調査を行うときには、ドイツに滞在したことがあるか、ドイツからの輸入食品を食べたか、感染者やその持ち物との接触の有無等が指標になっている。
2011年6月13日現在、ドイツにおける感染者数は3,235人(内死者35人)、世界の患者数は3,343人(内死者は36人)でドイツと何らかの関連があった人が多く発症している。ドイツにおける発生のピークは5月20日頃で、5月末にはドイツにおける流行は終息したと発表している(後から増えてきた数字は、報告の遅れによる)。感染者の構成では女性が約2/3を占め、子どもが少ないのが特徴である。(しかし、この感染者構成の特徴は、女性のほうが生野菜をよく食し、レストランでサラダを食べる子どもは比較的少ないためということも考えられる)。
講演3:「食肉の処理および日本の食文化について」
スターゼンインターナショナル株式会社 代表取締役社長 多賀谷保治氏
O-157などの腸管出血性大腸菌は肉の表面にある。ユッケは細切り肉を和え、ハンバークは中に混ぜ込むので菌が増えやすい。ローストビーフやタタキは表面をあぶっているので、中が生でも大丈夫なのに、大暴落している。ユッケなどと一緒に考えないでほしい。
生食用食肉の安全確保について
と畜場から出てきた肉にトリミング(よく切れる出刃で表面を薄くけずる)を施す。包丁を毎日研ぐのもトリミング技術に含まれるぐらい高度な技術。 下手な人がトリミングすると、薄く削れないため、歩留まりはあがり、コストが下がる。280円のユッケというのは、考えられない低価格である。プロがトリミングすると、人件費も高くなるはずである。
腸管出血性大腸菌は動物の腸管内に生息する。と畜するときに、@食道口と肛門から菌が出ないようにする、A腸管を傷つけないようにする、B皮を枝肉に触れさせない、C枝肉を流水で洗浄する、D使ったナイフを洗浄する。 このように、菌が付着しないように注意しているが、100%大丈夫とはいえない。 と畜場で気をつけても、骨をとって、解体、分割する間(場所も変わるから)には、菌がつく可能性はある。アメリカは、と畜場にパッカーという食肉加工問屋が入っている。O-157が出ると、パッカーはリコールされ、回収させられるため、O-157が出ないように、とても努力をしている。生食はするが、ハンバーグの生焼け以外でO-157食中毒は発生していない。
米国では、枝肉に、蒸気、有機酸、高温シャワーの3種類のシャワーをかける。12万頭を1日に扱うと畜場が、アメリカは10箇所以上ある。高価な設備もペイできる。 日本では1日350頭前後だから、そこまで大規模な施設ではペイできない。日本には、パッカーがいないので、と畜場を出た肉は、食肉加工、卸問屋の段階で外気に触れる。 米国のハンバーグパテは放射線殺菌をしている。フランス、オランダも肉の殺菌に放射線を使っている。放射線の殺菌は宇宙食にも使われている。日本人は放射線に敏感だから、使えないが、放射線殺菌をした牛肉の生食をするだろうか。
日本人の食生活の特徴
日本には生食する献立が多い。例えば、刺身、生野菜、肉(馬刺し)。 魚介類には、ノロウイルス、腸炎ビブリオがいる。生牡蠣や刺身生食のリスクは身についているから、体調不良時は食べなかったり、子どもには与えなかったりする。 生野菜には、腸管出血性大腸菌などいる。肉には、腸管出血性大腸菌、カンピロバクターがいる。 日本人は「SEAFOOD EATER(魚介類を食べる)」なので、魚介類には慣れている。日本でハンバーグから軟骨や獣毛が出ると大苦情だが、米国なら平気。逆に日本で魚フライから小骨が出ても日本人は平気、米国なら裁判になるのではないかと思う。 豊かな日本食文化の中で、フグ毒の調理、しめ鯖(酢でしめる)、生牡蠣(鮮度が落ちたら加熱)を私たちは知っている。肉については歴史が浅く、知識が欠如しているのではないだろうか。一方、肉の生食したい人の権利もある。生食したければ、生食提供者の責任、生食を食べる者の責任の認識が重要。教育も大事だと思う。
講演4:「牛肉生食による食中毒 食育の振り返り」
生活共同組合コープこうべ参与(消費生活アドバイザー) 伊藤潤子氏
牛肉生食による事故で子どもが亡くなり、痛ましいことでした。
この食中毒による事故の直後、女子大生1年生(200名)に尋ねると、焼肉店に行ったことのある学生は8割、そのうちユッケを食べたことがあった人は8割、全体の65%の学生にユッケを食べた経験があった。この学生たちは年齢から推測すると、40歳後半の親の子どもであり、また家族との食経験であるものと推測されるため、生食の底辺は広がっていくと考えられる。加えて、彼女たちは、食育を経験した初めての世代だ。食育が役立てなかったことが残念だ。新鮮なものを食べて、手を洗っていれば大丈夫だと思っていたのではないかと思う。
2005年に議員立法で、食育基本法が制定された。食育基本法が制定された背景には、生活習慣病の増加、家庭力の低下がある。食育が始まって5年経つが、食育の中で、食中毒には触れられていない。私自身も、触れてこなかったと反省している。 2001年にBSE問題、食品偽装問題が起こり、2003年に食品安全基本法成立し、一定の食の安全は確保された。次に消費者団体が行うべきことは、本来は食育であったのに、不安の領域へと逃げ込んでしまったように思う。
食育基本法の制定に伴い、同法に基づく条例が各自治体で制定され、食育のオンパレードとなった。食育基本法の内容は、@感謝の念、A伝統ある優れた食文化、B農山漁村の活性化、C食料自給率の向上を明文化している。しかし、自分の健康のために食を選び取る力をつけるという本来の目的がぼやけてしまっている。
実際に食育として行われていることは、農作業体験、お料理教室、食文化・伝統の継承、食事のマナーや感謝の気持ち、地産地消、食品添加物を避けるなどである。悪いことではないが、本来の目的が忘れ去られている感がある。 食中毒が起きてしまった「今」を再スタートの時にし、「国民ひとりひとりが食を選び取る力をつけること」を最優先課題と再確認して、優先順位をつけて取り組む必要がある。
@リスク回避は必須要素であり、次のようなことに必ず触れていくようにしたい。
- 食中毒(生食のリスク)
- 餅(のどにつまらせる)への注意
- ハイリスク世代(高齢者、こども)への配慮
A現代の暮らしの実態に立脚したものである必要がある。例えば、外食、中食が多い食生活である。
それを疑問視して手作りがベストと教えるだけでなく、現状を受容して、よりベストな提案をしていくことだ。
その後、当会幹事の佐々義子氏(NPO法人くらしとバイオプラザ21)より冊子「メディアの方にわかっていただきたいこと(遺伝子組み換え作物・食品)」の紹介がありました。
続いて、唐木会長より参加者を代表して、「厚生労働省は生食用肉は出ていなかったという意味を解説してほしい」という質問があった後、全体話し合いが行われました。質問に対しては加地課長より次のような回答がありました。
「平成 9 年、と畜場のガイドライン( 12 年 3 月 31 日まで経過期間)によると、改善事項(菌が肉に付着しないようにする措置)により生食用に加工することは可能な状態になっている。しかし、と畜場からきれいな肉を出してもアメリカのパッカーとの違いがあり、日本では次の加工過程で腸にいる菌がつくかもしれない。それで生食用としては出さない。 馬刺し用はと畜場で馬刺し用として出す。レバ刺しは沸騰したお湯で殺菌してと畜場からレバ刺し用で出す。カンピロバクターは逆流(内部から出てくる?)するので、表面を殺菌してもカンピロバクターは防げず、生食用は出さない。馬の枝肉と肝臓だけが生食用で出される」
参加者からは、生ハムのように、事業者が製造・無菌包装し、自己責任で販売している例が紹介されました。一方、保健所の通達が飲食店、特に協会に入っていない店舗に届いていないという声もありました。 また、規制を厳しくしても限界があり、生食したい人の権利を守るためにも、食品事業を営む場合はやはり食中毒のリスクを考慮した経営をするべきではないかなどの声がありました。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21(http://www.life-bio.or.jp/)のHPに掲載しております。
■ 「食の信頼向上をめざす会」2010年度活動報告
食の信頼向上をめざす会も2011年3月31日で3年目の活動を終了致しましたので、その活動内容および次年度活動計画を下記の通り報告致します。
2010年度活動内容
1.第7回メディアとの情報交換会
4 月 28 日に、ベルサール八重洲(東京都中央区)にて、「不適切な報道はなぜ起きたのか」をテーマとした情報交換会を開催した。 食品安全委員会農薬専門調査会前座長鈴木勝士氏による「食品安全委員会の掲載記事」、 鈴鹿医療科学大学教授長村洋一氏による「ある自治体の講演について」の講演を行った。
その後、メディア関係者、講師の方々ならびに参加者も参加してディスカッションを行った。 報告箇所へ
2.第8回メディアとの情報交換会
7 月 20 日に、 ベルサール八重洲(東京都中央区)にて、「地産地消」を テーマとした情報交換会を開催した。 茨城県の女性農業士会坂東支部元会長荻野利江氏より、地産地消の現状と課題、農村地域振興への貢献、農業の将来像等について、東京大学大学院農学生命科学 研究科教授中嶋康博氏より全国各地の産地直売所の実態、戦後から今日に至る日本農業の変化等について講演いただいた。
その後、メディア関係者、講師の方々ならびに参加者も参加してディスカッションを行った。 報告箇所へ
3.第9回メディアとの情報交換会
9 月 28 日、ベルサール八重洲(東京都中央区)にて、「今さら聞けない COP10 (コップテン)」をテーマとした情報交換会を開催した。 10 月の名古屋市での国際会議の開催が迫る中、これを機に生物多様性について考えた。生物の多様性について、遺伝資源、種の保全を推進する機関と交流し、遺伝 子組み換え体の取扱に関わる研究や社会啓蒙されている 筑波大学大学院生命環境科学研究科遺伝子実験センター 渡邉和男氏より、また、メディアからみた生物多様性条約について毎日新聞科学環境部副部長田中泰義氏に講演いただいた。 その後、メディア関係者、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。 報告箇所へ
4.第10回メディアとの情報交換会
12 月 7 日にベルサール八重洲 (東京都中央区) にて、「食肉の表示のありかたについて」テーマとした情報交換会を開催した。消費者庁で議論されている「食肉の表示」の問題を受けて、消費者庁表示課長笠 原宏氏より「食肉の表示のありかたについて」と題して、消費者庁の考える焼肉の料理名における表示、消費者庁での検討について報告があった。さらに、潟} オ・インターナショナル代表取締役毛見信秀氏より「食肉の部位に関する基礎知識」について、事業協同組合全国焼肉協会副会長高木勉氏より「新しい食文化 “焼肉料理”―その形成過程と現在の課題」について、講演いただいた。
その後、メディア関係者、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。 報告箇所へ
5.第11回メディアとの情報交換会
3月2日にベルサール八重洲(東京都中央区)にて、「今なぜ口蹄疫・鳥インフルエンザ?」をテーマに情報交換会を開催した。弊めざす会幹事の国際獣 疫事務局(OIE)名誉顧問の小澤義博氏より「口蹄疫と鳥インフルエンザの対策」についての世界の動向について、元食品安全委員会事務局長の梅津準士氏よ り日本国内の動向について講演いただいた。その後、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。
6.財団法人食の安全安心財団との共催による「メディアとの情報交換会」を開催
3月22日に芝パークホテル(東京都港区)にて、「東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」をテーマに、財団法人食の安全・安心財団との共 催による情報交換会を開催した。唐木会長(財団法人食の安全・安心財団理事)より風評被害をなんとか食い止めるために緊急に情報交換する必要である旨の挨 拶の後、東京工業大学原子炉工学研究所所長の有冨正憲氏より「福島第一原子力発電所事故」について、秋田大学名誉教授の滝澤行雄氏より「放射性物質と食品 の安全性」についての講演をいただいた。その後、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。 報告箇所へ
2011年度活動計画
基本方針
本会は「食の安全」を中心の課題として、食品の安全性、表示などの消費者の安心にかかわる問題をはじめ、食料の質的量的な確保の問題を取り上げてきました。
3月11日に発生した東日本大震災は、直後の大津波や原子力発電所事故と相まって、我が国に甚大な被害をもたらしています。被災地の方々や企業に直接的な 被害を与えただけでなく、我が国の産業や経済にも深刻な影響を与えています。特に放射性物質の拡散による食品の安全性に関する不安の声が高まっています。 このような状況のなかで、農産物等の風評被害を防止するため、正しい情報を発信する場として、財団法人食の安全・安心財団との共催により、2011年3月 22日、4月7日にそれぞれ「東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」、「原発事故による放射能汚染と食品健康影響評価について」をテーマとした メディアとの情報交換会を開催しました。また、4月下旬に焼肉チェーンで生肉のユッケによる集団食中毒事件が発生し、4人が死亡。腸管出血性菌O-111 に感染していました。今後も関連する食の安全問題について取り上げていきたいと考えています。 その他、「日本は食料を確保できるか?」という統一課題のもと、自給率をどのように考えるのか、農業構造の改革をどのように進めるのか、自由貿易協定の影 響などの課題についても考えてみたいと思います。
■ 第2回メディアとの情報交換会(食の安全・安心財団共催の報告)2011年4月7日
詳細
4月7日、ベルサール汐留(東京都中央区)において、「原発事故による放射能汚染と食品健康影響評価について」をテーマに、(財) 食の安全・安心財団との共催による第2回メディアとの情報交換会を開催した。
当日は、厚生労働省食品安全部企画情報課の佐久間敦課長補佐、内閣府食品安全委員会の新本英二リスクコミュニケーション官、東京大学名誉教授・日本学術会議副会長・元東京大学アイソトープ総合センター長の唐木英明氏による講演の後、3氏と参加者(メディア関係者等約200名)との質疑応答が行われた。情報交換会でのポイントを下記にてまとめました。
食品安全に関する2種の規制
原子力緊急事態に関連した今回の食品の規制措置には、原子力災害対策特別措置法に基づく措置と食品衛生法上の措置の2種類がある。
前者に基づく規制は、内閣府原子力災害対策本部が指示を出すもので、「摂取制限」や「出荷制限」などがこれに当たる。後者は厚生労働省所管の食品衛生法上の規制で、これは規制値を上回る個別食品とそれを含むロットのみを回収・廃棄する。
暫定規制値
厚労省は「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いのあるものについて流通規制する」という食品衛生法第6条第2号に則り、3月17日に食品中の放射性物質についての暫定規制値を定め、3月20日にはこの暫定規制値が食品や健康に及ぼす影響について食品安全委員会にリスク評価を求めた。
これを受けて食品安全委員会は急遽「放射性物質に関する緊急取りまとめ」を行い、3月29日、当分の間この暫定規制値を維持することが適当である旨を厚労省に通知した。
厚労省は暫定規制値を設定する際に、「CODEX(コーデックス)規格」と「飲食物摂取制限に関する指標」の2つを参考にした。
「CODEX規格」とは、国連の専門機関である国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設置した「コーデックス委員会」が定めた食品規格である。これによれば、ヨウ素とセシウムの摂取制限値は、乳幼児用食品とその他の食品は、ともに「ヨウ素100ベクレル(Bq)/kg」「セシウム1000ベクレル/s」となっている。なおコーデックス委員会による指針値は、最も安全側に考えて設定されており、「対策を考えなくて良いレベル」とされる。国際取引上、容認できるレベルをローカルに決めると不都合が生じるので、国際ルールとして提示したものである。
もう一つの「飲食物摂取制限に関する指標」とは、原子力災害対策特別措置法に基づいて飲食物の摂取制限を行うときに、規制介入の目安としている値である。これによれば、放射性ヨウ素は「飲料水・牛乳・乳製品300ベクレル/s」、「野菜類2000ベクレル/s」、セシウムでは「飲料水・牛乳・乳製品200ベクレル/kg」、「野菜類・穀類・肉・卵・魚500ベクレル/s」となっている。これらを参考にしてできたのが食品衛生法上の暫定規制値である。
魚介類の暫定規制値
4月4日、北茨城で4月1日に獲れたコオナゴから4080ベクレル/sの放射性ヨウ素(ヨウ素131)が検出されたが、その時点では放射性ヨウ素に関する魚介類の暫定規制値は設定されていなかった。放射性物質の魚介類への影響に関しては、3月24日に原子力安全委員会が、「一般的に海水中に放出された放射性物質は潮流に流されて拡散していくこと、またヨウ素の半減期は8日と短いことから、人がこれらの海産物を食するまでには相当程度低減しているものと考えられるが、引き続き海域モニタリング調査を実施するべき」との見解を示していた。
厚労省はこの見解と原子力災害対策本部の対応方針に従って、4月5日、魚介類中の放射性ヨウ素に関する暫定規制値として野菜類の暫定規制値(2000ベクレル/s)を準用すると発表した。これらはあくまでも暫定値で、今後同省は放射性物質対策部会を設置して専門家に検討を依頼する予定だ。
今後のリスク評価の課題
暫定規制値のリスク評価(食品健康影響評価)を諮問された食品安全委員会は、国際放射線防護委員会(ICRP)や世界保健機関(WHO)等の科学的知見を収集し、事態の緊急性に鑑みて、異例の速さで結論を出した。厚生労働省が暫定規制値の対象とした核種は、放射性ヨウ素、放射性セシウム、ウラン、プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種であるが、食品安全妻が「緊急とりまとめ」で取り上げたのは、放射性ヨウ素と放射性セシウムだけである。食品安全妻は今後、他の核種(ウラン、プルトニウムおよび超ウラン元素のアルファ核種、ストロンチウム)も含めて改めて食品健康影響評価について審議し、遺伝毒性発ガン性のリスクについても詳細に評価しなければならないという課題を残している。
放射線の閾値
放射線の影響に閾値があるかないかは科学者の間で意見が分かれる。放射線のリスクは、「ガン以外のリスク」と「ガンのリスク」に大別できると考えられる。ガン以外のリスクとは、吐き気や下痢、頭痛、火傷、白血球の減少、髪の毛が抜けるなどで、これは年間約1000ミリシーベルト(mSv)以上浴びると出てくるが、それ以下では出てこない。その意味で、ガン以外のリスクには閾値があるといえる。
一方、ガンのリスクは、100mSv以上の放射線を浴びた時には、その放射線量との間に相関がみられるというデータはあるが、100mSv以下の放射線量になると、自然発生のガンなのか放射線の影響なのかが、分からない。しかし100mSv以下でガンになると思っている専門家はほとんどいないのにも関わらず、それが基準にならない理由は、「ある」ことを証明するのは簡単だが、「ない」ことを証明するのは極めて難しいからである。100回の実験で影響が出てこなくても、101回目に出るかもしれないため、分からないことには予防の原則を当てはめるということで、国際的にはガンのリスクには「閾値がない」とされている。
シーベルトとベクレル
シーベルト(Sv)とは、放射線(α線、β線、γ線等)を浴びたときの人体への影響度を示す単位のことである。人体表面が放射線に 照射されることを「外部被曝」または「体外被曝」といい、その放射線の強さはシーベルトで表す。
ベクレル(Bq)とは、放射性物質(放射性ヨウ素、放射性セシウム等)が放射線を出す能力(放射能)を表す単位である。例えば 4000ベクレルの放射性ヨウ素に汚染されたコオナゴを摂取すると、放射性物質を体内に取り込むことになり、これを「内部被曝」または「体内被曝」という。
■ 「メディアとの情報交換会」(財団法人食の安全・安心財団共催)の報告 2011年3月22日
PDFでご覧ください。→ 110322houkoku.pdf
■ 第11回メディアとの情報交換会 「今なぜ口蹄疫・鳥インフルエンザ?」2011年3月2日
2011年3月2日、食の信頼向上をめざす会主催の第11回メディアとの情報交換会がベルサール八重洲にて開かれました。テーマは「今なぜ口蹄疫・鳥インフルエンザ?」でした。
この2つの家畜伝染病は非常に大きな問題である。これらの家畜伝染病はどこから来るのか、なぜ予防ができないのか、なぜ感染していない家畜まですべて殺処 分するのか、なぜワクチンで予防や治療をしないのか、世界各国はどんな状況なのか、経済への影響はどの程度か、今後の対策は何かなどについて総合的に考え てみたいとの趣旨で、次の二氏を講師に情報交換会が開かれた。
講演1:「 口蹄疫と鳥インフルエンザの対策 世界の対策 」
国際獣疫事務局(OIE)名誉顧問 小澤義博氏
A )口蹄疫
1 ) 口蹄疫の特性
口蹄疫ウイルスには7つの血清型があるが、最も広く発生しているのは O 型である。口蹄疫はもともと牛の病気であるが、世界の半数の豚が生息している中国では、豚に強毒化した O 型ウイルスがうまれ、近隣諸国への広がりを繰り返してきた。
口蹄疫ウイルスの人への感染は極めてまれで、搾乳者の手の傷口から侵入して傷口に水泡を形成することが知られている。またウイルスが汚染したミルクや埃を通して経口感染することが稀にあり、風邪のような症状がみられることがある。
口蹄疫が恐れられる理由は、下記の a〜e がある。
a.発生すると感受性を有する動物やその生産物の輸出が即座に禁止される
b.発生した地域とその近辺の牛、豚、羊などの動物の移動が禁止される
c.牛乳の出荷が禁止され、回復しても乳産量は半減する
d.感染した子牛や子羊の死亡率が高い
e.豚に感染すると大量のウイルスを空気中に放出し空気感染を起こす
2 ) アジアにおける発生状況
中国では口蹄疫ワクチンが広く使用されており、口蹄疫の大発生は抑えられているが小さな発生は広範囲で続いており、しばしば韓国、台湾、ベトナム、日本 などの近隣諸国に流出を起こしてきた。北朝鮮はごく最近まで OIE に病気の発生を報告してこなかったが、本年2月に最近の口蹄疫の発生状況をまとめて報告してきた。それによると北朝鮮には韓国同様に広範囲に口蹄疫が発生 していることが分かった。
一方、韓国では、初動の遅れや厳しい寒さにより消毒が不能になり、瞬く間に全国的に広がってしまい、全国的なワクチンの接種に踏みきらざるを得なかっ た。それでも 2010 年 12 月から2か月の間に 340 万頭が殺処分され、一応の鎮静化がみられている。しかし韓国が清浄化するためには、最後の口蹄疫の発生から2年間、口蹄疫の発生が見られず、また最後の一 年間には口蹄疫ウイルスの存在がないことを血清調査で証明せねばならない。
3 )口蹄疫の清浄化に関する OIE 基準の概略
清浄国で発生した場合には、
- 移動禁止ゾーンを決め、ワクチンを接種しなかった場合、殺処分と抗体調査の終了3週間後に清浄化できる。
- 一部でワクチンを接種しても、その動物の殺処分を行えば、3か月後に清浄化できる。
- 一部の殺処分と同時に一部で緊急ワクチンを接種した場合、感染抗体の存在しないことが証明できればワクチン接種の6か月後に清浄化できる。
- 殺処分なしで抗体検査だけが実施された場合、ワクチン接種後 18 か月間に感染抗体が見つけられなければ清浄化が認められる。
韓国のように全国的にワクチンを接種した場合には、前述のように清浄化には更に長期を要する。
4 )日本の問題点(殺処分かワクチン接種か)
最小限の動物の殺処分で終わらせるためには、どこまで殺処分を続けるべきか?またいつワクチン接種に切り替えるべきかを決めるために、口蹄疫発生の疫学的 調査(リスク分析や経済疫学的分析など)が重要である。必要なデータを入力してすぐ答えが出るようなシステムの開発が必要である。
B) 高病原性鳥インフルエンザ( H5N1 )
- 2005年、中国の青海湖で水鳥の家禽化を研究していた最中に鳥インフルエンザが大発生し渡り鳥の移動により、中央アジアから中近東、黒海を経由して北 欧から西欧にまで広がり、欧州諸国に多大な被害を与えた。これらの渡り鳥の一部は中近東からアフリカへと広がり地球規模の広がりをみせた。その後も広がり 続け、南アジアや東南アジアや中東で今日も散発的発生が続いている。
- このH5N1ウイルスは、人に散発的に感染をおこしアジアや中近東の15 か国で死者が出ている。特にインドネシア、ベトナム、エジプト、中国、タイで感染者が多く、それぞれ高い死亡率をしめしている。しかし人から人への感染し た例は殆どなく、単独感染者がほとんどである。感染者の多くはH5N1ウイルスに感染した鳥にマーケットや家庭で接した人が多い。先進国では家禽の処理法 の安全性が守られているため、感染者の報告は出ていない。
- EUの鳥インフルエンザ対策は、 2005?2006 年の欧州の経験をもとに、緊急対応の在り方が見直された。新しい対策は、海外情報の収集を強化し、病気の侵入リスクが高いときには、事前に警報を発すると 同時に、感染野鳥の監視を強化する。家禽は出来る限り屋内飼育に切り替え、野外飼育の家禽や、動物園の鳥類のワクチン接種を許可する。又家禽の移動を禁止 するとともにバイオセキュリティーを強化する。
- 鳥インフルエンザ( HPAI )の防疫対策は国によって異なる。
a. 殺処分による淘汰に主体を置く国(米、英、カナダ、ドイツ、日本など)
b .常在化する危険の高い国または地域では、ワクチンを接種する(イタリー、オランダ、ロシア)
c .常在国において、連続的にワクチンの接種を続ける国(中国、パキスタン、エジプト、インドネシア等)
OIE の規則によると、高病原性鳥インフルエンザの清浄国の条件は、過去12か月間家禽に強毒ウイルスの発生のなかった国を清浄国と認める。また清浄国に強毒ウイルスが発生した場合には、殺処分と消毒終了の3か月後に清浄国に復帰することができる。
小澤氏講演資料PDF
講演2:「 口蹄疫と鳥インフルエンザの対策 日本の動向 」
元食品安全委員会事務局長 梅津準士氏
1.口蹄疫と鳥インフルエンザの発生の経過などについて
1 )口蹄疫
2000年3月に国内で92年ぶりに口蹄疫が宮崎県と北海道で発生した。この時は、4農場の牛740 頭の処分で比較的短期間で収束した。その10年後の2010年4月に宮崎県で発生し、牛と豚合せて約28.8万頭が殺処分の対象になった。全国の肉用牛の 2.4% 、豚の2.2%が失われた。
2 )鳥インフルエンザ
2004年2月?3月に国内で79 年ぶりに鳥インフルエンザが山口、大分、京都で発生。特に京都では養鶏場の経営者が自殺する悲劇になった。その後、ほぼ1年おきに国内で発生している。昨 年2010年11月から2011年4月5日現在で、宮崎県など9県24農場で発生し185万羽が殺処分の対象になった。また、各地で野鳥や動物園の鳥類か らも高病原性ウイルスが検出された。
なお海外では、口蹄疫は1997年に台湾で大発生(約500万頭)、2001年には英国で約400万頭の殺処分。そして昨年から今年にかけて韓国で牛の5%、豚の35 %(合計約350万頭)が殺処分される大発生を見ている。
2.日本の家畜防疫の仕組み
OIE (国際防疫事務局)の原則を踏まえ、家畜伝染病予防法に基づいて防疫指針を定めこれに基づいて実行している。発生時の具体的な対応としては、下記のような手順で行われる。
1 )異常家畜を発見したら、農家、獣医師から家畜保健衛生所へ通報する。
2 )家畜保健衛生所にて病性の判定、また、(独)動物衛生研究所での確定診断が行われる。
3 )制限区域や消毒ポイントなどの設定と殺処分の指示、死体の処理、汚染物品の処理が行われる。
4 )並行して、接触した恐れのある感受性動物の追跡、感染源と感染経路の究明が行われる。
5 )制限区域内農場の清浄性確認検査(2回)が行われる。
6 )措置後21日間経過して制限の解除が行われる。
特に 24 時間以内の殺処分、72時間以内の埋却が極めて重要とされる。基本的には、早期発見と迅速な殺処分による対応となる。しかし、これだけではまん延を防止できない場合は、ワクチンの使用を検討する。
3. 2010 年4月に宮崎県で発生した口蹄疫の対応について
発生した場所がわが国有数の畜産の密集地域だったこと、また豚にも感染したことから、第1例の確認から隣接地域での拡大が著しく速かった。摘発・淘汰で は対応できず、一定のエリア内でワクチンを接種した。なお、ワクチンをうった家畜は感染の有無に関わらず全て淘汰する法的根拠がなかったため、補償措置を 含む 特別措置法を急きょ制定した。処分された家畜の補償(手当金)は、原則は評価額の5分の4であるが、残りは県が負担した。自衛隊、警察組織、全国からの獣 医師、畜産関係者らの応援などにより過去に例を見ない規模の防疫活動が長期間遂行された。その結果、7月末には全域で制限が解除された。また、翌 2011 年2月には OIE の清浄国に復帰した。
4.検証と今後の方向
口蹄疫対策検証委員会の報告書が 2010 年11月24日に取りまとめられた。 対応上の問題点として、下記の指摘があった。
@異常畜の見逃し、通報の遅れ
A確定診断後の迅速な処分の困難
Bワクチン接種決定のタイミング
C県当局の家畜頭数・戸数の負担など
今回、口蹄疫が発生した宮崎県には、家畜保健衛生所が3箇所しかない。鹿児島県は6箇所(離島の支所を入れると9箇所)、熊本県は5箇所、大分県でも4 箇所ある。殺処分に当って県担当者の数が家畜頭数や畜産農家戸数に比べて少ないこと、さらに普段から県の現場獣医師の負担が他県に比べて大きく、農場を十 分把握できていなかったとの原因が考えられる。
改善方向としては、主なものとして@早期発見・通報のための具体的なルールの策定、A迅速な処分・埋却のための作業マニュアル、防疫演習を定期的に行 い、発生時には具体的な措置に習熟し必要な資材も準備した緊急支援部隊や専門家を派遣する、B飼養衛生管理基準の遵守を徹底する、C予防的殺処分の法的明 確化や処分に対する補償措置の拡充などを提示している。これに沿って家畜伝染病予防法の改正案が国会に提出され、成立した。
その他に下記のような論点がある。
@現場での実行部隊の確保について
防疫対応は現場での「力仕事」になる。現場指揮のあり方や資機材の準備を含め平常から体制を想定しておく事が重要である。
A迅速な処理について
法律上は埋却又は焼却となっているが、実際は全て埋却処理される。緊急の場合には、野焼きを含めた焼却の是非についての検討が必要である。
Bワクチン使用の判断基準について
ワクチン使用には様々のリスクや問題が伴うことは事実である。しかし、避け難い場合もあり、判断基準について議論を深めておくことが必要である。
C野鳥、動物園の動物など家畜以外の扱いについて
鳥インフルエンザは野鳥がウイルスを媒介すると見られ、今後も伝播が懸念される。家畜以外の鳥類のモニタリング体制と防疫対応について準備を整える事が必要である。
梅津氏講演資料PDF
■ 第10回メディアとの情報交換会 「食肉の表示のありかたについて」2010年12月7日
. 2010年12月7日(火)、食の信頼向上をめざす会主催の第10回メディアとの情報交換会がベルサール八重洲にて開かれました。テーマは「食肉の表示のありかたについて」でした。消費者庁で議論されている「食肉の表示」の問題を受けて、このテーマが選ばれました。
講演1:「 食肉の表示のありかたについて 」
消費者庁表示対策課長 笠原宏氏焼き肉の料理名における表示、消費者庁での検討について報告する。
景品表示法とは
景品表示法の目的は不当な表示による顧客の誘因によって合理的選択の阻害を防止し、消費者の利益を保護すること。
JAS法、食品衛生法は表示内容と表示方法、表示の場所を定めるもの。コマーシャル映像などはJAS法適用範囲外となる。これに対して景品表示法では商品包装だけでなくテレビコマーシャル、インターネットなどあらゆる方法が含まれ、商品名や料理名も対象となる。
禁止されている表示
サービスや商品の内容に関するもの、取引に関するもの、その他の3つがある。
競合商品やサービス、競合会社の取引条件より著しくよいと思わせること、具体的な表現が実際と異なっていて、顧客を不当に誘因することは、違反になる。
違反の内容は(1)優良誤認、(2)有利誤認表示、(3)不当表示に分けられる。
焼肉メニュー表示で問題になったこと
ロースと表示しているのに、ランプや外腿肉が使用されているという情報提供があった。
ロースとは、肩ロース、サーロインの総称であるが、実際には料理名としてはロース以外を使っても「○○ロース」と示してきた歴史と認識が長年あった。
消費者庁としては、焼き肉業者におけるこのような表示が、長年の慣行として行われてきたことから、表示の適正化のためには、特定事業者の問題として 処分をするというよりは、業界としての認識を見直してもらうことが重要であり、このために、当面、指導しながら周知期間を置いて対応していきたい。
事業者からの問い合わせが多く、問題意識を持っている事業者が多いことを感じているが、使い慣れた料理名を変えることに抵抗感を示す事業者も少なく ない。このような中で、まずは、表示の適正化に一歩でも進めていくために、まずは、例えば、料理名は「○○ロース」としたまま「モモ肉を使用しています」 とメニューに併記したり、店内に掲示するなどの対応を進めていただきたいと考えている。そのような対応では消費者から、紛らわしい等の声が出てくるようで あれば、料理名自体の変更を求めていくこととなる。
消費者庁講演資料PDF
講演2:「 食肉の部位に関する基礎知識 」
(株)マオ・インターナショナル 代表取締役 毛見信秀氏 2005年に食肉の消費量が魚のそれを越えた。2001年のBSE問題で牛肉の消費が落ちたが、食肉全体では盛り返している。
BSE問題からトレーサビリティが厳しくなり、食肉業者は真面目に表示に取り組むようになった。
汚いイメージだったホルモンが女性に人気になったり、食肉の部位名をよく知っていることをステータスと思うような消費者も増えてきている。
食肉の部位と名前
牛は、肩はカタ系、背中はロイン系、おなかはバラ系、脚はモモ系と分けられるが、部位の境目はどうするのか、韓国の呼び名も使われているなど、食肉部位の名前は複雑。
例えば、カルビという呼び名はおいしい料理のイメージが強く、バラ系の肉というよりも顧客に好まれている。
ロース焼き肉というメニュー表示は、赤身の肉の上手な使い方を促すもので、「モモ肉使用」と併記していればいいと思う。
最近は希少部位が人気で、肩ロースの中の座布団という美味しい部位、腕の肉のミスジ(1頭の数%)などを焼肉屋さんで宣伝したりしている。こういうやり方も、お客さんに肉の部位への関心を高めたり、正確な名前を知らせる効果があるのではないか。
一般に、骨についている肉は霜降りがはいりやすく、余り動かさないので柔らかく食べやすい。硬い肉は切り落として、薄切りで食べやすくしたり、イカ の松かさ焼きのようなカットを入れて工夫している。あくまでも使っている部位の正しい名前を併記すれば、かたい肉がおいしい料理名で供されてもいいのでは ないか。
トップサーロインについて、日本でランプというが、米国はニューヨークカットなどと呼ぶ。肉食の歴史が長く、消費者もよく知っているからだろう。
牛内臓肉もホルモンとして関心が高まり、よく使っていただけるようになった。内臓肉に関する情報を提供することで、どの部位も使われるようになるのはよいことだと思う
豚肉
体が小さいので牛ほど名前は複雑でない。
牛でも豚でも、アメリカは背骨の2−3本目が肩ロースとロースの境界だが、日本は4−5本目。
バラという名前が人気になると、その付近の肉もバラと呼んで売ることもある。
料理の韓国名が人気になったときにはそれを利用し、使っている部位の正しい名前を併記していればいいのではないか。
最後に、食肉に関わる事業者で協力して正しい名称を使い、食肉についても周知し、事業者はきちんとやっているというイメージを持ってもらいたいと思う。
毛見氏の講演資料PDF
講演3:「 新しい食文化“焼肉料理”―その形成過程と現在の課題 」
事業協同組合全国焼肉協会 副会長 高木 勉氏
全国焼肉協会は平成20年設立。会員は478社、1402店舗。
焼肉料理の成立と由来
戦後の食料難のとき、闇市で内臓肉を使って焼肉を提供し、広まったようだ。肉の統制が解かれたのは昭和24年でその後、韓国料理店や冷麺店、ホルモ ン焼きで財を成した人たちが30年代に焼肉店の出店をはじめ、焼肉メニューが広まった。焼肉料理は60年の歴史がある。肉は、ホルスタイン、交雑種が主 で、どんな部位でも食べたのだろうと思う。
そのころから、赤身はロース、それに脂身がついていれば、カルビと呼び始めたようだ。
現在の焼肉料理は韓国の伝統家庭料理に和の会席料理が融合して完成した。最近、韓国では日本料理といって韓国風日本料理が広まっている。食文化の日韓融合が進んでいる。
焼肉料理の中で生まれたメニュー
日本ではカプサイシンと乳酸菌が健康にいいということで、キムチが大人気。一方、韓国では若い人が敬遠してキムチ人気は低下気味。マイナーなタンが塩焼きにするメニューでメジャー食材になった(タン塩にレモン汁)。内臓もヘルシー料理に進化した。
内臓は臭くて、洗ったり、処理したり手間がかかる。ニンニク、トウガラシ、ごま油で今はおいしく食べられるようになった。
日本料理になった焼肉
和を取り入れて、いろいろな工夫がなされて、日本食に定着した。
小売が持て余す赤身のモモ肉を焼肉では、カット、たれを工夫して食べている。
皆で楽しく食べられる料理としての「焼肉」は人気。
美味しくする工夫(ニンニク、ごま、トウガラシ)
脂と水気を直火・網焼きで落とし、旨味を凝縮
リーズナブルな価格(安価なモモ肉を上手においしく使う。赤身の肉はロース肉として定着している)
焼肉店の課題
焼肉協会は、10月7日、消費者庁表示対策課長及び農林水産省食品産業振興課長から
「食肉小売品質表示基準に定める部位表示とメニュー表示が異なる場合」消費者に対し、焼肉料理のメニューにおける表示の適正化に向け、会員事業者に周知と指導を求められた。
現在、関係機関と打合せを重ね、指導内容を詰めているところ。
高木氏の講演資料PDF
講演4:「 食品表示について 」
食の信頼向上をめざす会 会長 唐木英明氏
消費者は賢くて、常識を持っているし、表示や広告を目安に過ぎないと思っている。値段と品質を比較して考えて買い物もしている。何でも表示すればいいような風潮は無駄を生む。たとえばトレーサビリティについては実際には余り見ていない。
問題と課題
小売店で「ロース」といえばロース部位をさしている。そして消費者庁は「ロースは最高の肉と消費者が認識している」と見ている。一方、焼肉店では過 去数十年にわたって肉を赤身肉と脂身が多い肉の2つに分けて提供し、これらを「ロース」と「カルビ」と呼び習わしてきた。客もこれをおかしいとは思ってい なかった。「ロース」も「カルビ」も「料理名」であり「部位名」ではないからだ。
○○ロースという料理名は本当に市民をミスリードしているのか。優良誤認なのか。
唐木氏講演資料PDF
意見交換会
適切な表示
・ロースでない部位にロースと表記するのはよくないが、これはロースを人々は最上の肉だと思うだろうという憶測があるからではないか。そういう表記が出てくるのではないか。
・消費者は、ロースと名がつく料理に他の部位の肉が混じっていてだまされたと思うだろうか。めんたいはスケソウダラの卵だが、めんたいスパゲティ、めんたいソースなどは出回って、名前が定着している。
消費者の要望
・脂身の有無がわかり、自分の健康状態や好みに合った肉が食べられれる表示がいい。
・どんな状況で市民は騙されたと感じたり、不信に思ったりするのか。
・市民が本当に求めていることを調査して把握する必要がある。
・実態にあった表示が必要。表示と実態の開きについて調査する必要がある。JAS法の表示が実情に合わせて行われるべき。
その他
- 焼き肉、外食で対象になる業者は20,000軒くらいだが、誤解のないメニューについて検討していきたい
- 今日のような話をつき進めていくと、過剰規制になるのではないかと思う。消費者の納得は値段と味に対する満足を求めており、規制強化するとそれをくぐる別の動きも出てくる恐れがあるのではないか。
- 焼肉の表示が問題になっていることをほとんどの消費者は知らない。消費者が「おかしい」と感じるのか、調べることが大事。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )のHPに掲載されております。
■ 第9回メディアとの情報交換会 「今さら聞けないCOP10(コップテン)」2010年9月28日
詳細
2010年9月28日(火)、ベルサール八重洲(東京都中央区)にて「第9回メディアとの情報交換会」を開催しました。当日は「今さら聞けないCOP10(コップテン)」というテーマでの講演が行われました。講演終了後、参加者との意見交換会も行われました。
講演1:「 生物多様性条約と世界 」
筑波大学大学院生命環境科学研究科遺伝子実験センター 教授 渡邉和男氏
はじめに
生物にはいろんな種がある。種内にはいろいろな品種があり、それが様々な環境の中で生態系をなしている。(1)生物多様性は生態系、(2)生物種、(3)遺伝子の3つのレベルで捉える。
過去200年、特にこの50年で、1000倍の速度で急速に生物多様性が失われている。 250-300くらいの環境に関わる条約(水、化学物質など)が あり、生物に対してはラムサール条約、ワシントン条約があったが、対象が限定されていた。生物多様性条約に190カ国以上がメンバーになっている。 1992年リオ(ブラジル)で、気候変動枠組条約と一緒に採択された。次の3つの目的を持つ。
- 生物多様性の保全
カルタヘナ議定書 生物の種の保全 - 生物多様性の持続的利用
補足的議定書はないが、ワークショップによるガイドラインがある
国立公園の野生動物の狩猟、海の生物の漁獲に対して - 公平で衡平なアクセスと分配(ABS)
2001年、ボンガイドラインができ、名古屋で議定書をまとめることになり、現在は準備中。領土問題のように強力な主張ができる分野で、多国間で共通の関係でなく、2国間の関係で検討するのが基本。実際には経済条約となっている。
南アフリカのヨハネスブルグサミット(2002年)で、水、エネルギー、農業、生物多様性、労力の5つが重要と定められた。
COP8(ブラジル、2006年)で、ABSとTK(技術知)が主要課題になり、COP9でボンプロトコルができた。
カルタヘナ議定書
遺伝子組換え体の移動に対する事前合意を2003年に定め、103カ国が署名。160カ国以上が現在加盟している。
遺伝子組換え体を扱わないのでなく、どうやって輸入すれば、輸入先の生物多様性に悪影響を与えないか
COPMOP2 モントリオール 2005年 進展なし
COPMOP3 ブラジル 2006年 先送り
27条の責任と救済について議論していくことになった
COPMOP4 ボン 責任と救済の所在
COPMOP5 名古屋で責任と救済の決着をつける報告
EUは加盟国になっているが、LMO輸出国のほとんどは締約国になっていない
輸出表示、リスク評価・管理、情報整備、補償、能力構築、資金メカニズム等の詳細の運用事項の検討が今後も必要。
遺伝子組換え体の位置づけ
遺伝子組換え体は世界的に容認されている。遺伝子組換え体の国際取引をやめようとする国際的な動きもない。CODEX、WTOなどにおいても取り決められている。
発展途上国にも、自国で積極的に取り入れようとしている国が多い。
天然資源に関わる技術革新と国際議論
太古:土地と領土→利用の拡大と紛争
過去200年:石炭、天然ガス、石油資源、鉱物→各種化学技術の発展による産業革命と資源の高次加工利用、資源に関わる国際紛争、世界大戦から国際条約へ
過去30年(バイオの時代):遺伝資源はバイオテクノロジーによって、CBDなどの取り決めを経て高次に利用できるようになった
CBDの実態
- WTO、TRIPSなどの経済交渉の逃げ場になっている
- 南北問題が表面化する場になっている。
- よい意味、よくない意味での非政府組織の介入
- 途上国には対処方針の整っていない政府もある
国家に属するものとして遺伝資源が強く主張されているばかりで、弱者受益者(自作農家、極地生活者、先住民族など)の権利が真に認知されていないのではないか。
農業生物資源多様性
地球上の地上植物は30万種、食べられるのは8万種、作物として頻繁に利用できるのは300種。品種改良されて活発な投資の対象になっているのは30種程度。
例えば、粟は貧しい人の食べ物だったが、今はダイエット食品、高級品として再発見されている。
ミャンマーでは、今も裏庭の植物を取ってきて食卓に乗せるが、そこにはトマトなどミャンマーに自生していないものも混じっている。 コロンブスが世界一周する前は、トウモロコシもトマトも欧州にはなかった。
ナス科の作物は、南米から全世界に広まった。トウモロコシ、インゲンマメは南米から特にアフリカへ。ジャガイモはアイルランドや ネパールで重要な食料保障をして人口を増加させた。
日本でも多くの作物は外来が多い。日本の国内農業は7兆円マーケットで、マンゴー、パパイヤなどの熱帯果樹は高級品として日本の農業に潤いを与えている。一方、今でも、ヤーコンなど、海外から新しい作物が入ってきている。
また、日本はもらうだけでなく、遺伝資源の貢献もしていることは知られていない。例えば、コムギ農林10号の2つの遺伝子、米のひとつの遺伝子は総計で世界に毎年約5000億円の経済効果を生んでいる。
局所的に用いられている作物にも今後、新たな利用があるかもしれない。アクセスが制限されると、多様性評価ができない国(民族 抗争の中で失われつつある資 源)の資源の利用はできなくなる。発展途上国の農業食料遺伝資源には、危急に確保が必要で、それは専心刻が担当すべきだろう。
遺伝資源は、政治的、経済的な関心で、アクセスが難しくなってきている。国際法で一律に保全しようとしているが、難しい。
CBDCOP10はお祭りではなく、世界中で、よくよく考えて行かなくてはならない。
渡邊和男先生講演資料PDF
講演2:「メディアから見た生物多様性の話」
毎日新聞 科学環境部 副部長 田中泰義氏
はじめに
生物多様性条約は、これまで情報も多くなく、市民の関心も低く、取材の機会も少なかった。2010年9月22日、国連総会で初めて生物多様性首脳級 会合が開かれた。生物多様性は経済の視点や主権との絡みで話している人が多い。途上国からみると「自国の資源をこれ以上、持ち出さないでほしい」「持ち出 すなら利益を還元してほしい」という主張。
日本からは里山(身近な環境)保全を提案している。海外では、里山から何か利益がえられるので里山を大事にするのか、あるいは日本はおめでたい国なのかと聞かされる。
環境条約
1972年 ストックホルムの会議で、環境に目が向くようになる
1992年 気候変動枠組み条約、生物多様性条約ができた
この双子の条約の下に議定書ができた。
生物多様性について、90年から2010年9月末までに、毎日新聞が扱ったのは720件、気候変動枠組は2692件、京都議定書4281 件、カルタヘナ議定書17件だった。このように生物多様性は認知度が低い。ワシントン条約は認識が80%以上なのに、生物多様性を認知しているのは 35%、京都議定書は80%、地球温暖化は90%。
関心の低さ?国立環境研究所や民間企業のアンケートから
生物多様性への関心はなく、多くの人の関心事はリサイクルや温暖化。
生物多様性の恵みを感じるかという質問に対して、感じることはない22%。生物多様性の恵みを感じる場面としてあげられたのは、雄大な自然にふれたとき、 きれいな空気や水、自然環境に関するドキュメンタリーなど。薬や食料などの恵みを理由にしている人は少ない。
農業水産大臣、環境大臣、外務大臣は今回の内閣改造で全部変わった。そういう状態で、複雑な交渉をまとめられるのだろうか。
温暖化と生物多様性
温暖化と生物多様性には、共通点と相違点があると思う。
○共通項
温暖化はエネルギー、生粒多様性は遺伝資源の争奪戦。どちらも国益。
- 温暖化で生物多様性の喪失も加速している。
- 米国は京都議定書、生物多様性条約に批准していない。
○相違点
- 中国の関わり。温暖化では発言を繰り返し、交渉を複雑化しているが、生物多様性では、薬のもとの提供国であり、開発国でもあり、沈黙しているようだ。
- 温暖化はIPCCがデータ蓄積を行い評価しているが、生物多様性評価の仕組みが不明瞭
まとめ
COP10の交渉に成功するかどうかは、今後の環境外交を占うことになるだろう。温暖化も生物多様性も国益問題であり、生物多様性への低い関心を高める工夫が必要。
里山へのこだわりだけでいいのか。
温暖化もかつて市民の理解を得るのは難しいといわれた。生物多様性も市民が情報に触れるようにすることが大切。そしれ、基礎データの蓄積が重要。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )のHPに掲載しております。
■ 第8回メディアとの情報交換会 「地産地消とは?」2010年7月20日
2010年7月20日(火)、ベルサール八重洲(東京都中央区)にて「第8回メディアとの報交換会」を開催しました。当日は「地産地消とは?」というテーマの下、生産と流通・販売の現場、農業経済学の視点から、情報提供が行われました。
開会にあたって「地産地消とは」
食の信頼向上をめざす会 代表 唐木英明氏
現在、地産地消に国は33億円の支援をしている。給食への導入、道の駅などの直売所が開かれて、その数13,000箇所に上る。半数以上の事 業の収益は、1,000万円未満。地産地消は、国産品の安定供給、自給率向上、農業構造の改革推進、農業景観維持などに貢献をしているだろうか。その他、 食育、顔の見える安全安心農業、地域産物の理解推進、輸送距離短縮にも影響を与えているようだ。今回は、「地産」している生産者、「地消」しているコープ こうべ、経済学の立場からお話をうかがい、全員による意見交換を行う予定です。
唐木先生資料(PDF)
講演1:「 地産地消について~女性農業士の立場から 」
女性農業士会坂東支部 元会長 荻野利江 氏
坂東の農業
坂東地域農業改良普及センターには、古河、境、五霞、坂東の4つの市の生産者が関わっており、坂東のネギ、古河市の市花であるバラが有名。その他、東京に出す野菜(レタス、トマト、ハクサイ、キャベツ、キュウリなど)が栽培されている。
私の家では、100頭余の乳牛を私たち夫婦と息子で世話している。搾乳できるのは出産した牛だけなので50-60頭。息子が加わってから 30頭を100頭に増やし、パーラーといって、朝と晩に牛を追いこんで一度に5頭から搾乳できる仕組みを導入し、2機あるので10頭ずつ搾乳している。私 一人で1回、約90分でできる。最近はヘルパー制度(酪農組合に登録された若手酪農家が手伝いにくる制度。後継者の育成や休日をとれる仕組作りが目的。) を利用し、昼間に自由な時間が持てたり、休みができたりして、以前よりは余裕をもって酪農ができる。
女性農業士の活動
茨城県では、知事から任命されて、60歳定年で男性は農業経営士、女性は女性農業士になると、リーダーとしての活動を行う。定年40歳で若いリーダーは青年農業士として活動する。
女性農業士として、市民に農業のことをよく知ってもらおうと、道の駅での実演販売や農村体験を行っている。利益を増やす目的よりも、こういう活動をして いる人がいることを知ってもらうことや、共に活動するなかでよいアイディアが生まれる等、人とつながりを大切にしている。その他、地区の学校給食センター に地場野菜を子供たちに食べさせたいと提案したり、古河の伝承技術を広める講座で講師を務めたりしている。
私が今、熱心に活動しているのは「食遊三和」という活動。6名(うち2名は女性農業士)がそれぞれ、加工の資格を持つ製品をワンボックスで道の駅に出した り、調理実習をしたりするなどの活動をしている。ワンボックスがデザイン賞をとり、嬉しくますます互いに元気が増してきている。
これから
我が家では、息子に「酪農は楽しく利益が上がる」ことを意識させるように「美牛コンテスト」で牛を引かせるなどしてきた。後継者問題の解決に、親が農業をよい職業として、子ども見せていくことも大事ではないかと思う。
「消費者は曲がりキュウリを理解してくれない」、「農薬を使う意味をわかってくれない」などという生産者もいるが、まず、農業を知ってもらうように私たちから出ていくことが大事だと思う 。
荻野先生資料(PDF)
講演2「 地産地消の意義 」
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 中嶋康博 氏
地産地消の実情
直売所の売り上げは、大きい団体では1億を超えるが、小グループでは約1,000万円。約14,000か所の農産物直売所があるといわれている。
事例1 愛媛県内子町「からり」:道の駅に併設。日本で有名な直売所。売上状況を農家に携帯、インターネット、ファックスで伝え、不足しそうな製品を持ちこんでもらう仕組みを他に先駆けて開発。
事例2 茨城県 ポケットファーム「どきどき」:直売所とレストラン併設。全農茨城県本部が運営。自動車で来るお客さんが対象。
事例3 山形県白鷹町「どりいむ」:出品者の顔写真を掲示。販売所ではトマトが人気。フアンは出品者の名前を見て選んで買う。
事例4 山形県長井市「伊佐沢共同直売場」:共同直売所で、出品者の顔写真とメッセージを掲示。手作りの小屋で運営しているが、とても人気がある。冬は閉所。伊佐沢のすいかが有名で全体的に果物中心(果物の多い山形県)。運営は無理せず、拡大しない。
事例5 長崎県諫早市「大地のめぐみ」:産直団体組合が運営。有機、特別栽培の農産物を販売。信用できる産直団体の産物(自分たちと同じような基準や信念を持って栽培している)を連携品として販売。
直売所の販売額
直売所の販売額は、158,820百万円。農協や第3セクターが運営するところの売り上げが大きい。売り場面積が大きい所では3-5億円、大手スーパーよりも1販売員あたりの販売額が高いところもある。
地場産物の占める割合は平均7割。小規模なほど地場の率が高くなる。利用者の6−7割が近隣の人。扱っているものは42%が野菜、米などの穀類が15%、果実、農産加工品、花・花木、豆・きのこ・芋などが10%前後。
農家1戸あたりの販売額は、年平均25万円。しかし1ヶ月の売り上げが20万円を超える農家もいる。
特徴は女性パワーが強いことで、直売所の総数は増加中。
戦後における社会と農業の変化
戦後、日本は人口が急増し、約2倍に。2005年にピーク。あわせて穀物、青果物、畜産・魚介類の消費量も増えた(人口の伸び以上に農産物が伸びた)。人 口は東京、名古屋、大阪に集中して増加。大消費地へいかに効率的に農産物を送るかが課題。都市部の農業はなくなり、北海道、九州などの遠い県から消費地へ 運ぶようになった。
東京と大阪の市場で売られたトマトときゅうりの生産地を見ると、昭和30年代は近郊が多かったが、今では九州や東北などの遠隔地がほとんど。この結果、食と農の距離がひろがり、現在は「広域流通」は「大量生産販売」の時代。
地産地消のモデル
地産地消は次のような生産・流通モデルの発展した結果。
モデルA 地場流通:生産地の消費者が買う。生産地と消費地が同じ地域。
モデルB 産地化・広域流通:生産地と消費地が離れていて、生産地から消費地へ商品を運ぶ
モデルC 地産地販:生産地と消費地が離れている、生産者がわざわざ売りに行く場合と、消費者が自ら買いに来る場合がある。産地と消費者が近づく(顔の見える販売)。
消費者は何を求めているのか
1970年から1990年 実質食料支出額はカロリー摂取以上に増加。食べきれないほど買って捨てていたことも。
1990年代後半以降 バブルが崩壊し、自分の食を見直す時期が到来。
ホンモノ、新鮮な食材、安全な食材を求めて直売所に向かう市民が現れた。地産地消は地域活性化、自給率向上に貢献すると思う消費者が増えている。
地産地消の意義
- 規格外商品の販売
- 小規模農家の販路確保
- 女性のエンパワーメント
- 産直組織におけるビジネスの多角化(こだわり農産物の販売)
- 情報発信の拠点としての期待(コンビニのような役割)
- 農産物の多様化(作られなくなった伝統野菜の復活)
- 業務用販路の拡大(シェフが面白い素材を探しに来る)
中島先生資料(PDF)
講演後、参加者から地元野菜を給食に取り入れた際の苦労した点や生産者の役目が品物を切らさない様にすることから「名物は売り切れる」という今までとは異なる方向に進んでもいいのではないか等の率直な意見交換が行われた。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21( http://www.life-bio.or.jp/ )のHPに掲載されております。
■ 「食の信頼向上をめざす会」2009年度活動報告
詳細
食の信頼向上をめざす会も2010年3月31日で2年目の活動を終了致しましたので、その活動内容を下記の通り報告致します。
2009年度活動内容
1.第4回メディアとの情報交換会
2009年6月1日(月)に、「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。『国際獣疫事務局(OIE)総会にて日本はBSEリスクの管理され た国に認められた』をテーマとした。国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部長 山本茂樹先生による『OIEによる日本のBSEリスク評価と日本の BSE対策変更の必要性』、消費者の立場から、当会幹事で生活協同組合コープこうべ参与の伊藤潤子氏によるの『OIE判定を機にBSE問題についての雑 感』、および生産者の立場から、中部飼料株式会社 本社工場 養牛課長 山村登志夫氏による『OIE判定と日本の畜産業者の考え方及び対応の変化』の講演 を行った。
その後、メディア関係者、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。
第4回メディアとの情報交換会報告箇所へ
2.食品安全委員会人事に関する日本学術会議会長談話をホームページに掲載
食品安全委員会の国会同意人事の否決について、2009年6月末に日本学術会議会長の談話が発表。ホームページに掲載した。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d4.pdf
3.第5回メディアとの情報交換会
2009年8月7日(金)に「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。『リスク評価・リスク管理と政治の関与』をテーマとした。日本イーラ イリリー株式会社開発・薬事・品質管理部長・獣医師 福本一夫氏による「リスク評価とリスク管理の問題、とくに政治関与?ラクトパミン事例」、当会幹事で 食品添加物協会常務理事の佐仲登氏による「ニガリについて」、および当会会長の唐木英明氏による「リスク評価・リスク管理と政治の関与」の講演を行った。 米国などの養豚業者が利用している動物薬“塩酸ラクトパミン”や“ニガリ”の事例が紹介され、その後、メディア関係者、講師の方々ならびに会員も参加して ディスカッションを行った。 第5回メディアとの情報交換会報告箇所へ
4.公開討論会『食の信頼向上をめざして』の開催
2009年10月6日(火)に、学術会議獣医学分科会・食の安全分科会の共催により、日本学術会議講堂で開催した。当日は、研究者、企業関係者、メ ディア関係者、市民、学生など約200名が参加した。食品安全委員会委員長 小泉直子氏による「食品安全委員会の今後の役割」、消費者委員会委員長 松本 恒雄氏による「消費者委員会の発足の経緯とその役割」、および当会幹事で消費者委員会委員の日和佐信子氏による「食の信頼向上をめざす会 この1年間の活動」の講演を行った。その後、講師の方々ならびに参加者とのディスカッションを行いました。 公開討論会『食の信頼向上をめざして』の開催報告箇所へ
5.第6回メディアとの情報交換会
2009年12月14日(月)に、「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。『トクホとは何か?エコナ問題をきっかけに』をテーマとした。 花王株式会社 ヒューマンヘルスケア事業ユニット フード&ビバレッジ事業グループ長 安川拓次氏による『エコナ問題の顛末』、国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部主任検査官 薬学博士 畝山智香子氏による『海外での健康食品の状況から有効性と安全評価の基準を中心に』、および科学ライター 松永和紀氏 による『エコナ・トクホ報道 ?政治に利用されるマスメディア』の講演を行った。その後、講師の方々ならびに会員も参加してディスカッションを行った。 第6回メディアとの情報交換会報告箇所へ
■ 第7回メディアとの情報交換会 「不適切な報道はなぜ起きたのか」2010年4月28日
詳細
2010年4月28日(火)、食品の信頼向上をめざす会では、ベルサール八重洲(東京都中央区)で「第7回メディアとの情報交換会」を開催しました。当日は「不適切な報道はなぜ起きたのか」というテーマの下、講演および意見交換が行われました。
講演1:不適切な記事とは
食の信頼向上をめざす会 代表 唐木英明
記事は執筆者の個人的信念からできる。信念には時として不適切なものもある。
不適切な記事の条件として、3つくらいに分けられる。
(1)偽造・捏造、誹謗・中傷
(2)誤解・曲解
(3)極端な意見
(1)は筆者の倫理感の問題であり、基準もはっきりしている。
(2)、(3)については、基準があいまいなため、きちんと議論する必要がある。
(2)、(3)について、多くの出版物でみられると思う。
今回の講演の背景にあるのは、農薬・化学物質に対する誤解である。
(1)「化学物質には危険なものと安全なものがある」という誤解
農薬や添加物は危険である。しかし、ビタミン、ミネラルまたは健康食品はいいものであるという誤解。
どんな化学物質も大量に摂取すれば毒、少量なら無毒という量と作用関係がある。
(2)「複合汚染の恐怖」という誤解
それぞれの化学物質単独の安全性は確認しているが、複数を一緒にとると身体の中で反応して恐ろしいことが起こるかもしれないという思い込み。
薬の場合は必ず効果のある量を飲むため、相互作用が発生する場合はある。しかし、添加物や農薬は非常に少量、閾値より高濃度なら相互作用があるが、閾値以下なら作用はない。これも化学物質の量が問題となる。
(3)「天然・自然が安全」という誤解
そもそも野菜・果物には天然の発がん性物質が含まれている。それに比べると、残留農薬の量はずっと少ない。何がどのくらいの量あるかを知ることが大事である。
また、食品安全の二重基準が知られていない。
(1)「食の安全は守られている」という言葉は、人工物質や新技術で作られたものは厳しく審査しているからこれによる被害はない(安全ということを意味する)。
(2)「食品にゼロリスクはない」という言葉の意味は、自然の食品には発ガン性があり、食中毒を起こし、アレルギーを起こし、食べ過ぎれば生活習慣病を起こすことを指す。
このほかに窒息を起こさせる食品のリスクもある。死をもたらすようなリスクの源は、たばこと毎日の食事であり、残留農薬、遺伝子組換えなどのリスクは実は小さい。人間は危険情報に気をとられてしまう習性があり、それが誤解を招く。疑う視点が必要!
講演2:食品安全委員会の掲載記事(AERA 2010.3.10)
食品安全委員会農薬専門調査会前座長 鈴木勝士食品安全委員会の掲載記事(AERA 2010.3.10、35−37ページ)
何が不適切だったか。
(1)ゲラチェックを取材条件にしたのに反古にされたこと。
(2)事実無根など極端な結論があること。
私が提示し、記者が同意した取材条件 2008年12月
- 記事が事実誤認、曲解などにゆがめられた場合、被取材者は責任がとれないことがある
- 被取材記者が個人として責任を果たせ得るような発信になっているかなどゲラでチェックしないと同意できない場合がある。
時系列にふりかえってみると
被取材者は三上委員長、鈴木座長、村上前課長。ゲラが送付されてきて、事実誤認であると通知し、記事は1年近く出なかった。私は没になったと思っていた。
AERAのゲラに対して食品安全事務局から送った質問状の内容
- タイトル「農薬の人体影響から目をそらす食品安全委員会の正体」→そんな意実はない
- 村上課長は農薬専門調査会に異議申し立てをしたのか→事務局は専門調査会を補佐する構造にあっていない
- 村上氏が去って資料が十分提出されていない→調査会が力不足のような書き方
- バランス判断による毒性が評価されて危険性だ→科学はバランスで考えるものではない。
- 見上委員長、鈴木座長は獣医で業界寄り→出身で考え方が偏っていると見るのは間違い。
- コリンエステラーゼのみで評価することが問題だ→クロルピリホスによるコリンエステラーゼの活性阻害は米国やJMPRでのADI設定根拠にされている。
- 食品安全委員会が決めたADIはアメリカよりも3.3倍も甘い→間違い
2010年2月の掲載に際して
発売前に連絡があり、今回のゲラを見せるように話したが、何も変わっていないのだから見せる必要なしということだった。修正申し入れ後、修正状況を確認したかった。ゲラを見せないなら、状況によって訴訟もありえると伝えた。
食品安全委員会から抗議せず。
面会したところ、アエラ編集長は不快な思いをさせたことにお詫びはあった。ゲラを見せる約束について記者と確認したが両者の言い分はかみ合わないから誌上対談にしてはどうかという提案があった。
今回の企画と前回の企画の比較
タイトルが「人体影響から目をそらす」から「真実に目をふさぐ」となるなど、前よりもエスカレートしている。
問題点
- 危険な薬剤を問題ないとしている→急性参照量設定にふれるべき。
- 日本の基準はアメリカと比べて3倍ゆるい→他の国との比較が必要。
- 常勤職員の半数が農水出身で農業保護→独立、科学主義、公開原則を貫いている。
- 獣医系の座長は無能で、有能な課長だと批判→事務局は専門調査会を補佐し支えている。
- バランス判断による毒性評価→科学性に基づいて議論している。
最終的に示された極論 - 農水省出身者を除く→食品安全基本法遵守で、出身官庁は関係ない。
- 雇用先を全面的に研究機関、大学に求める→適任者を集められない。
- リスコミをやめ科学的な健康影響評価に専心する→リスコミは関係官庁の共同作業。
- バランス判断で科学評価しているなら組織自体を廃止せよ→廃止の理由なし。
結果的に、思い込みに始まり、曲解→誹謗・中傷、名誉毀損、極論に達してしまい残念だ。 - 化学物質は毒。
- 安全基準は真に科学的には決められない。
- 農水出身者は公正な審議ができない。
講演3:「ある自治体の講演について」
鈴鹿医療科学大学教授 長村洋一
枚方市主催講演会への阿部氏招聘をめぐって
牧方市消費生活センターで、安部司氏を招いて講演会をすることが決まった。これに対して、ある人(A氏)が、講師の著書などを根拠に同センターに質問状を出した。
安部司氏の活動にあえて苦言を呈すると、話術は巧みで、彼の発言に対して信者のようなグループがいる。バラエティー番組やある一部の人たちの生き方なら 文句は言わないが、引き起こしている影響が大きすぎる。結果として、自治体が支持していることになり、国民の食添、遺伝子組換え、BSEなどに対する間 違った感情助長につながっている。
「牧方市のA氏の質問を真摯に受け止めてください」(フードサイエンス「多幸之介が斬る食の問題」)という記事を私は書いた。
一般市民向け公開講座を行ったときに市民にアンケート調査をしてみると食品にDNAが入っていないと思っている人は6割いる。これが、日本人のいわゆる科 学と直接縁のない人の予備知識の状況である。そのような環境で、「食品添加物は台所にないものだから、あってはいけないものです」と主張すれば、これは、 一部の一般大衆のしっかりした考えとなってくる(信念の根拠になる)。
阿部氏の実演実験「添加物だけで食材なしに豚骨スープを作ってみせる」は、試薬ビンに豚骨エキスパウダーや醤油粉末などを入れるという驚くべきインチキ的 実験である。彼が問題としているその他の添加物も、グルタミン酸ナトリウム、5−リボヌクレオチドナトリウム、リンゴ酸などであるが、これらは我々の体の 中に元々含まれており、食品添加物としての使用量において全く問題のない食品添加物である。無意味な恐怖をあおる行為は一般人には奇妙にみえない。
例えば、ADIは1日摂取許容量といい、動物実験で定められる。動物にある化学物質を与えたとき、高濃度になれば致死量になり、それ以下だと中毒量(肝 臓に障害が生じる)、さらに低いと作用量となる。さらに量を減らして作用の生じない量(最大無作用量)の100分の1がADIと決められている。しかし、 安部氏は、致死量の100分の1がADIだと説明している。量の概念を欠いた科学的には極めて重大な誤りであり、食の安心・安全において極めて重要なリス ク管理の概念が全くない。こうした、誤った話が一般の人には誤ったものと判断できないため、全く問題の内容に捉えられ「食品添加物とは怖いものだ」という 考え方を定着させているのが現状である。
食品添加物の役目
食品が健康被害を起こす最大の理由は食中毒で、その9割以上は微生物に起因している。添加物は微生物による被害抑制のために使用されている。安全な食生活に不可欠である。
微生物による食中毒の観点のみならず、食品を無駄にしないという点からも考えなくてはいけない。食品廃棄の理由の第1位は賞味期限切れ、2位は鮮度落ちや カビなど、3位は色やにおいの異常となっており、食料を無駄にしないために食品添加物が利用できれば、一定期間、安全に食品を保存できる。8億人が飢餓に 苦しむ世界の食料事情を考えても食品添加物は必要である。
使用していない添加物を“○○を使用していない”と書く義務はないが、最近は多くの食品に無添加の表示が見受けられる。これでは 食品添加物の役割に人々は気付かないのではないか。
例えば、保存料ソルビン酸カリウムで抑制できる菌をpH調整剤酢酸ナトリウムで抑える力を比べると10倍くらいの差がある。毒性において、両者に殆ど差がないため、適切な保存料を使用する方が適正な使用であることが分かる。
食品添加物で安全に賞味期限を延長できることは、これからの世界の食糧事情にとってすばらしいことだと私は思う。
食文化について
阿部氏は調味料を使うことは手抜き料理で食文化をすたれさせるという言い方をする。
うま味調味料のグルタミン酸ナトリウムは昆布から見つけられた。実際に昆布を使わずに昆布のおいしさ感じさせることは科学の勝利ともいえるのではないか。 これは、食べられる物を無駄なく十分に活用する知恵にもつながっている。調味料を使うこと、食材そのものを使うことの両方を使い分けることがより豊かな食 生活を形成させる。
枚方市への質問と対応
講師の著書、「食品添加物をめぐる諸問題その1(長村洋一)」と「メディアバイアス(松永和紀)」をもとに、開催趣旨、講師選定などの理由を質問したところ、牧方市は丁寧に回答したそうだ。主な内容は以下のとおりだった。
- 講演実績(大阪で400人を集めた実績があり、全国での講演回数が多い)
- 知名度(講演実績があり知名度がある講師を招かないと、参加者募集が難しい)
- 間違ったことはいっていない(添加物を悪だとはいっていない。表示への関心を喚起している)
- 環境問題には発展させない(食料を無駄なく使うために食品添加物は重要で環境負荷を小さくしているとしても、そこまで発展させる予定はない)
- 参加者の予備知識(毎日10gの添加物を摂っていると聞かされたときにおかしいと気づくくらい予備知識のある人たちが聞いているのかという質問に対して、多分そこまでわかる人はいないだろうと回答)
- 他の開催地での評判(今まで講演したところで問題になっていない、広く受け入れられている)
などのやりとりの末、A氏は枚方市が再度、阿部氏を招聘することはないだろうと感じたそうだ。枚方市の担当者は真摯に取り組んでおられたが、このような講師を招聘してしまう社会に問題があるのではないだろうか。
まとめ
安部氏のやり方は典型的な誹謗・中傷のやり方で、@一点突破のわかりやすい攻撃を行い、A針小棒大な展開をし、B二分法でラベルをはるわかりやすい結論を導く、Cさらに感覚的な問題を科学とごっちゃにして説明することによって聴衆に誤った結論を確信させてしまう。
また、行政の役割は多岐に及んでおり、食品までは対応できず、誤解を正すより誤解を広める結果になっているのが現状。
これを正すのは市民の声だが、行政はその声に耳を傾けるだろうか。阿部司的手法は、「大義名分のためには科学を多少損なってもかまわない。」
きれいな言葉かけをした水はきれいな結晶になるという「水からの伝言」は小学校のテキストにもなっており、物理学会が抗議したところ、よい行動を定着させるときにこの程度のおとぎ話は許されるというのが、行政の回答だった。
「水からの伝言」と安部氏の話は科学の問題へ聴衆の感情を移入させ、誤った結論に導いている。このような論理展開が日常的に行われているとやがてガリレオの裁判のようなことが現代社会で起こりかねない。
講演終了後、関係者から取材に関する質問などの活発な質問がありました。参加者からの「クロルピリホスに関して米国のADIの基準値は低いとはどういう意味か」という質問に対し、鈴木先生から回答がありました。
「EPAは環境中からの摂取も含め基準を作っている。食安委では食物からの暴露について基準を決めている。日本の基準は緩い訳ではなく、きちんと毒性を評 価して、ADIを決めている。しかし、その後の手続きの中で、薬食審が残留基準を設定できないでいる。米国のADIは厳しくても、残留基準を実態に合わせ て決めているので実際は利用できている。日本は残留基準をきめるのに理論最大1日摂取量(TMDI)または推定1日摂取量(EDI)を用いて決めている。 この試算では暴露実体と合わないことがある。」という回答がありました、もっと知りたい方は以下の参考文献を見てください。
残留農薬の推定摂取量に関する資料:Report of a Joint FAO/WHO Consultation on Guidelines for Predicting Dietary Intake of Pesticide Residues (Geneva 5-8 October, 1987) http://whqlibdoc.who.int/hq/1988/WHO_EHE_FOS_88.3.pdf。
TMDI、EDI等についてはGoogleなどで調べて頂くと良いと思います。EDI試算による残留基準(MRL)は実際の残留レベルに基づいて計算され ますから、TMDI試算の場合よりは残留実体に近いものが得られます。調理、加工などの工程でさらに残留レベルは低下しますから、米国ではこれらのファク ターも考慮してMRLを決めるため、日本よりADIは低いのにクロルピリホスを使うことができ、かつ安全性も担保されているということになります。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21とめざす会のHPに掲載されております。
■ 第6回メディアとの情報交換会 「トクホとは何か?エコナ問題をきっかけに」2009年12月14日
詳細
2009年12月14日(月)食の信頼向上をめざす会では東京八重洲のベルサール八重洲(東京中央区)で「第6回メディアとの情報交換会」を開催しました。当日はエコナ問題をきっかけに「トクホとはなにか」というテーマの下、講演及び意見交換が行われました。
講演1:「エコナ問題の顛末」
花王株式会社 ヒューマンヘルスケア事業ユニットフード&ビバレッジ事業グループ長 安川拓次氏
エコナの一時販売自粛・トクホ失効に至った経緯
1998年、健康エコナクッキングオイルに特定保健用食品(以下トクホ)表示許可が与えられ、1999年から発売された。2003年、「念のための試験 (厚生省薬事・食品衛生審議会・新開発食品部会で発がんプロモーション試験を行い報告)」が始まり、追加試験が加わり、現在まで審議が継続している。海外 では、2009年3月、ドイツでグリシドール脂肪酸エステル(以下GE)の安全性見解が公表され、花王では、6月にエコナにGEが多く含まれると報告。9 月16日、リコールではなく、販売自粛を公表。10月8日、トクホ表示の失効届けを出した。
一般的な油の主成分はトリアシルグリセロール(以下TAG)であるが、エコナは80%がジアシルグリセロール(以下DAG)で、そのうち30%が1-2DAG、70%が1-3DAGである。
油脂は美味しさのもとでもあるが、食べ過ぎると体脂肪として蓄積する。TAGは体内で1-2DAGに分解される。DAGの有効性として、食後の血中中性脂 肪抑制、継続摂取による体脂肪減が報告されている。BMI(Body Mass Index)22?27位の人を対象にエコナの試験をしたところ、体重、 腹囲等に軽減効果が確認された。栄養指導下で脂全体の摂取を指導したところ、効果的に体重が減少したため、肥満・糖尿病防止に役立つと考えた。
エコナ製品の安全性
国際的な基準(GLP:Good Laboratory Practice)に従って、安全性試験(急性毒性、反復毒性、変異原性、生殖毒性、発がん修飾の動物試験)が行われている。動物実験の結果では、 50kg体重の人に換算すると1日に125?485g摂取しても安全性に問題は見られなかった。この安全性試験に基づき、世界33カ国で使用許可が与えら れている。「念のための試験」とは、厚生労働省食品衛生審議会新開発食品調査部会が要求したもの。平成15年6月、トクホ承認時、2年にわたるラットを用 いた発がん性試験からDAGに発がん性がないことがわかった。しかし、発がん促進(プロモーション)作用が知られているフォルポールエステルはプロテイン カイネース(以下PKC)を活性化することが知られており、同様に、PKCを活性化させる作用が報告されているDAGにも発がん性促進作用があるのではな いかと考えられ、「念のため試験」が要求された。
グリシルドール脂肪酸エステルについて
3-MCPD脂肪酸エステルは体内で3-MCPDに分解されると考えられる。3-MCPDは1981年、MAGGIの調味料(ネスレ社)に見つかった。 3-MCPDは腎臓に影響を与え、良性腫瘍をつくることがあるため、同社は1991年までに製造プロセスを変更し、大幅な低減をした。重要なのは、この 間、販売が継続されたことである。
2001年、JECFAは3-MCPDを非遺伝毒性物質に分類。その後も、3-MCPDや3-MCPD脂肪酸エステルなどのリスク評価が主にドイツで続いており、マスコミでもとりあげられている。
一方、グリシドール脂肪酸エステルは体内で分解されるが、グリシドールになるかどうかはわかっていない。グリシドールには発がん性があると報告されてい る。グリシドール脂肪酸エステルは食用油を脱臭する工程でできるが、エコナの場合、一般食用油に比べて高く91ppmであり、約10倍含まれている。
今後の対応
脱臭温度を下げることでエコナ中のGEは大幅に低減することができる。GEの低減、代謝に関する研究及びGEの総合的な安全性評価を続けていく。世界の状況を見ながら、消費者にわかりやすい情報を提供していき、消費者庁の指導のもと、出直しを図りたい。
講演2:「海外での健康食品の状況から有効性と安全性評価の基準を中心に」
国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部主任研究官 薬学博士 畝山 智香子氏
歴史
特定保健用食品の表示について国が許可する制度は日本が最も早く1991年に発足。ビタミン剤の健康影響に関して行われた試験では、1985年 ATBC、CARETが始まった。ビタミンAサプリメントでがんが増えていることが分かり、試験は中止された。その後の同様の試験が続いた結果、特定の栄 養素を抽出したものを摂って病気を予防するという考え方は急に下火になっていった。
海外での評価
- FDA(米国食品医薬品局)では、申請者の提出した文献に対して、他の文献も併せて包括的にレビューし、労力と時間がかかる。その結果、認められた健康強調表示(ヘルスクレーム)は市民にわかりにくいものであるため、実際には表示されていない。
リコペンや緑茶と各種がんの関係など、多くが却下されているが(FDAで公開)、日本では見かけるものも多い。
申請者は効果を示す論文を集めて申請するが、包括的レビューを経ると、「○○を食べると△△病防止になるとする根拠は矛盾しており結論は出せない」という 結果になる。例えば、FDAが唯一認めた肯定的なヘルスクレームといえるものは「1日400mg以上の葉酸摂取が、女性が脳や神経の出生時欠損のある子ど も生むリスクを削減する」。 - EC(欧州委員会)では、「カルシウムは骨によい」、「ビタミンDは骨の発達によい」などの栄養学的に広く認められているものを除いては、認められていない。
- EFSA(欧州食品安全機関)では、提出されたデータを基に、厳密な評価を行っている。あいまいな表現を採用せず、類似物からの外挿や推定も基本的に 認めない。「お腹の調子を整える」はEFSAが解釈して「病原性細菌数を減らし腸内のバランスを回復する」というような具体的な形に修正されてしまう。栄 養状態が悪い国の子どもの栄養状態を改善したというデータが添付されても、その商品を売る対象集団が栄養のよい欧州ならば、その根拠は採用しない。例え ば、オリゴ糖、DHA、EPAなどは「因果関係は確立されていない」として、ほとんどが却下されている。
コレステテロールが高い人を対象にするものでは、コレステロールが高いとはっきり診断された人を対象としており、健常者が、コレステロールが高くならないようにするための予防に使わないようなヘルスクレームが認められる。 - オーストラリアの医薬品局の補完代替医療ガイドライン案では、かなり厳しいデータが要求されている。体重を減少させたい人の場合、確かにサプリの効果 がわかるようなデータが必要。たとえば、使用前に確かに太っていたこと、2か月以上の試験実施、5-10%の体重減少などを示すデータが求められる。
日本の特定保健用食品(トクホ)
日本のトクホはこのような海外の根拠や表示に比べると、とても緩い。特に条件付き特定保健用食品の承認は世界の流れに逆行している。食品に医薬品なみの試 験を求めるのは厳しすぎるという業界の考えもあるかもしれないが、健康強調表示は医薬品と同じような表示をつけることだから、同様の根拠を求められても仕 方ないのではないか。医薬品ならシーズではねられそうなものを、食品開発に利用しているように思える。
医薬品開発には非臨床試験の開始から平均して、11.5年で約350億円が投入される。それでも商品化されればいい方で、開発中止になることも多い。中止になった研究者の意欲を高く保てる企業こそが、医薬品や機能性食品の開発をすればいいと思う。
緩い審査条件がもたらすもの
安全性と有効性は表裏一体。明確でない有効性を根拠として認めれば、明確でない有害性の根拠も主張できるようになってしまうのではないか。
Southampton Studyといわれる研究では、「食用色素が子どもの多動やADHD(学習困難児)に影響するかもしれない」とした報告を巡る状 況が報告されており、食用色素との因果関係に敏感に反応したのは、もともと有害性を確信していた母親たちだった。
このような、確かな科学的根拠に絞らずに緩い基準で効果を認めることと、科学的根拠が薄弱でも小さい弊害に大騒ぎすることは表裏一体ではないだろうか。
がんの発症に酸化が寄与するという仮説をもとにした抗酸化物質などを用いたがん化学予防研究の現状では、ほとんどが影響なしと結論されている(死亡減少とされている報告は中国の研究で、もともとの栄養状態も悪かったようだ)。
人々の安全への要求水準は高まっている中、特定の製品を長期に摂取することを勧めるのは問題がある。「食品だから安全」なのではない。市場に多様な商品が供給され、多様な食品からバランスのとれた食事をすることが肝要。
講演3:「エコナ・トクホ報道 ?政治に利用されるマスメディア」
科学ライター 松永 和紀氏エコナ問題
「エコナ問題は大した問題でないのに回収することになった」と畝山さんがさらりと発言されたところから説明する。
エコナが体内で発がん物質に変わる可能性のある物質が検出されたという話と、トクホの位置づけは分けて考えることにして、以下の項目を整理したい。
- DAGとGEを整理して報道できていたか
- 体内で発がん物質になる可能性をもつ物質のハザードと、リスクを区別して伝えられたか
- 予防原則適用という考え方は適切だったか
安全性を伝えることの難しさ
花王の広報に問題があったと思う。例えば、安全性に懸念なしとしながら、安心して使って頂きたいので販売中止という流れの第一報。安全性確保の根拠、安心 感とは何かの切り分けの意味を知らない人にとっては、意味不明の内容になってしまっていた。実際に、私のところに取材に来た週刊誌の記者は「まったく理解 できず、企業の責任逃れのように読めた」と言っていた。
花王が、未だに断片的な情報提供に終始しており、全体像を提供する説明がいまだにないのは残念。マスメディアが科学的な報道をできなくても仕方がない面があった。
だが、メディアも取材の努力が足りなかったと思う。実は、エコナのGEのリスクについては、食品安全委員会の資料などにかなりの情報が含まれており、公表 されていた。資料によれば、まず、エコナ製品の安全性評価試験では、発がん性は確認されていない。さらに、体重50kgの人がエコナオイルを1日に10g 摂取する場合、GEが体内ですべてグリシドールに変化すると想定するワーストケースで、MOE(暴露マージン)値は約250である。
ここで、MOEについて説明したい。グリシドールのような遺伝毒性発がん物質は閾値を設定できないために、2000年頃からこのMOEという指標が用い られるようになった。MOEはおおまかに言うと、動物実験で腫瘍が発生する量と、人が実際に摂取する量を比較して、どのくらいの差があるかをみるもの。 EU科学委員会は、動物実験の値と人の摂取量の間に1万倍以上の差があれば、リスク管理の優先順位は低いとしている。
エコナ製品のワーストケースで約250という数値は、かなり低い。したがって、食品安全委員会も「リスク管理を急がなければ」と判断したのだろう。しか し、ポテトスナックやフライドポテト、ビスケットなどに自然に含まれている遺伝毒性発がん物質「アクリルアミド」の MOEは、平均的な摂取量の人で約 300、多く摂取している人では約75とされている。MOEが低いからといって、どの国もポテトチップスやビスケットなどを販売禁止にしているわけではな い。
MOE値がもっと低い食品は、アルコールなどいろいろとある。これらの食品が禁止されていないのに、なぜエコナだけがこれほど問題視されるのか。
現状では、エコナのリスクの大きさは不明だが、ワーストケースのリスクはかなり推測できていた。リスクが分からないから予防原則適用を、という一部の報道の論調は科学的にはあまりにもナイーブ、つまり未熟、単純すぎる。
今は検出技術がとても進み、これまで未知だった有害物質が見つかったり、定量したりできるようになってきている。未知の物質が登場するたびに、エコナのように騒いだり、規制していいのだろうか。
エコナのような説明が難しいケースには、食品安全委員会に頑張ってもらいたかったと思う。Q&Aは更新されていたが、わかりにくい。
どうして安全性の議論に時間がかかるのか、なぜグレーなのかを説明すべきだったと思う。こういう報道を放置していると、食品安全委員会への市民の信頼も損なわれ、残念。
花王は自社製品については主張しにくい。食品安全委員会も他の食品と比較しては書きにくい。だからこそ、私を含めてメディアが動くべきだったと思う。
しかし、私も書けなかった。3000字の連載記事でエコナ問題を取り上げたものの、MOEの説明や他食品との比較は書ききれなかった。他の食品が危険だ と誤解されるのは避けたい、と考えたためでもある。この姿勢が正しかったのかどうか、今でも迷っているし、もう少し明確に書くべきではなかったか、と反省 もしている。こういうことに、メディアに気付いてもらいたいと思っている。
消費者委員会の動き
10月7日の消費者委員会の議事録を読むと、DAGとGEの区別ができていない発言があった。後から、委員は会場に来てからエコナ問題を扱うことを知らさ れたと聞いた。こんなに複雑な問題を十分、説明せずに進めてしまう事務局のやり方に問題があるのではないか。櫻井委員は、消費者委員会に問題があるという 意見を公開されている。
消費者がわからないこと、リスクが少しでもあることに対して、「予防原則で」とまとめてしまうのは問題だと思う。
トクホの報道
市民もメディアも有効性と安全性評価を混同していた。トクホの安全性評価の考え方では、食経験の少ないものには特に、かなり細かい試験のデータの提出が求 められている。医薬品に比べたらトクホに求められるデータは少ないという意見もあるが、かなり多いともいえる。実際には、一般的な食品においては、安全性 のデータはゼロで食べられていて、その一般食品の安全性を基準にしてトクホの安全性は検討され、同等の安全性は確保することを要求されている。
有効性への疑問
トクホの有効性は製品によってさまざまだが、食品安全委員会新開発食品専門調査会が出した「特定保健用食品の安全性評価に関する基本的考え方」では、「多くの場合、特定保健用食品が意図する摂取対象者は、疾病予備軍のヒト」とされている。
トクホ申請の時に出されるデータは、疾病予備軍の人を対象としているのに、一般の人は、トクホを摂取するとますます健康になる効果があると誤解している。 また、薬事法により詳細な表示が許されず、企業は誤解を招きやすい表示をせざるをえない、という面もある。行政も説明不足。
トクホに問題があるという意見もあるが、根拠とする論文があるだけ、トクホはいわゆる健康食品よりは、はるかによいだろう。
体内で発がん物質に変化する可能性がある物質が検出された特定の食品を、データもないまま袋叩きにするメディアのやり方は公平だといえるのだろうか。科学的でない考え方をしている権力に対して、結局、加担する報道をしてしまったのではないかと感じている。
講演後、当会会長からのトクホの始まりについての話をきっかけに、エコナの審査についての質問やエコナ問題に関する率直な意見交換が行われた。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、くらしとバイオプラザ21とめざす会のHPに掲載されております。
■ 公開討論会「食の信頼向上をめざして-食品安全委員会、消費者委員会のこれから-」2009年10月6日
詳細
2009年10月6日(火)、日本学術会議講堂において、設立1年を迎えた食の信頼をめざす会と学術会議獣医学分科会・食の安全分科会の共催により標記討論会が開かれ、研究者、企業関係者、市民、学生など約200名が参加しました。
講演1:食品安全委員会の今後の役割
食品安全委員会委員長 小泉 直子氏はじめに
国際化、流通の広域化、新たな危害要因の出現(O157など)、遺伝子 組換え技術などの新規技術の開発、分析技術の向上により危険とはいえない微量物質も検出できるなどの食を取り巻く状況が変化している。食品安全委員会で は、国際的な流れと同じように、「食品にはリスクがあることを前提にしてリスク評価し、管理する(リスク分析の手法)方法」を奨励している。
食品安全委員会スタート
欧米でも食のリスクの評価機関が次々に設立された。日本の食品安全委員会はリスク評価をする機関として2003年設立。科学的、 客観的、中立公正にリスク評価を行う。その結果に基づいて厚生労働省や農林水産省がリスク管理のための基準策定を行う。ハザードに関する意見交換(リスクコミュニケーション)は両省と一緒に行っている。
食品安全委員会の役割は@リスク評価、A緊急時対応、Bリスクコミュニケーションの3つ。リスク管理機関からリスク評価の要請があると、専門調査会に審議を依頼し、審議結果に対する国民からパブリックコメントを求め、審議・評議をまとめて、リスク管理機関に周通知する。2009年9月16日現在、1175件の審議のうち、821件の評価が終了している。
委員会は7名(常勤4名、非常勤3名)で構成され、14の専門調査会(企画、リスクコミュニケーションには一般公募委員も含まれる)には206名の専門委員がおり、事務局スタッフ約100名がこれに加わる。
食品中の有害要因
食品中有害要因の健康影響評価とは、「食品の安全性を脅かす危害要因について、健康影響を生じる確率とその影響の程度を科学的根拠に基づいて中立公正に評価」すること。
ハザードとは、健康に悪影響をもたらす可能性のある食品中の物質または食品の状態。
リスクとは、ハザードの有害作用が起きる確率とその程度。
リスク分析とは、リスクをいかに避け、最小化するかを検討・実施する全体の考え方。
どんな物質も量を多くとれば体に悪影響を与える。昔から薬や毒のことわざが多いのも、毒も薬も使い方次第であるためだと思う。
例)ニトログリセリンは爆薬だが、狭心症治療薬でもある。
地球上に存在するもののほとんどはヒトの体内にも存在するから、「在るから有害」なのではではない。
危険物質の摂取量と人体影響の関係
一般に食品中の有害物質のリスク評価は、動物試験で無毒性量を決め、その無毒性量の100分の1をヒトが一生涯食べ続けても健康に悪影響を与えない量、すなわち一日摂取許容量(ADI)と決めている。
口から入った物は、腸管を素通りして排泄されるものと、腸管から吸収さ れて肝臓で代謝・分解・合成されるものがある。大事なのは体内に入ってきた物質の量と標的となる臓器の関係。例えば、メチル水銀は耐容摂取量以下ならば、 一生涯健康への悪影響は起こらない。しかし、水俣病患者では1mg/日以上という大量のメチル水銀を摂取し続けたため、中枢神経障害が起こった。ごく微量の ハザードは、毎日取り続けたからといって健康障害を起こさないレベルで一定となるので、どんどん蓄積されて健康被害を生じるということはない。
リスクコミュニケーション
専門家はより正確に、コミュニケーターは迅速にかつ分かりやすく、情報が伝えられると消費者は参加しやすくなる。
日本では、報道によって相談件数が増える現象を見ても、消費者はメディア情報に振り回されていることがわかる。つまりメディアの影響力は大きい。
評価や認知にはバイアス(外的、内的)がかかる特徴があることも、認識していなくてはならない。
外的バイアス:情報の多少、メディア情報、文献情報、オピニオンリーダーや他者の影響
内的バイアス:性格、経験、知識量、考え方、判断力、意識
食品安全委員会としては、リスクコミュニケーター養成、マスコミとの懇談会、サイエンスカフェ、e-マガジン、食の安全ダイヤル、機関誌発行、プレスリリースなどを行っている。
質問 オピニオンリーダーの影響というときに行政は入るか→メディアやテレビに出る人間をイメージしている。行政を入れたほうがいいかもしれませんね
講演2:消費者委員会の発足の経緯とその役割
消費者委員会委員長 松本恒雄氏消費者行政一元化〜消費者委員会発足までの経緯
福田元首相は2007年から消費者保護のための行政機能の強化に取り組むとし、2008年1月「生活者・消費者が主役となる社会を」と施政方針演説で述べた。
冷凍ギョーザ事件の対応が縦割りだったことへの反省から消費者行政推進会議が設置され、6月に「消費者行政推進基本計画」が閣議決定された。
消費者行政の三本柱は次の3つの一元化。
政策立案と規制の一元化 消費者の視点から政策全般を管氏する「消費者庁」設置。調整権限・勧告権の付与。表示・取引・安全に関する法律の所管・共管や既存の法律の隙間事案に独自の権限を与える。
情報の一元化 消費者センター、保健所などから届く全ての情報を一元的に扱い、対応。
相談窓口の一元化 全国の消費生活センターと国民生活センターをひとつにし、誰もがアクセスしやすい代表窓口として365日24時間対応する。
法律の整備・調整を行い、最終的には、2009年10月1日消費者庁と消費者委員会が発足。
消費者庁の役割
消費者庁には担当大臣が置かれ、法律執行をする4課(消費者安全課、取引・物価対策課、表示対策課、食品表示課)と、司令塔となる3課(政策調整、企画、消費者行政)から成る。食品については食品表示課で、消費者の安全は消費者安全課で扱う。
消費者庁には表示を主な切り口として、取引関係で8つ、業法関係で4つ、安全関係で5つ、その他で7つの法律の他に、新しく、消費者安全法と米トレーサビリティ法の2つが移管・共管されることになった。
健康食品に関係する法律を例にすると
次のような法律の表示の分野は消費者庁が担当し、その他の領域は今まで 担当してきた象徴と連携してあたることになる。食品衛生法(厚生労働省と協議)、健康増進法(特定用途食品の表示の許可など)、JAS法(農林水産省やそ の地方局が協力)、景品表示法(経済産業省より消費者庁に移管、執行は公正取引委員会が行う)、特定商取引法(経済省から移管されたが、執行は地方経済産 業局が行う)、隙間事案(担当省庁がない)は消費者庁が独自に所管する。
こうして、食品安全行政は次のように4元化された。
・リスク評価:食品安全委員会
・リスク管理:農林水産省、厚生労働省、消費者庁、
消費者委員会の設立の経緯
自民党消費者問題調査会のとりまとめによると、消費者Gメンが働くはずだった。
消費者設置法案(政府案):消費者庁に消費者政策委員会を設置し、重要事項を監視し、内閣総理大臣や関係大臣などに意見申述などを行う。15人の非常勤委員(任期2年)。
消費者権利院法案(民主党):消費者権利院を設置し、行政機関への資料提出・調査要求権や処分などの勧告権を持つ。権利官1、権利館補1、審議委員3は常勤で国会同意人事(任期は審議委員は3年、他は6年)
上記の2案に対して、与野党合意による政府案修正ができ、「消費者庁及び消費者委員会設置法」のもと、外部から消費者行政を監督・助言ができる 消費者委員会を消費者庁から独立させることになった。関係行政機関への資料提出要求ができたり、消費者被害の発生・拡大防止を内閣府総理大臣へ勧告できる ようになった。
消費者委員会は、消費者2名、事業者2名、学者3名、弁護士1名、メディア1名の非常勤委員10名で構成され(任期2年)、次のふたつの機能を持つ。
審議会機能 関係大臣などからの諮問に応じて審議する。
監視機能 消費者長と関係省庁の消費者行政全般を監視する。重要事項を調査・審議して内閣総理大臣などに建議する。消費者 安全法に従い、内閣総理大臣に勧告する。
審議体制:法律上審議の必要な事項を専門調査会方式で、調査審議、建議する予定。
消費者庁と消費者委員会の関係:消費者委員会は消費者庁を監視・支援し、食品安全委員会(リスク評価)とは分離する。
国会修正における附則の追加
・消費者委員会の2年以内の常勤化を図る。
・消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの体制整備。
・3年以内に消費者関連法律に消費者庁の関与のあり方、消費者団体への支援のあり方、多数の消費者に被害を生じた不当収益剥奪や消費者救済のための制度を見直したり検討したりする。など
民主党マニュフェスト
・消費者の権利を守り、安全を確保する。そのために法律や体制を整える。
・安全・安新確保 食品トレーサビリティシステム確立や原産地表示実施、BSE全頭検査への支援復活、食品安全庁設置などによる。
特定保健用食品の審査と表示の許可
消費者庁の持つ唯一の許認可。食品安全委員会が安全性に関わる事項について意見を述べて、消費者委員会が意見を述べて許可する。
エコナ問題
DAG(ジアシルグリセロール)を含む食品の扱いについて検討されているところ。
こういう問題は、個々の製品で検討すべきで、特定保健用食品の制度全体の再検討のよい機会かもしれない。
質問 食品に限っていえば表示、トクホ、を扱うのですね→ただし情報は食品に限らずすべて取り扱う。
講演3:食の信頼向上を目指す会 この1年間の活動
同会 幹事 日和佐信子食品偽装事件が起こったとき、「何を食べていいかわからない」とインタビューに答える市民の映像があったが、実際に日本の食の安全はそんなに脅かされてはいない。食の関係者と消費者の間に健全な関係ができていないから、こう いう言葉が出てくるのではないか。食の信頼向上をめざす会では、各種の情報を発信し、不適切な情報を改め、理解しやすい形で情報発信をして食の信頼を取り 戻すために活動をしてきた。残留農薬、メラミン、BSE全頭検査、BSEサーベイランス、飼料添加物ラクトパミンなどを題材として扱ってきた。
この他に、全国の知事に全頭検査継続に関するアンケートも行った。そして、消費者への全頭検査の意味を説明せずに、消費者の要求を根拠に理由に全頭検査を継続している自治体が多いこともわかった。特定危険部位の中の脳だけしか検査していないのに、全頭の「全」は安全なイメージを与え、全頭検査=安全のイメージが一人歩きしている。サーベイランスの意味が理解されていない。
食品安全委員会には、もっと見える形で情報発信をしていただきたい。
消費者庁には、今まで大丈夫だった食品に新しい疑いが見つかったときの 対応について議論していただきたい。規制とADI(残留農薬違反は法律違反だから回収しなくてはならないが、ADIより基準はずっと低く定められている) の関係において、基準を超えてもADIを超えないケースの検討をお願いしたいと思っている。
その後の意見交換会では、参加者からの食品安全委員会や消費者委員会の活動への期待の声や消費者の教育の重要性など率直な意見交換が行われた。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、 くらしとバイオプラザ21 のHPに掲載されております。
■ 第5回メディアとの情報交換会「リスク評価・リスク管理と政治の関与」2009年8月7日
2009年8月7日(金)、食の信頼向上をめざす会による「第5回メディアとの情報交換会」開催された。「食 品のリスク評価と管理に対する政治の関与」というテーマの下、米国などの養豚業者が利用している動物薬“塩酸ラクトパミン”やニガリについての事例が紹介 され、「政治と科学」について意見交換が行われました。
講演1:「リスク評価とリスク管理の問題、とくに政治の関与?ラクトパミンの事例」
日本イーライリリー梶@開発・薬事・品質管理部長・獣医師 福本一夫氏
1)塩酸ラクトパミンとは
豚の仕上げ期に3-4週間(5-10ppm)飼料に添加する動物薬で、飼料の中の栄養成分を有効に利用し、生産性を改善させる。世界の主要な養豚生産国では豚の飼料節減を可能にする畜産資材として高く評価されている。1頭あたり、飼料12Kg節約、窒素排泄20%減少、糞量12Kg減少することができる。
2)塩酸ラクトパミンの安全性
日本では当初、厚生労働省が食品衛生委員会に諮問し残留安全性評価を行ったが、米国FDAの残留基準は妥当であると結論している。その後、食品安全委員会―厚生労働省が再度科学的評価を行い、残留基準値を設定しているが、これはCODEXで検討された残留基準値とも一致している。一方、CODEXでの審議は上部委員会であるCACにおいて、中国より反対意見があり最終決定は来年まで持ち越されている。
ヒトがラクトパミンを使用して育てた豚の肉を食べて何らかの異常を起こすには、一日に豚の肝臓を14Kg、豚肉であれば100Kg以上食べる必要がある。今回、中国等で問題になっているクレンブテロール(中毒事故が起きたことがあり、化学構造がラクトパミンと似ている)は通常の豚肉摂取量で中毒が起こる。
3)経緯
1999年 米国で承認された後、メキシコ、オーストラリア、カナダなどEUと中国を除く主要養豚国で承認されて広く利用されており、日本国内でも利用したいと考えて2006年から、国内でも効果試験、残留性試験を実施、2008年1月に農林水産省に資料が提出された。
2008年6月、かつてヨーロッパ等で事故を起こしたクレンブテロールという薬剤と同系統(β作動性物質)の塩酸ラクトパミンを使った豚肉の輸入を阻止しようとする動きがあり、農林水産省の審議がストップしたままである。
2008年8月、農林水産省と協議した結果、以下の点が指摘された。
・新しい物質には消費者が抵抗感を持つのが普通なので、まず関係者の理解を進める。
・日本の豚肉を差別化する方向の中で飼料添加物のニーズは低いのではないか。
・政治的に不安定な時期でもあり、輸入豚肉にまで問題が波及することも懸念される。
2008年10月、養豚生産者、獣医師、流通、学識経験者等を集めラクトパミン研究会を立ち上げ、客観的に日本での必要性について検討した。
4)懸念が起こった背景
EU、中国、台湾では使用が禁止されている。
EUでは1980年代後半?1990年代初頭、喘息の薬だったクレンブテロールを違法に豚の餌に混ぜて使ったことで食中毒が発生した。同様の違反が繰り返され、クレンブテロールの属するβ作動性物質はすべて包括禁止となっている。
中国では2002年、β作動性物質、性ホルモン等について、家畜の生産資材としての製造・販売・不法使用が禁止された。2007年のメラミン事件により中国製品が米国からボイコットされたことに対応し、塩酸ラクトパミンが使われている米国産豚肉の輸入を大幅に制限した。しかし、中国では現在でもクレンブテロールやラクトパミンのコピー商品が違法に作られ、広範に使われている。
台湾では2007年、塩酸ラクトパミンの残留基準値設定の動きがあったが、選挙に絡んで反対運動が起こり作業は中断しており、米国などの豚肉は輸入禁止となっている。
5)クレンブテロールと塩酸ラクトパミン
両者の構造は類似し、ともにβ作動物質である。塩酸ラクトパミンは動物での残留性が低く、ヒトや動物に対する作用の仕方や活性の強さが異なる。
6)まとめ
ラクトパミン研究会の見解
- ラクトパミンの利用は生産者が決めるべきで、使ってみたい養豚業者もある
- 海外で利用され、日本にも残留基準があることを市民に知らせるべきである。
- 世界的に食糧の生産性改善が必要になっている。
- 審議に科学的な評価以外の要素が入っているのは問題あり。
日本イーライリリー社からの意見
- 日本の考え方をひとつにまとめてほしい(国内品と輸入品の考え方に格差がある)。
- 国際競争力を保ち、安全を守りながら生産性を改善するには、ラクトパミンは必要である。
- 動物薬や飼料添加物の審議は政治と分離し、科学的な基準で行ってほしい。
質疑応答
●質)審議ストップに対して農林水産省はどう説明しているのか
答 日本の養豚生産者のコンセンサスがないので、審議ができない。日本の生産者の半分以上から使いたいという要望がないので、不要であるというのが農水の見解。
答 ある議員が生産者グループにこの薬の危険性と不使用を働きかけたので、団体のトップはそんなに危険ならば認めないでくれと回答した。
●質)塩酸ラクトパミンを使うとどのくらい生産改善するのか
答 日本で一年間に生産される豚は1600万頭で、体重の約3倍の餌を食べる。塩酸ラクトパミンを使うと、同じ頭数、同じ餌の量で600万人分の豚肉を多く生産できる。
●質)この薬はホルモンなのか。肉に影響はないのか
答 体内で作用するがホルモンではない。アドレナリンと同じ種類の物質である。一般的にホルモンを使うとフィードバック(脳から投与したときにホルモン分泌 を抑える働き)があるが、塩酸ラクトパミンにはフィードバックは起さない。一方、ラクトパミンを使い続けると、感度が鈍くなる(脱感作が起こる)。
●質)筋肉増強剤のようなイメージだが、ドーピングのようなよくない作用が豚に生じないのか
答 日本では5ppmが使用の限界で、この量では赤身肉は増えない。諸外国ではこれより多い10ppmも認められているが,この場合赤身肉の増加が起こってくる。反対に実験動物(ラット、マウス)で長く使った場合、スリムになって寿命が延びるという結果であった。
事例紹介1「ニガリについて」
食品添加物協会常務理事 佐仲 登氏 にがりは2007年3月に食品添加物公定書に掲載された。経過措置期間切れが近づいた2008年3月4日に朝日新聞にニガリの基準が厳しく、奄美のニガリ製造者が困っているという記事が出た。
3月15日 民主党 鹿児島県選出の委員から液体ニガリに関する質問あり。厚生労働省食品安全部長から規格見直しをするという回答があり、2008年3月31日に経過期間延長の告示があった。
薬事食品衛生審議会添加物部会において規格基準を緩める方向で審議が進んでいる。
塩化マグネシウム(ニガリの成分)の基準は12.0?30.0%だったが、マグネシウムで換算することになり、実質的には塩化マグネシウムの基準は8.0%まで基準が下がることになった。実際には、不純物も増えることになり、不純物は増やさないという原則と矛盾する。
1985年まで塩は専売制だった。1985年から民営化となり、2003年から塩は自由化され、現在1キロあたり100円前後と価格競争も厳しく、塩の副産物であるニガリを販売する方が利益率が高くなっている。
純度を下げたほうがニガリを製造する零細企業の収益性が高くなるので、その方向に向かっている。
鹿児島、奄美で塩やニガリが作られるようになったのは約20年前で、きちんとした手順に従って製造されてきた。規格を緩める理由が、自由化した塩の値段下落があり、副産物であるニガリ収量を上げないと、零細企業が困るので、規格を緩めることを認めるという考え方に問題はないか。
質疑応答
●質)基準を下げても安全性に問題はないのか
答 ニガリの成分は塩化マグネシウム、塩化カリウムなど、安全上の問題はない。
●質)消費者に健康被害がなく、零細企業が救われるのなら、基準が下がってもいいと思うが
答 下げる理由が科学を根拠としていなくていいのかと考える。
●意見)規制緩和を求めるロジックはわかるが、なぜ規制緩和がいけないのか。
●質)基準を緩めることに科学的な議論はあるのか
答 食文化論の話は聞いている。普通の豆腐は塩化マグネシウムで作られている。食品添加物は食品衛生管理者の資格を持った人が扱える。この資格は、大学で所定の教科を修了した者又は食品衛生管理者講習会の受講を修了した者が取得できる。既存添加物として公定書に載っている液体ニガリも扱うためにはこの資格が必要だが、民主党の液体ニガリに関する質問をした議員はニガリしか作らないから、この資格は不要だといっている。食品衛生管理者はニガリ専門の資格ではないのでこの発言はいかがかと思う。
講演2:リスク評価・リスク管理と政治の関与
食の信頼向上をめざす会 会長 唐木英明氏 1966年まで健康被害が起こると、厚生省が食のリスクを評価し、管理をしていた。行政は経済・産業の活性化と食品のリスクを低減して消費者保護を行ってきたが、1966年、英国で新型ヤコブ病が発生し、欧州ではリスク管理機関とリスク評価機関が分離した。
しかし、リスク管理機関へは政治、社会の動向などいろいろな圧力がかかる。
ALAP:As low as practicable ゼロリスクに近づける
ALARA:As low as Reasonably Achievable 健康被害がない程度にリスクを下げる
人はALAPを求めるが、実際にはALARAを科学的根拠に基づいて進めなくてはならない。そのときに政治の関与はどうなるのか。
2009年6月5日、第171回国会議員運営委員会第29号において、水岡議員(民主党)が、吉川委員の同意に対し不同意であったことは、科学的な議論を否定するもので、学術会議会長金澤一郎氏も反論している。
科学には、「学究の科学 Academic science」と「社会の科学 Science for society」があり、社会の科学の中に「革新の科学(イノベーションで問題を解決する)」と「安全の科学(安全性向上によって問題を解決する)」があるとされた。
安全の科学には、1)レギュラトリーサイエンス(リスク管理科学)、2)テクノロジーアセスメント(先端技術評価科学)がある。
レギュラトリーサイエンスでは、政府機関が中心になり、政策の策定と決定のために、不確実性を確率的予測などで補って判断していく。例えば、食品安全基本法第11条 3では、その時点において到達されている水準の科学的知見を根拠にすることになっている。検討の結果は監視データや規制文書として、政治的判断による期限 内でまとめられなくてはならない。これに対して、学究の科学は大学を中心で自然界の理解と知識を高めるために行われ、不確実性は次の研究課題となる。研究 論文として評価され、期限もなく、政治の影響は受けない。
ラクトパミン では、政治の圧力で審議がとまり、にがりの基準値は地方産業の活性化のために変えられてしまう。全頭検査も続いている。こういう現状の中で、食品安全委員 が政策決定の隠れ蓑に使われていると思う。政府の諮問の出すタイミングの悪さは、食品安全委員会の信頼を失わせるようにさえみえる。リスク評価は理系、政 策決定は文系のような現状の取り組み方では、到底、科学的根拠に基づいた合理的判断はできない。
講演後、講演者への質問や傍聴していた会員から参加したメディアの方へのお願いなどの率直な意見交換が行われた。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、 くらしとバイオプラザ21 とめざす会のHPに掲載されております。
■ 第4回メディアとの情報交換会「国際獣疫事務局(OIE)総会にて日本はリスク管理の国に認められた」2009年6月1日
2009年6月1日(月)食の信頼向上をめざす会による「第4回メディアとの情報交換会」が開催され、5月29日に閉会したOIE総会で、日本が「管理されたリスクの国」と認められたことについての説明及び、消費者、生産者などの反応についての講演が行われました。
参考サイト: http://www.oie.int/eng/en_index.htm
講演1:
OIEによる日本のBSEリスク評価と日本BSE対策変更の必要性
国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部長 山本茂貴氏
OIEとは
174カ国が加盟し、国際貿易上重要な意味を持つ家畜の伝染性疾病を経済・社会的影響に応じて分類し、防疫のために適当と認められる家畜衛生基準などを 策定、世界各国における家畜の伝染性疾病の発生状況等についての情報の収集・提供、家畜の伝染性疾病のサーベイランスおよび防疫に関する研究の国際的調和 を図る。
1924年設立され、本部はパリ
BSE コードとは
BSEについては、家畜衛生及び公衆衛生の観点からBSEコードを策定し、3分類に基づくBSEステータス評価については2007年から実施。
2009年5月の総会で、日本は「管理されたリスク国」に認められた。
無視できるリスクの国、管理されたリスクの国、不明な国の要件を説明され、詳細は山本先生の資料を参照。
OIEのサーベイランス基準
4種類(BSE様症状の牛、歩行困難の牛、死亡牛、36ヶ月齢超の通常と畜牛)の牛からサンプリングして検査する。
日本の立場
日本では陽性の牛が確認されたので、発生した国として評価される。
BSE発生防止の対策(BSE発生国から牛や牛肉の輸入禁止、肉骨粉の輸入禁止、飼料工場での交差汚染防止、と畜場での検査実施、農場での死亡牛の検査実施)をとれていることが評価される。
日本がやってきたこと:完全飼料規制(平成13年から)、特定危険部の交差汚染防止、全月齢のと畜牛のBSE検査を実施(2008年7月まで自治体の自主検査を補助してきた)。
1996年前後に生まれた牛にBSEが発生したので、肉骨粉使用禁止
2002年1月頃に生まれた牛は1996年までの餌を食べたと考えられ、その牛が生まれてから11年が経過しなければ(2012年までは) 「無視できるリスクの国」の評価は受けられない。
BSEステータス評価を受けると、毎年サーベイランス結果を報告しなくてはならない。
日本とアメリカはOIEでは同じ「管理された国」となるので、現在の2国間の規制は少し厳しすぎるようだ。
※ 山本茂貴先生が使用されたスライド(PDF:272KB)
講演2:OIE判定を機にBSE問題についての雑感
生活協同組合コープこうべ 参与 伊藤潤子氏OIE判定変更に伴って
OIEの日本の判定が「リスク不明の国」から「リスク管理がされている国」になった。BSEへの理解が必ずしも十分でなく、今も全国自治体で全頭検査が行われている現在、私はこれをBSEの正確な理解の機会とすべきだと思う。
消費者の印象
BSEを全く知らず食べている人、全頭検査しているから食べるという人、未だに食べない人もがいる。
鳥インフルエンザは早目に食べることへの情報提供があったので、生協では鶏肉の消費の回復は早かった。新型(豚)インフルエンザンの場合も呼称変更と、豚肉についての早期情報が出たので、豚肉を食べるのをやめている人はいない。初期情報の差が影響しているだろう。
コープこうべの問い合わせは通常約150件/日、トリインフルエンザのときは400件になった(74%が安全性に関するもの)。鶏肉では、食べて安全の 情報が早く出て買い控え期間が短くてすんだ。BSEには、映像(クロイツェルフェルトヤコブ病の患者さんやBSE感染牛の映像)の影響が大きかった。ま た、補助金をもらうための国産偽装事件が起こり、続いて偽装事件報道増加が始まって、適切な情報提供・修正の機会を失ってしまった。
その後、食品安全基本法改正、食品安全委員会設立など食品安全の社会的制度は整ってきたものの、BSE問題はよく総括されないまま、今日に至っているのではないか。
全頭検査の及ぼした影響、引き起こした誤解
全頭検査が消費者に誤解を与え、これが無作為に放置されて定着した。鳥インフルエンザや新型インフルエンザの経験から学ぶものがある。
専門家の意見の尊重が大切だ。科学的評価は専門家に任せ、「決意表明」などは、大臣がするなどの分担が必要だろう。またリスクの受容を国民全体で共有化するような配慮も必要だ。適切なマスコミの報道・軌道修正(新聞報道がワイドショーに影響した)も重要。
新聞の表現には気をつけてもらいたい。例えば、新型インフルエンザは命に関わる病気ではなかったのに、「友よ、先生よ、大丈夫か?」というタイトルなど重篤な症状を連想する表現がみられた。
固定化しつつある認識への働きかけが必要。関係者が、全頭検査の意味を正しく認識して機会あるごとに伝えていくことが大切。
伝え方も大切だ。消費者の知らないこと・関心のあることに配慮することだ。すでにBSE感染牛を食べた可能性は十分にあるということ、BSEの安全確保 のために必要なのは飼料管理と、特定危険部位の除去だということ、今も行われているのは、疫学調査であって安全検査ではないということなど。全頭検査の意 味が日本では世界の常識とずれてしまっているのだが、これらのことは消費者には知られていない。BSEの問題意識を放置したままではよくない。
※ 伊藤潤子氏が使用されたスライド(PDF:524KB)
講演3:OIE判定と日本の畜産業者の考え方及び対応の変化
中部飼料株式会社 本社工場 養牛課長 山村登志夫氏
BSE発生時の生産現場の状況
平成13年9月に日本でBSE牛が発生し、出荷制限と極端な価格の下落がおこり、自分が発生農家になるのではないかという不安の中で、厳しい絶望的な状況だった
飼料メーカーの対応
牛用飼料製造ラインと鶏・豚飼料製造ラインの完全分離を行った。動物由来タンパク質が混入しないようにしたA飼料(牛用)とそれ以外のB飼料(鶏豚用)に分けた。
同様に配合飼料の製造と流通においても完全分離を行った。
畜産農家の考え方?当事者である畜産はどのようにとらえていたのか
- 安全と安心は分けて考える
- 安心に関して全頭検査による効果が感情面で大きく問題があるので、議論が必要
- 全頭検査で安心の部分を説明していると、牛肉全体への不安が再燃しないか不安
- BSE検査の有無は全国で同じ条件にすべきではないか。
- BSE検査を止めるときには、国民への十分な説明が必要だろう。
- 乳用種は20ヶ月齢前後、交雑種は26ヶ月齢前後、黒毛和牛は30ヶ月齢前後でと畜する。と畜月齢に差があることについて、国民への説明が必要だろう。
- 搾乳牛から雌が生まれたら乳牛になるが、雄は肉用として肥育され、輸入牛との価格競合にさらされる可能性が予測される。
畜産農家は今後についてどう考えているのか
- 牛肉の生産現場を知ってもらいたい。例えば個体識別情報検索サービスを活用すると、トレサビリティが調べられるばかりか、食育にも利用できるのではないか。
- 携帯電話でも情報をとれるのがいい。
- 消費者と交流できる機会を増やして、牛肉のできる過程を知ってもらい、食材の生まれるまでの文化と歴史、生産者の思いを伝えたい。例えば、学校や料理教室など
- 生産農家による直接販売(消費者からは生産者が見え、生産者も自分の牛肉への評価がわかって意欲が向上した)
- 肉の味など、差別した牛肉作りに意欲を持っている。
- 技術の利用(雌雄分別技術の運用、和牛の受精卵移植、遺伝子レベルでの肉質向上技術)
※ 山村登志夫氏が使用されたスライド(PDF:472KB)
(4)唐木会長司会によるメディアの方々、会場の会員との意見交換
初めに唐木会長より、「OIEの判定から一番安全だと思っていた日本はやっとリスク管理の国に入ったというグローバルの視点、不安が解決されないまま忘 れてしまうのはよくない、現場はBSE発生時のトラウマから開放されておらず全頭検査に頼る気持ちがある」という、講演の総括があり、その後の意見交換で の主な発言及び質問は次のとおりです。
- 質) 認識の意識的修正はだれがどうやってやればいいのか。 答 (伊藤氏)責任ある権威がある人、国が意見を表明する。関わるすべての人がそういう場をつくりしっかり伝えるのが大事。
- 質) 政府は全頭検査を間違っていたとは言わないし、言えないだろう。 答 (唐木会長)だから、政府は食品安全委員会にリスク評価を依頼したのだろう。食品安全委 員会はデータを集めて全頭検査は不要だといったが、自治体はやめなかった。米国産牛肉再開と同委員会の判断が重なり輸入促進と誤解され、タイミングが悪か かった。今回をきっかけにもう一度話し合いたい。
- 意見 厚生労働省が20ヶ月以下の牛の検査の補助を止めても、日本には見解を変えるのに寛容な文化がないのではないか。
- 質) 全国の生協のギョーザ調査をしたところ、コープ神戸の反応は落ち着いていた。コミュニケーションがうまくいっているためだろうか 答 (伊藤氏)組合員さんからの反応が出そうなときには、すべての食品の担当者が情報を共有していた。総代会に反対意見が出たどきには、コープこうべの考え方を伝え、よく理解してもらっていたと思う
- 質) OIEの絶対安全物品としての牛肉で不明な国は30ヶ月齢未満の骨なし牛肉が月齢制限無しに変更になったのか? 答 (山本先生)骨のない肉については全月齢で流通してよいことになっている。一方サーベイランスは36ヶ月以下で検査してもいいが、ポイントが低い。よってBSE検査は36ヶ月で線引きしている
- 質) SRMを除去するのは30ヶ月以上か 答 (山本先生)イエス
- 質) 韓国はOIEのBSE評価を受けているのか。 答 (山本先生)韓国は評価をしていないという位置づけ。評価を持ち込む動きはあるがいつかはわからない。
- 意見 生産者は全頭検査廃止を求めていると思っていたが、今日のお話で逆だとわかって驚きだった。生産者が安心情報を出しすぎるので、消費者が右往左往するのではないかと思う。
- 意見 生協は安心情報で顧客の囲い込みをしてきたことは否定できないと思う。
- 意見 (山村氏)消費者も全頭検査がすべてだと思っていないことはわかっているが、全頭検査をやめたときにまた悪夢が起こるという不安はぬぐえない。
- 意見 (伊藤氏)1993年以降、安全安心のコンセプトが出てきた。1970年には生協は安心だとして売ってきた。2000年に同じことが続いているのが問題。生協はスーパーと替わらなくなったのねといわれたときに、生協が果たした役割は評価されてしかるべき
- 意見 (日和佐幹事)生協が果たしてきた役割は大きいのは事実で、今はスーパーも生協と同じ路線になったと思う。生協は運動の中で食 品添加物や農薬をワルモノにしてきたところがあったのは事実だと思う。その背景には、当時、情報は公開されていなかった状況がある。食品安全委員会が出来 るまでは、厚生省の審査は通ってもその評価データは公開されなかった。生協は独自で情報を集めて、過剰に危険だといってきたところがある。それほど危険で はない状況だったと今はわかるが当時は情報がなかった。
今までのことをふまえ、一般消費者は全頭検査があるから安心だと思っており、OIEの判定変更をきっかけに全頭検査は安心の担保になるの?という議論を おこすべきだと思う。21ヶ月齢、23ヶ月齢の感染実験で出なかったことをしっかりと周知すべきで、21ヶ月で発生したじゃない?という声がよく出る消費 者団体ととことん話し合う必要がある。 - 意見 (唐木会長)21ヶ月、23ヶ月のBSEが見つかったというニュースが注目されたが、その後の検査では感染性はなかった。そも そもBSEの大部分は検査でマイナスになるのだから、3分の2のBSE牛は食べられているはず。危険部位の除去とピッシング廃止こそが安全確保になる!
- 意見 (唐木会長)米国牛肉20ヶ月以下は検査していなくて入っているが、ほとんど人が食べているので、全頭検査しないから食べないというのは矛盾するのではないか。
- 質) 食品安全委員会が決めたのに、自治体は全頭検査を続けている現状を食品安全委員会はこの現状をどう思っているのか。 答 (山本先生)20ヶ月以下の牛の検査をしないことを厚生労働省が決めたのに、後は自治体 に任せるしかない。食品安全委員会は評価をするだけで、OIEの評価を踏まえ、管理する部署に冷静に考えてもらいたいと思っている。OIEが評価したのは あくまでBSEの評価。EU15カ国(2004年)ではサーベイランスの検査月齢を48ヶ月以上に変更したが、混乱なく認められている。健康な牛への検査 はサーベイランスであり、特定危険部位除去、飼料管理こそが安全対策だと理解されていることを示している。
- 質) 農水省が海外に牛肉を出すためにOIEに評価を出したいからだと思うが、国際基準をもとにするなら、日本より2年先にリスク管理国になった米国から牛肉の輸入を制限するのはおかしいと思う。
- 質) 食品安全委員会の委員7人のうちに民主党は米国産牛肉輸入再開に関わった1名を認めない。委員選出の基準 論理的に考えるべきだと思うが
- 質) 読売新聞で29日に、民主不同意で再考とあった。吉川座長は米国輸入牛肉再開を容認したという理由だった。食品安全委員会はリスク評価しただけで、輸入再開は政府が行政判断を決定したのに、おかしいのではないか。 答 (山本先生)吉川先生は中立な議論をされていて、適切な報道でないと思う。 答 (新聞社)BSEのことを知らず、科学的根拠より民主党の中から聞いて書いているのではないか。BSEは政治性が強いテーマで、選挙との関係も出てくる。
- 質) 専門家の中にも全頭検査が大事だという先生はいる。学会の中では全頭検査が大事という意見はどういう位置づけなのか。 答 (唐木会長)根深い問題がある。2005年食品安全委員会ができて二百数十名の専門委員 を集めたが、日本にはリスクの専門家が少なかったために、基礎科学の研究者が多く参加した。リスクの専門家の特徴は行政の要望に応じて科学の不確実性を確 率論で乗り越えて出来る限り短期間にリスク評価を行うことだ。一方、基礎科学の研究者にとって不確実性は次の研究課題であり、確率論で結論を出すことには 抵抗があるので答えを出そうとしない。こうして一度始めた全頭検査を止めるという結論を出せない基礎科学の研究者もいる。このような態度は「慎重」と評価 されて、市民は基礎研究側の考え方にシンパシーを表すことが多い。しかし、少ない税金を効率的に使ってリスクを削減するためには、リスク評価を参考にして 適切なリスク管理を行うことが大事だ。
これ以外にも、食品安全委員会が全頭検査は不要だとしても自治体は消費者の要望があるとして、検査をやめない現状の根底にある意識の修正は誰が行うの か。政府などの責任ある組織が発言すべきという意見や、生協の活動の経緯において危険情報が強調されてきたが、今は、改めて日本人の見解を変えるように皆 で議論を起していくべきだとする意見出て、活発な意見交換が行われました。
これはBSEだけでなく、食品添加物、農薬、遺伝子組換え作物・食品、食品照射などへ誤解でもいえることではないでしょうか。
尚、この報告書はめざす会幹事でくらしとバイオプラザ21の佐々氏が作成し、 くらしとバイオプラザ21 とめざす会のHPに掲載されております。
第4回メディアとの情報交換会配布資料
- OIEでのBSEステータスの要件 (PDF:276KB)
- BSE検査月齢 (PDF:20KB)
- SRM(特定危険部位)の定義及びOIEリスクステータス認定国(PDF:44KB)
- EUにおけるBSE検査月齢変更の経緯及び背景について
(ALIC「畜産の情報」海外駐在員レポートから)(PDF:276KB)
1〜4の他に上記スライド3種類を配布いたしました。
■ 食の信頼向上をめざす会」2008年度活動報告
食の信頼向上をめざす会も昨年の8月に立ち上がり、2009年3月31日で初年度の活動を終了致しましたので、その活動内容を下記の通り報告致します。
記(1)2008年度活動内容
1.発足:
2008年8月12日の世話人会にて「食の信頼向上をめざす会」の発足を決議し、設立趣意書、会則等を承認。世話人が幹事となり、唐木英明が会長に就任。
2.設立総会:
2008年9月29日(月)に設立総会としての意見交換会を日本青年館で実施した。当日は大雨の中、消費者を始め食に関わる様々な分野の方々約150名が参加し、会場は満席の状態となった。「食の信頼向上をめざす会」設立の経緯を
(1)「食の安全の科学と不安の原因」
(2)「食品の供給者と消費者の対話の必要性」
に分けて会長の唐木英明より説明した。その後、参加者とのフリーディスカッションを行い、NHK、日本経済新聞、毎日新聞等で取り上げられた。
食の信頼向上をめざす会』の設立総会報告箇所へ
3.ホームページ開設:
2009年10月中旬、ホームページを開き、設立趣旨などを掲載した。
ホームページアドレス: http://www.shoku-no-shinrai.org/
4.第1回メディアとの情報交換会:
2008年11月11日(火)に、「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。事故米における残留農薬問題とメラミン問題をテーマとした。
当日は多数の新聞社、テレビ局、その他のメディア・関係者に出席いただき、鈴鹿医療科学大学の長村洋一教授より「食の安全における残留農薬問題」、当会 の唐木英明より「メラミン問題と食の安全」の講演を行った。その後、メディア関係者、両講師ならびに 当会幹事も参加してディスカッションを行った。
第1回メディアとの情報交換会報告箇所へ
5.第2回メディアとの情報交換会:
2009年1月27日(火)、「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。残留農薬問題に関する農業生産の現場の声を伝えた。メディア関係者及び会員等が約80名参加した。
秋田県大潟村で米の生産をされ消費者に直接販売をされており、米作りの現場や農薬使用の実態を熟知されています菊地幸彦氏と、新潟で肥料・農薬などを生 産者に販売され、又農産物を生産者から直接買付けて消費者に直接販売されておられる株式会社白熊の白野智久氏の講演の後、参加者とのフリーディスカッショ ンを行った。
6.全都道府県知事に対し、「BSE全頭検査の継続理由」を伺うアンケート:
2008年8月より、各都道府県が独自で行っている20ヶ月齢以下の牛のBSE検査について、その継続理由を調査するために、2009年1月に全都道府 県知事にアンケートを実施。2009年2月に全都道府県より回答を得て、その分析を行い、その結果は、「第3回メディアとの情報交換会」で公表した。
7.第3回メディアとの情報交換会:
2009年3月13日(金)、「ベルサール八重洲」(東京都中央区)で開催した。アンケートを行った「BSE全頭検査問題」をテーマとした。メディア関係者20名強と関係省庁、めざす会会員を中心に約100名が参加した。
国際獣疫事務局(OIE)名誉顧問で当会幹事の小澤義博氏よりBSE検査問題に関して、「BSEサーベランス(国内基準と国際基準)」と題しての講演を 行い、当会会長(日本学術会議副会長)の唐木英明より、同会が実施した全都道府県知事へのBSE全頭検査継続に関するアンケート結果の報告を実施、その 後、参加者全員による意見交換が行われた。
第3回メディアとの情報交換会報告箇所へ
■ 第3回メディアとの情報交換会 「BSE全頭検査」2009年3月13日
■ BSE全頭検査についてのアンケート 2009年3月13日
2009年3月13日(金)、食の信頼向上を目指す会により、メディアとの情報交換会「BSE検査について」が開かれた。BSEのサーベイランスに関する お話、同会が実施した自治体への全頭検査継続状況に関するアンケート結果紹介があり、参加者全員による意見交換が行われた。
講演1「BSEサーベイランス(国内基準と国際基準)」
OIE名誉顧問 小澤義博氏
国際獣疫事務局(World Organization for Animal Health :OIE)は世界のBSEをずっと監視してきた。欧州は特定危険部位の除去を主体にした食肉の安全対策を継続してきたが、日本は全頭検査を牛肉の安全対策 として開始し今日に至っている。
2000年頃に生まれた牛がまだ北海道で生存しているので、サーベイランスは今後も続けるべきで、検査の実施か否かには、消費者の理解と判断が必要。
日本がOIE基準でリスクが管理された国と認められたら、OIEの基準と日本の基準の違いを精査し、食品安全委員会に諮問すればよく、非定型BSEに対しては、監視と研究を続け、必要ならば新たな安全対策を考えればよいことになる。
<講演内容は添付の「BSEのサーベイランス方法」の資料を参照のこと>
BSEのサーベイランス方法 (PDF:1MB)
講演2「BSE検査に関するアンケート調査結果について」
食の信頼向上をめざす会 会長 唐木英明氏 国は全都道府県での全頭検査を3年間助成し、2008年8月から、食品安全部長は20ヶ月以下の牛の検査をやめるように発言し、食品安全委員会委員長は20ヶ月以下の牛の検査をやめても安全であることを発表したが、自治体は自ら20ヶ月以下の全頭検査を続けている。
そこで食の信頼向上を目指す会は全都道府県に対してアンケートを実施したので報告する。
全頭検査アンケートの依頼状 (PDF:24KB)
アンケートの集計・分析 (PDF:72KB)
食の信頼向上を目指す会の声明
お話の最後に唐木会長より声明文が読み上げられた。
- 国と自治体に対して BSEの安全対策は危険部位の除去であることを伝え、全頭検査が丹生肉の安全を守るという誤解を解く努力としてください
- 都道府県に対して 20ヶ月以下の試験を廃止してください
- メディアに対して 全頭検査神話誕生にはメディアの影響力が大きかったので、誤解をとくための努力をしてください。
BSE対策についての声明 (PDF:16KB)
意見交換会
- 欧米はピッシングを行っていないということだが、OIEはピッシングを認めているのか → OIEはピッシングを認めていない。ピッシングをしたからといって大きな問題は起きてはいないが、ピッシングの禁止は牛肉の輸出条件になっているので、ピッシングをやめれば将来日本の牛肉は輸出出来るようになる。
- 3つの自治体は安全のためと回答したそうだが、それはどこか → 検査継続理由として、安全・安心の両方に○をつけた自治体が3つあった。安全安心はペアになっている。県名は公表しない約束でアンケートを実施しているので、申し上げられません
- 全頭検査をしている獣医は無駄なことをさせられてやる気をなくしていると思うが、獣医の現場の声を集めたものはあるか → 重 要な指摘。メディアの方に開いて教えてほしい。私の教え子の獣医の声は人獣共通伝染病、食中毒など重要なことがあるのに、何時間も全頭検査に時間を使わさ れていることを嘆いているが、公務員は上司に逆らえない。現場の獣医師は大事な食中毒対策や人獣共通伝染病研究に関わる時間を奪われている(唐木)。
- と畜場は、日本では自治体が管理しているので、国の検査官やメディアもなかなか入りにくく、国は直接現場を把握しにくい。法律を変更してでも、国の検査官が立ち入れるようにすべきである。 → 地方自治体ごとの監視が行われているが、厚生労働省が直接監督することは難しい。
- 記者は全頭検査をやめるべきだと主張できるのか。
- 署名いりならできるが、一般記事は客観的報道をするので、そこには考えは書きにくい
- 日本が全頭検査をやめる機会はOIEの総会が終わる5-6月だと思うので、OIEに管理のできる国に認められて、OIEの基準に従うことができるようになる。今からその準備が必要と考えられる。
- 検査をやめるのは食の安全をおろそかにするようでいいにくい。全頭検査廃止はいっせいにやめないとだめ。先走った自治体の風あたりが強い。
- OIEに管理の出来ている国と認められることは、日本に新たなBSEの危険がなくなったと認められたことになる。日本の汚染飼料の管理も整っているので、 若い牛に新たなBSE感染群が発生するリスクは当分考えられない。北海道の約100ヶ月齢(8歳齢)前後の牛だけに感染した牛がまだ残っている可能性はあ る。また非特異的BSEの監視を続けるために8歳以上の牛の検査を続ける必要がある。(小澤)。
- 自治体は検査の費用が少ないから実施するという感じがした
- 欧米と日本のリスクコミュニケーションの違いはなにか → 食品安全委員会がHPに出しても伝わらない。テレビや新聞の影響は大きい。メディアを意識した情報の出し方があるはず。全頭検査継続を主張しているのは特定の考えや利権もあるはず。対象にあったリスコミが必要
- マスコミがきちんと伝えるとこの問題は解消するのか。そんな安い費用で皆が安心するならやった方がいいというのが普通の考えではないか。30ヶ月以上も対象になると検査費用も大きくなるので、月齢で議論するのがいいのではないか → 30ヶ月を提案できるのは政権がしっかりしているときで、今は適切な時期でないかもしれない。
- 30ヶ月、36ヶ月の議論を始めた方がいい。20ヶ月齢以下の検査停止を訴えるよりも、OIE総会で日本が「管理された国」の評価を得た後に、日本での検 査月齢の変更を議論すべきであり、その方が全頭検査問題も報道しやすい。OIE総会をきっかけにするのがいいと思う。EUのすべての人が安心しているので はない。
- OIE総会の機会を逃すと、検査は安全のためという刷り込みが国民に行われてしまう。その修正は困難。
- 食品安全委員会のリスクコミュニケーター養成があるが、誰がやるかが重要。地域でサイエンスカフェなどで起こしていけばいいのではないか
- わかっていない人はだれなのか。コープこうべなどの生協や消費者団体が検査しなくても食べると表明してはどうか → 組織として無理。内容は理解しても生協として声明を出すのはむずかしい(生協関係者)
- コープ組合員内で無理なら、全国民の理解は無理。行政がしっかりすれば問題ないはず。
- 食品安全委員会のリスコミ担当には気の毒だが、反対している人たちは全国のリスコミ会場を移動していた。原発、BSEに反対する反対の人は重複しているようだ。行政が責任をもって断を下さないとだめ。5月のOIE総会では行政などの責任が問われるだろう。
- 安全と安心は違うことは浸透しており、国は助成をやめたはず → 20ヶ月以下の安全性を論じる気持ちはない。全頭検査は安全性のためと誤解させていることを止めさせたい。
- リスクコミュニケーションのターゲットを見つけていかないとだめ
- 安心したい人はお金を出せばいい。家畜福祉(健康に育った牛を食べたい)は安心の問題
- 1950年代は食中毒者で数100人が死んでいたので、食中毒死をなくすという目標があった。高度経済成長の中で、リスクゼロの夢を求めるようになった。目標の達成ができないことから不安感が生まれてしまう。
- リスク対策とコストのかねあいが問題。36ヶ月齢以上の議論を起こせばよいと思う → 行政の信頼がない。意図、能力、価値観の共有が整っていない。
- 日本の基準はOIEの基準とどうしてこんなに違う点が多いのか。OIEの考え方、世界の状況をもっと分かってもらわないとまずい。
- 全頭検査が廃止されない理由を消費者のせいにするのでなく、事業者、行政が自らのプロ意識で進めるべき。市民の意識や同意を待っているようでは困る。
- BSEから10年経ってこういう議論があるのは嬉しいが、理不尽な状況が永く続いたなあと思う。
BSE全頭検査についてのアンケート
2009年3月13日
食の信頼向上をめざす会
1.アンケートの意図
2001年9月に日本でBSE感染牛が発見されました。国民の不安を和らげ、畜産業の打撃を緩和する妙案として、政府は世界に例がない全頭検査を開始しました。
検査は感度が悪く、病原体の蓄積が少ない牛のBSEを見逃します。とくに若牛のBSEは検出できません。だからこれまで検査に合格した牛の中にBSE感染牛がいたことは確実です。しかし、病原体が蓄積しやすい特定危険部位を除去しているため、人がBSEに感染することはありません。ところが、政府は「検査に合格した牛はBSEではない」と受け取れる説明をし、当然、国民はこれを信じました。
2003年の食品安全基本法以後、行政は「産業育成」から「消費者保護」に方向転換しました。これは正しい選択ですが、それが行きすぎて「誤解であっても消費者の意向は尊重する」という風潮が出来上がり、全頭検査についての消費者の誤解を解く努力が希薄になってしまいました。
2003年12月に米国でBSEが発見されました。日本政府は米国政府に全頭検査の実施という、国民の支持はあるものの、非科学的な要求を行いました。
2005年に食品安全委員会が科学的な裁定を行い、20ヶ月齢以下の牛の検査が廃止されました。しかしアンケート調査などの「全頭検査を継続すべき」という声に押されて全都道府県が全頭検査を継続しました。国は3年間に限って検査費用を補助しましたが、これが2008年7月に終り、全都道府県は独自予算で全頭検査を継続しました。
食品安全委員会委員長は、特定危険部位の除去を行う限り、若い牛の検査を止めてもBSEのリスクは実質的に増えないとの談話を発表し、自治体の動きに苦言を呈しました。
2009年度も全都道府県が全頭検査継続の予定です。今回のアンケート調査は全頭検査継続の理由、国民への説明の状況、費用について、改めてたずねたものです。
2.アンケート結果の概要
質問T:全頭検査継続の理由(回答44自治体)
- 全頭検査を継続した理由として、44都道府県(以下自治体と記述)中35自治体が「消費者が求めていると判断したため」とし、「牛肉の安全確保のため」とは答えていない。従って、多くの自治体は全頭検査が安全のためではないことを理解していると考えられる。1自治体は「食品安全委員会において、科学的評価がされており、20ヶ月齢以下の牛のBSE検査は必要ないと考える」と記載している。
- 「消費者が求めている」という判断を優先し、安全のために必要がないことを知りながらも検査を継続した理由については、「県民(消費者)の食への信頼が十分に得られていない」、「消費者の不安が払拭されていない」、「国民の間では、検査を打切ることへの漠然とした不安感が払拭されていない」などの記載があった。
- 2自治体はこれに加えて「生産者団体からの要望」があったことを理由に挙げている。
- 約40%の18自治体が「ほかの自治体との横並びが必要」と回答した。このこともまた検査継続の大きな理由であったことが伺われる。
- 5自治体が「自県産牛肉の振興」を理由にあげた。
- 3自治体が「国民に対する説明不足」を全頭検査継続の理由として記載した。
- 3自治体が全頭検査は「牛肉の安全確保のため」と回答した。従って、これらの自治体も「全頭検査が食品の安全を守る」と誤解していると推測される。これらの自治体は同時に「消費者が求めている」という理由も挙げている。
質問Uの全頭検査継続理由の説明(回答44自治体):
- 全頭検査を続行する理由を議会や都道府県民に対してどのように説明しているのかについて、34自治体が「安心の確保」、17自治体が「他の地方自治体と違った判断を行うことが困難」、3自治体が「安全の確保」、3自治体が「検査費用がわずかなためとしている。19自治体が「その他」と答えているが、その内容は質問Tの全頭検査継続の理由とほぼ同じであった。ただし、1自治体は「議会や県民に説明を行っていない」との回答。
質問Vの全頭検査継続の都道府県民への説明方法(回答44自治体):
- 全頭検査継続について説明会を開催したのは2自治体に過ぎず、記者会見などが10自治体、広報誌が8自治体であった。また13自治体が何の説明もせず、議会等での説明のみが19自治体である。
- 質問Tへの回答の中で、3自治体が「国民に対する説明不足」を全頭検査継続の理由として記載した。これは国の責任を問うものであろう。しかし、独自にそのような説明を行おうとする自治体は非常に少ない。説明がほとんど行われていない理由が推測できる記載はない。
質問Wの都道府県で負担するBSE検査費用(回答46自治体):
- 多くの牛が20ヶ月齢以上で食用になるために、20ヶ月以下の牛の検査頭数は少なく、必要な費用は年間100万円未満が全体の約60%に当たる26自治体であった。又100万円?500万円が16自治体であり、全体の約30%であった。金額的には自治体にとってさほど大きな問題では無いことも、全頭検査継続の大きな理由になったのではないかと考えられる。
質問Xの全頭検査継続期間の予定(回答44自治体):
- 全頭検査をいつまで続けるのかについては、40自治体が「未定」と答えている。「その他」と回答して3自治体の回答内容を見るとやはり未定を意味するものなので、43自治体が未定といえる。残りの1自治体は平成21年度末までと回答しているが、これも予算措置の話であって、22年度は実施しないのか未定である可能性がある。従って、全自治体がいつまで続けるのか決まっていない可能性が高い
3.まとめ
1)風評被害を恐れた横並び対策
アンケート結果から第1に指摘されるのは、全都道府県が「現在も国民が全頭検査を要求している」と判断していることです。
それ以外の理由は、北海道を除いては検査費用がそれほど大きくないことと、他の自治体と横並びにしないと批判を浴びるという読みがあったと考えられます。その背景には、国民の誤解を積極的に解くことについて利益がないこと、逆に全頭検査を継続するほうが有利という判断もあったと推測されます。実際に、5自治体が「自県産牛肉の振興」のために、そして2自治体は「生産者団体からの要望」があったことを理由に挙げています。
多くの牛は20ヶ月齢以上で食用になるので、検査月齢を20ヶ月以上にしてもいわゆるブランド牛はこれまで通り検査を受けるので、現実には何の影響もないはずです。しかし、「国民の間では、検査を打切ることへの漠然とした不安感が払拭されていない」という意見が代表するように、「全頭検査を止めた自治体や地域は信頼できない」と思われ、行政への風当たりが強くなることを懸念したと考えられます。
ただし、肉用牛の約半数が20ヶ月以下で処理される北海道にとっては、検査月齢が20ヶ月以上になると影響を受け、20ヶ月齢以下の牛の自主検査費用も大きくなります。
BSEのリスクは、飼料規制、すなわち肉骨粉の禁止の徹底により、年々低下します。適切なリスク評価を行えば、日本の検査月齢がOIE基準である36ヶ月齢以上、あるいはEU15カ国の基準である48ヶ月齢以上に引き上げられる可能性があります。
大多数の牛が30ヶ月齢以下で食用になるので、今後、検査が30ヶ月またはそれ以上に変更された場合にも自治体が全頭検査を継続する場合は、その負担金額はかなりのものとなり、全頭検査継続は大きな問題に発展することになることが予測されます。
2)説明をしない自治体
2番目に指摘されるのは、「牛の安全を守る前述の飼料規制に加え、牛肉の安全を守るのは特定危険部位の除去であり、全頭検査ではない」という事実を、説明会などを開催して積極的に広報しようとする動きがほとんど見られないことです。
十分な説明をしなければ、国民の誤解を解くことはできず、厚生労働省も「税金の無駄使い」と呼ぶ全頭検査をさらに続けることになることが懸念されます。
以上
アンケート集計結果
T. 厚生労働省が不要であると判断した20ヶ月齢以下の食用牛のBSE検査を継続している理由についてお答えください。(複数回答可)
A.牛肉の安全を確保する上で必要と判断したため | 3件 |
B.消費者が求めていると判断したため | 35件 |
C.20ヶ月齢以下の食用牛を検査からはずすと作業が煩雑になるため | 2件 |
D.20ヶ月齢以下の食用牛の検査費用はわずかであるため | 6件 |
E.他の地方自治体と違った判断を行うことが困難だったため | 18件 |
F.その他 | 19件 |
「その他」回答の詳細
○上記Eと似ているが、全国的な統一が必要との判断 3件
- 検査を継続している自治体産の食肉との差別化が懸念さえるため。
- 全国的に統一した取扱いが必要と判断。
- 県内自治体間で検査体制が異なる事による消費者への不安感が生じないように対応。
○現場の混乱防止と地元の牛肉の振興のため 5件
- 生産流通現場の混乱を防ぐため。
- 近江牛ブランドのイメージへの影響を避けるため。
- 県産牛の振興という点からも、BSE検査は牛肉の消費の維持、拡大に繋がる。
- 松坂牛や伊賀牛のブランド信頼の確保のため。
- 県産牛肉への風評被害を懸念。
○上記Bに似ているが、消費者ばかりでなく生産者等の要望のため 2件
- 生産者団体から要望を受けているため。
- 生産者、販売者からも継続の意見があった。
○牛肉の安心確保のため(上記Bに類似) 8件
- 牛肉の安全安心対策として必要と判断。
- 食の安全安心攻めの農林水産業の推進。
- 都民の安心確保。
- 県民(消費者)の食への信頼が十分に得られていないこと。
- 消費者の不安が払拭されていないと判断。
- 県民の安心確保。
- 国民の間では、検査を打切ることへの漠然とした不安感が払拭されていない。
- 県民の理解が得られないため。
○リスクコミュニケーション等の説明不足 3件
- 科学的に解明が十分にされていない部分があると判断。
- リスクコミュニケーションが不足しているため。
- 全頭検査打切りのための国の科学的根拠・知見に基づいた説明が不十分。
○食品安全委員会において、科学的評価がされており、20ヶ月齢以下の牛のBSE検査は必要ないと考える。 1件
U. 全頭検査を続行する理由を議会や都道府県民に対してどのように説明していますか?(複数回答可)
A.牛肉の安全を確保する上で必要と判断したため | 3件 |
B.消費者が求めていると判断したため | 34件 |
C.20ヶ月齢以下の食用牛を検査からはずすと作業が煩雑になるため | 1件 |
D.20ヶ月齢以下の食用牛の検査費用はわずかであるため | 3件 |
E.他の地方自治体と違った判断を行うことが困難だったため | 16件 |
F.その他 | 19件 |
「その他」回答の詳細は上記質問Tとほぼ同じ。 ただし、1件のみ「議会や県民に説明を行っていない」との回答
V. 全頭検査を続行する理由について、どのような方法で都道府県民に周知を図っておられますか?(複数回答可)
A.広報誌を通じて | 8件 |
B.記者会見などメディアを通じて | 10件 |
C.説明会を開催して | 2件 |
D.とくに行っていない | 13件 |
E.その他 | 19件 |
「その他」回答の詳細
○ホームページに掲載 9件
○議会を通じて 7件
○予算等の公表 2件
○県独自の委員会、リスコミ等で説明 6件
○知事が表明 1件
W. 20ヶ月齢以下の食用牛のBSE検査にかかる費用は年間でどのくらいと見積もっておられますか?
合計46自治体から回答があり、1自治体からは「算出方法が指定されないと、概算値の算出は困難」との回答
- 石川県、福井県、福島県は牛の屠畜を行っていないので、検査は実施していない。
X. 貴都道府県で昨年8月より開始されました20ヶ月齢以下の牛のBSE検査は何時まで継続されますか、次の該当項目からお選び下さい。
A. 平成20年度末(平成21年3月末)まで。 | 0件 |
B.平成21年7月末(1年間)まで。 | 0件 |
C. 平成21年度末(平成22年4月末)まで。 | 1件 |
D. 未定 | 40件 |
E. その他 | 3件 |
「その他」回答の詳細
- 当分の間(OIEで清浄国と認定された時等が転換期と思われる
- 未定であるが、当分の間
- 平成21年度は実施予定であるが、それ以降については未定
以上
■ 第一回メディアとの情報交換会「残留農薬、メラミン問題から食の安全を考える」2008年11月11日
2008年11月11日(火)、「食の信頼向上をめざす会」主催、「第一回メディアとの情報交換会」が、ベルサール八重洲(東京都中央区)で開かれました。残留農薬やメラミンを例に食の安全性に関するお話の後、意見交換が行われました。
「第一回メディアとの情報交換会」概要
1.日時 平成20年11月11日(火)14:00?16:00 2.会場 ベルサール八重洲 「ルーム5」
〒103-0028 東京都中央区八重洲1−3−7
八重洲ファースト ファイナンシャルビル3F 3.内容 14:00?14:40 演題:食の安全における残留農薬問題
講師:健康食品管理士認定協会理事長 長村 洋一 氏
14:40?14:50 演題:メラミン問題と食の安全
講師:食の信頼向上をめざす会 会長 唐木 英明
14:50?16:00 質疑応答及び意見交換 4.当会出席者 唐木英明会長、小出五郎幹事、伊藤潤子幹事 他
「食の安全における残留農薬」
鈴鹿医療科学大学教授 長村洋一氏はじめに
健康診断から検査入院した人が、急に体調をくずし、半年後に亡くなるケースがある。こういう出来事をきっかけに、健康診断のあり方を考えるようになり、「食と運動と心の健康」の研究を始めて今日に至る。
報道が原因で市民が大きな誤解をしていると感じるこのごろ。薬は副作用があるが体にいいものと思われているが、農薬は微生物や昆虫を殺す「毒物」だと思 われている。食品添加物は良い効果があるからある役目を果たすために加えられているのだが、。一般の人は、農薬と食品添加物は「毒」と捉えていることが多 く、その誤解を正そうとしている。
食の安全と安心
食の安全は科学の問題であり、食の安心は科学に裏付けられた心の問題である。国産は大丈夫とか、農薬・食品添加物はよくないとか、天然物は安全だと言う人たちが多いがこれは科学に裏付けられていない。
日本における食の安全・安心に関する誤解はすべて「量の概念」と「モラルの欠如」によって起きていると思う。
農薬とポジティブリスト
農薬とは、農業のために用いられる薬品のことで、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、ホルモン剤、誘引剤など、多種類ある。
昔使われていた農薬は毒性が強く、パラチオン(有機リン剤)を、裸で撒き始めた人がすぐに死んでしまった例もある。
農薬には、人間に害があるもの、虫と人に害があるもの、虫にだけ害があるものの3つがある。
農薬は危険だといわれるが、農薬による死亡事故は、本来の使用目的でない自殺か他殺によるものであり、通常の使用で死ぬ人は滅多にない。食中毒の原因の95%は微生物に起因しているのに、残留農薬を危険だと認識している市民が多い。
農薬の役割、危険性が一般市民に納得できるように説明すべきだが、それができていない。毒性は量で考えるべきだが、市民には判断の基準を与えられていない。なぜなら、メディアも行政もそういう量と作用の関係に関わる説明をしないから。
ポジティブリストとは
農薬、飼料添加物、動物用医薬品を対象としている。
国内で登録されていた農薬や登録のない農薬はCODEX基準を採用した。国内に登録がなく、国内登録があるときは登録保留基準を用いた。国内登録もCODEX基準もないときには一律基準(0.01ppm)を使い、まとめて、日本のポジティブリストができた。
ADIの決め方
ある農薬の最大無作用量決定のためにあらゆる試験を行い、農薬評価書が作られる。最大無作用量とは、全く影響が出ない量のことで、次のような試験が行われる。かなり厳しい試験だといえる。
動物体内運命試験、植物体内運命試験、
土壌中運命試験、
水中運命試験、
土壌残留試験、
作物残留試験、
一般薬理試験、
急性毒性試験、
目や皮膚に対する刺激性及び皮膚感性試験、
亜急性毒性試験、
慢性毒性試験及び発がん性試験、
生殖発生毒試験、
遺伝毒性試験、
その他の試験
一日摂取許容量(ADI)は最大無作用量に、種差(10分の1)と個体差(10分の1)の積(100分の1)を安全係数としてかけたもの。だから、基準 値の2倍でも、実際には科学的には安全性に問題はないが、「2倍もある、非常に多い、だから危ない」と思ってしまう。0.01ppmの2倍のお米を20年 食べ続けることより、1日に15gの食塩を取る方が健康には悪い。量を考えない毒性論はナンセンスであり、化学反応は分子が出会って起きるから、出会う確 率がほとんどないような分子は存在しないのと同じだといえる。
まとめ
日本の食の安全と安心問題は、「量の概念」と「モラルの問題」にまとめることができる。食物テロのことを考えると、最後に残るのはモラルの問題からもしれない。
まず、国民に量の概念を身につけてもらうような啓発運動が必要。だからこそ、食の安全を守り、国民の信頼を得るために、メディアから働きかけてほしいと思っている。
最後に、DDTの使いすぎによる環境破壊を訴えた「沈黙の春」(レイチェル・カーソン著)の発表後、DDTの使用が禁止された。しかし、DDTのおかげ で激減したマラリアの被害が再び増加してしまい、2006年、WHOは、室内でのDDT使用を推奨している。この事例から暮らしの安全について学ぶことは 多い。
「メラミン問題と食の安全」
食の信頼向上をめざす会会長 唐木英明氏- メラミンはメラミン樹脂の材料で、ヒトの致死量は150g(塩は200-300g)。 カナダとアメリカで犬猫がペットフードを食べて腎臓疾患で多く死んだ。メラミンの材料になるシアヌール酸とメラミンが共存すると、溶けにくくなり結石をつくったためだった。
- 中国では、粉ミルクの中にメラミンを多く入れたので、乳児が腎障害を起こし、亡くなった乳児もある。これは牛乳を水で薄めて、タンパク質の不足を ごまかすために窒素を多く含むメラミンを入れて、タンパク質が多く含まれているように見せかけていたためではないか、とWHOは発表している。
- 日本の厚生労働省はメラミンを食品添加物に定めることで、食品衛生法10条(無許可の食品添加物を利用してはいけない)で、取り締まれるようにし、この問題に対応している。
- メラミンのADIは日本も含め多くの国で2.5ppmとなっている。粉ミルクとペットフードで腎障害が起こったのは、赤ちゃんは粉ミルクしか飲ま ず、ペットはペットフードしか食べないためで、大人はいろいろなものを食べるので被害者は出ていまい。赤ちゃんにだけ、1.0ppmの基準を設けている国 もある。
- 厚生労働省は食品添加物としてのメラミンに対して0.5ppmという基準を作った。
- しかし、ここにふたつの基準が出来たために、市民にわかりにくくなってしまった。2.5ppmだけでよかったのではないか。
■ 『食の信頼向上をめざす会』の設立総会を開催 平成20年9月29日
詳細
平成20年9月29日東京都新宿区の日本青年館国際ホールで「食の信頼向上をめざす会」の設立総会が開催されました。
当日はあいにくの大雨となってしまいましたが、消費者を始め食に関わるる様々な分野の方々に大勢参加していただき、会場は満席の状態となりました。皆様の注目度の高さに、責任の重大さを感じ、身の引き締まる思いがいたします。
設立総会の冒頭では、東京大学名誉教授である唐木英明当協会会長より設立の経緯について1時間に渡りスピーチが行われました。
スピーチの前半では、日本における食品安全の現状を解説するとともに、消費者の不安の原因と対策に言及し、ヒューリスティックな消費者の対応の問題や、専門家と一般人のリスク認知の違い等を解説しました。
さらに、最近の食品偽装や食品への有害物質の混入問題等の実例を挙げて、報道や専門家の意見に左右されやすい市民感情に対して、正しい知識や情報の 伝達を行い、食品をめぐる誤解や非科学的な対応をなくす必要があり、このため「食の信頼向上をめざす会」は、科学的な根拠に基づいた健全な関係を構築する ために活動を展開するとまとめました。
その後、会は、質疑応答や、参加者による食の安全についての議論へと進み、会の活動に期待する声や励ましをいただくとともに、消費者その他出席者からは、食の安全を求める様々な声が伺う事ができました。
皆様からの励ましや期待で「食の信頼向上をめざす会」の出発にふさわしい一日となりました。
当日のプログラム
○は出席者の質問・意見 ●は幹事の回答・意見
食品添加物について
○ 無添加と書くなら、無添加が優れている理由を書くべきではないか ○ 食育の活動をしている。食品添加物は体に悪いというニュースしか届いてこない。近く、の地域センターでお話する機会があるが、食品添加物は安全だと言った方がいいのかしら。 ● 食品添加物の安全性を知らせるのが仕事。全く危険がないとはいえないが、昭和30−40年代に比べて食品添加物の規格が厳しくなり食品添加物による健康被害は30−40年間事故ゼロ。でも不安を感じている人がいて残念。異常な使い方をしないかぎり、一生食べ続けて安全なものだけが厚生労働大臣に認可されている。一方、新しい技術で検討して天然色素のアカネが使用禁止になった。これから我々も順法していきます ○ 「無添加」表示は食品企業の戦略として使われているが合法的。これは消費者を混乱させている。この会も健全な対立関係の前に企業の連合体として取り組むべき立場があるのではないか。食の信頼向上を目指す会について
○ コンプライアンス(消費者を裏切ってはいけない)が大事。無添加表示、有害食品添加物ということば小売りのイメージ戦略ではないか。なぜ使われているのかを知ってもらえるような活動をしたいと思う。 ○ この会で扱うべき問題がいっぱいある。この会が力を持つ必要ではないか。店や食品にラベルを与える会になるのか。この会の方向性を示してほしい ● 本会は格付けを行うつもりはない。リスクについての知識の共有が一番の目的。 ○ メディアです。この会の資金はどこから出るのか。企業バックはどうですか。冷凍食品事件のときにメーカーはなぜ黙っていたのかという思いがある。語れるときに語れる部分は語るべきではないか。 ● 資金は皆さんのご支援によるので、是非、会員になってください。メディアと対立するつもりはない。メディアウォッチするグループもあり連携していきたい。 ○ 情報提供は進んでいるのに信頼が落ちてきている。食品安全委員会の立場は規制と違反、安全。リスクアセスメントの成果が行政に活かされていないと思う。正しいマネージメントが行われているかもこの会で考えてください。アセスメントにはお金がかかり、負担する企業は厳しい状況。消費者の要求が高まると企業は成り立たなくなることも出てくる。この会では経済性の議論も含めて検討してください。 ○ 入り口で名刺を出すように言われたが、一般市民は名刺がないので、消費者も巻き込むならば、そういう心遣いも必要ではないか。 ● 名刺のない方のブランクカードを用意してあったが、申し訳ありませんでした。 ○ この会主催のメディア勉強会にも一般市民を入れてほしい。その他
○ 20ヶ月以下の世界の基準と日本のBSEの状況の矛盾をとりあげてください?? ○ こういう会は行政がすべきだと思う。 ● 厚生労働省から来ました。7月から食品の安全性に関する懇談会(代表 唐木先生)を月に1回開催。いろいろなグループでやっていくのがいいと思っている ○ その会の議事録を読んだ。一般消費者も入れてほしい。公募委員の枠を作るとか。 ● 消費者団体の代表は加わっている。一般消費者というと誰が該当するのか難しい。傍聴してください。 ○ 傍聴では意見がいえない。 ○ 昔の性善説が崩れ、現代は性悪説となり規制強化につながる。規制が厳しくなると食の安全に対しても個人が五感を使って評価しなくなる。さらに、行政が説明すると正確さを期す為にわかりにくくなる。本当に危険なときとそうでないときの区別がつかなくなってくるのがこわい。本当に避けるべきことがわかる情報提供がほしい。最後に(事務局)
いろいろな方からの忌憚のないご意見をいただくことができ、メンバー一同より御礼申し上げます。年内には11月初めにメディアとの情報交換会を開催予定です。HPでご案内いたします。どうぞお出かけ下さい。